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第三話 「Welcome to 未知!!」

 

 ―――《夢の間》―――


 ―――おいお主。


 ああ、お前か。

 久しぶりだな。あの日以来か。


 ―――うむ? わらわのことが恋しかったのかの?


 んなわけねえだろ疫病神が。

 あれから俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ。


 ―――知っておるよ。

 わらわはお主の一部。お主そのもの。

 お主の知ってることはわらわも知っておる。

 逆に、お主の知らんことも、わらわは知っておる。


 何が言いたい?


 ―――お主、いつまで嘘を吐き続けるつもりじゃ?

 そのままでは、大切なものを守れないぞ。


 嘘なんて吐いてねえよ。

 俺はいたって誠実だ。


 ―――お主の理性は凄まじい。

 が、それでは気付けない。

 それでは守れない。


 ……お前の言うことはいつも曖昧でよくわからん。


 ―――気付け。お主の本当の渇望を。

 あの日に沸き上がった感情を。

 シナリオはすでに決まっておる。

 お主がその命を散らす、バッドエンドは定まっている。

 その運命に抗いたいのなら。

 時に人間性は捨てねばならぬ。


 だから分かんねえって!!

 もっと具体的に……って、おい!


 彼女の姿は消えていった。

 結局彼女は何者なのだろう。

 夢の中の話。

 そう割り切るべきなのに、

 俺の胸の中で、不安が今でも渦を巻いている。

 この焦燥感を払う手段を、俺はまだ知らない。











 ―――《現実》―――



「――きて、――起きて、ノアくん」


「…………んぁ?」


 透き通るような声に導かれて目を覚ます。

 俺たちは、鍋をつついた後、一度睡眠をとったのだった。

 魔力や闘力の消費に気を付けるのは当然だが、それ以上に俺たち冒険者にとって要注意するべきは、ステータスに表示されない「気力」というものであった。

 これがなければ、魔物を狩るどころか、薄暗い迷宮内を探索することすら覚束なくなってしまう。

 ゆえに、睡眠こそ冒険には最重要。

 探索の状況によっては取れないこともあるので、こういった安全地帯を見つけた時なんかは、しっかりと眠るのだ。

 魔石の回収や、必要物の運搬を考えれば、そうそう寝具など持ち運べまい。いつもなら、硬い地面に我慢して眠るから、寝起きには首のあたりが少し痛いのだが……。

 今は、その痛みをまったく感じなかった。

 代わりに、頭にはやわらかく、温かな感触があった。

 朦朧としていた意識が完全に覚醒すると、優し気な笑顔でのぞきこむ、レインの姿があった。


「って、な、何してるんですか!?」


 俺は跳ね起きた。


「何って、膝枕だよ? ノアくん好きだったでしょ?」


 何が悪いの? とでも言いたげな様子であった。

 五歳の頃の話だろ!!

 俺は反論しようとしたが、彼女は遮るように言葉を続ける。


「ね、少しだけ、話そ」


 焚火の方を指さすレイン。

 俺は彼女の後ろに付いていった。

 迷宮の土は特殊で、魔法で起こした火ならば、燃え移ることはない。

 ゆえに、暖をとったままにしておいても、問題はない。

 ちらりと見ると、焚火の近くでモグリとカルマが気持ちよさそうに寝ていた。


「おや、二人とも早いですね」


「そういうシルヴァはさすがね。今日は私が一番だったと思ったんだけど」


 見ると、シルヴァはすでに起きて趣味の読書に耽っていたようだ。


「おはようノア」


「お、おはようございます」


 シルヴァは長い銀の髪を伸ばし、眼鏡をかけた、知的な魅力のある男であった。纏っている大人な雰囲気は、特有の余裕のようなものを感じられる。


「ノアだけに話そうと思ってたんだけど……そうね、シルヴァにも話していなかったし、ちょうどいいわ。二人には話しておきましょう」


「レインさん、「話」ってなんですか?」


 俺が問うと、レインは腰をついて口を開いた。


「私とモグリ、それからカルマの、「戦う理由」ってやつだよ」



 ―――



 レインは語りだした。懐かしむように、ゆっくりと。

 レインとモグリ、そしてカルマが出会ったのは、レインの故郷であるダルデリア皇国の学校だったらしい。その学校はリテンブルグの魔法騎士養成学院と似たような場所で、魔法と剣術を学ぶことができるのだとか。成績の良かった三人はすぐに打ち解け合った。卒業と同時に、三人はパーティを組み、国を出た。旅立ったのは十五の春だったという。

 旅の道中、焼け落ちた建物の中で息をしていた俺を助け、それから今に至るのだという。


「国を出るのも、随分と悩んだものだけどね」


「と、言うと?」


「「理由」にも関係するんだけどね。私の弟、難病なの。医療費を出し続けるには金が要る。だから私は冒険者になった」


 言いながら、焚火を眺める彼女の視線は、ここではないどこか遠くを見つめているようであった。俺はどうしたらいいのか分からず、おろおろしていると彼女はふふっと笑った。


「こら。そんな困ったような顔しないの。別に冒険者が冒険する理由にしてはむしろ定番といっていいほどのものでしょ? モグリも似たようなものだし」


「え? モグリさんも?」


「モグリは……出身が貧しくてね。十歳の頃にダルデリアに移って、働きながら学校卒業して……、加えて料理はできるし……あいつは私なんかよりずっとしっかりしてるわよ」


 視線を外すと、モグリが「フガ」と寝息を立てて寝返りをうつ。むにゃむにゃと口元を緩ませている。それを見て、三人で笑った。


「じゃあ、その……カルマさんは?」


 聞くと、言い辛い、というよりも、説明するのが難しいといった様相で、レインはふむと悩んだ。


「うーん。アイツはちょっと特殊だからなぁ……なんと言ったらいいか……」


 うんうんと頭を揺らしているレインの後ろにヌッと現れた影があった。驚く間もなく、彼は渾身のチョップをレインの脳天に繰り出した。


「いてっ」


「おい糞レイン。なーに勝手に人様の事情話してるんじゃボケ」


「えーいいじゃん。カルマのけちー」


「プライバシーの侵害だ」


「ぷらいばしー? よくわかんないけど、ま、レインくん、つまりこういうことだよ」


「どういうことです?」


「時折よく分からないことを口走るよく分からない存在、それがこのパーティのリーダー、カルマという男だということさ!」


 眉間にしわを寄せていたカルマは、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。レインの首ねっこを掴んで持ち上げていた。レインは「うへえ」というおよそ成人女性らしからぬ声を上げて悶えていた。そんな彼を俺がい(・)つ(・)も(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)(なだ)める。……俺が抜けてこのパーティは本当に大丈夫だろうか。



 ―――



「な、なるほど……【転生者】……カルマさんが」


「お? お前まだ信じてねえな」


「というか、私もモグリも、その件に関しては半信半疑だよ。ノアくんも話半分くらいに聞いとけばいいからね」


「うるせー、お前はお口チャックつっただろうが!!」


 カルマがレインの口を抑え込んだ。もごもごジタバタとするレインであったが、その実、楽しそうである。やはり二人は仲がいい。


「ま、俺も転生してきてびっくりしたんだよ。あまりにも以前の世界と酷似してるからな。これじゃあ転生してきたって証明がどうしたってできねえ」


「と言いますと?」


「大半の料理は似たようなもんあるし、定番の魔法調味料マヨネーズもあるし、電子機器の大半が改造した魔石で似たようなもん作られてるし……。違うとこといったら、こっちにはモンスターとダンジョン、それに魔法があるってことくらいだな」


「ほう、それは興味深いですね」


 話を見守っていた大人なシルヴァも食い気味だ。

 シルヴァは回復術師(ヒーラー)だけでなく盗賊(シーフ)も兼ねている。

 新たな発見、知識には目がないのだ。


「逆に、あちらの世界にしかないものはないのですか?」


 問われた質問に対し、カルマは少し考え、すぐに応えた。


「こっちにもないってわけじゃないけど。サブカルはあっちの方が盛んだったな。漫画とかアニメとかゲームとか……もっと詳しく聞く?」


「ええぜひ」


 知識欲に溢れたシルヴァはカルマを質問攻めにした。カルマは実に嬉しそうにニヤニヤしながら答える。というかなんか(よだれ)出てるし、貧乏揺すり止まらないし……カルマさん、もしかして前世ではそういうことが大好きな人種の人だったのかしらん。

 はたと横を向くとむくれっ面になったレインがつまらなそうにしていた。話についていけないのだろう。

 俺? いやあ、だって俺も男の子だし、ね。そんなワクワクすることに興味湧かないと思う? 湧かないわけないんだよなあ。

 というわけで、明らかにレインだけ仲間外れな状態となって、会話は進んでいった。



 ―――



「……いい加減、機嫌直してくださいよレインさん」


「べっつにーー? 私だけ仲間外れにして楽しそうに話してたのが羨ましいとか? これっぽっちも思ってないしー? 話してたのは私とノアくんだったのになあ!! とか? 全然思ってないし!!!」


 うわあ、面倒くさいなこの人。


「うわあ、面倒くさいなお前」


「何で口に出して言っちゃうんですかカルマさん!?」


「良いんだよ。てか、当初の目的は達成できだからいいだろ?」


「……カルマさんの戦う理由、「世界の謎を解き明かす」でしたっけ?」


「ああ」


 カルマはグッと拳を握っていた。

 小さな子供が夢を語るように、心底嬉しそうに彼は夢を語る。


「なんで前の世界と似てるのか。魔物とは何なのか。ダンジョンとは何なのか。大体、ダンジョンの階層ごとに明らかに人が通るための階段があるのって、おかしくないか? 考えだしたら止まんないんだ。だから、俺自身がその真理に到達してみせるんだ」


 炎剣のカルマ。

 その熱にあてられたから、きっと俺たちはここまで来れたのだろう。

 今日を持って俺はここを去るが、彼のことを忘れることはおそらくない。


「はいはい、恥ずかしい話はこれで終わりってことで。モグリ起こして朝食取ったら、攻略の準備始めるよ」


「おい、俺の夢を恥ずかしい話でまとめるな糞レイン! 大体なんでお前が仕切ってんだよ!」


「ふーんだ。私のこと無視してたクソリーダーのことなんか知らないよーーだ」


「やっぱりお前根に持ってんじゃねえか!」


 あれやこれやてんやわんやと夫婦喧嘩で騒ぐ二人を尻目に、


「では、私はコーヒーでもいれますね」


 そう言って、シルヴァは銀の長髪をゴムでまとめて調理台の方へと向かった。

 こんなときでも冷静なシルヴァさんさすが! と思ったが、どうせならその冷静さで二人の喧嘩を収めて欲しかったよ……。

 ()()()俺は胃が痛い……。



 ―――



 モグリを起こして、朝ごはんを食べて、今日の作戦について話し合って。

 俺たちは安全地帯を抜けた。

 階段を下り、次なるフロアへと足を踏み入れた。

 未踏破領域第五十層。十層ごとにボスと呼ばれる大型モンスターが生息している。

 つまりは、正念場だ。


「ねえ、ノアくんはどっちだと思う?」


 曖昧で的を射ない質問。

 けれど、それで俺には伝わってしまう。


「残念ですけど、(ドラゴン)だと思います」


「うへえ、そりゃ大変だ」


 言葉とは裏腹に、彼女は嬉しそうだ。

 四十九層は、竜人の住処であった。

 であれば、五十層目のボスモンスターは、同じ竜種であろう。

 大型の竜人レベルなら苦戦はしないが、竜ならば話は別だ。


「お二人とも、私も支援しますがくれぐれもお気を付けください。

 無理はいけませんからね」


 冷静、かつ優しいシルヴァの声に、


「はいはい、わかってるわ」


 レインはやれやれといった様子で応えた。


 (ドラゴン)

 巨大な体格と顎、翼を持つ化け物。

 口からは炎を吹き、鋼鉄の鱗で覆われた体表は傷をつけるのも一苦労だ。

 街に近づいた際は、魔法騎士一個小隊で確実に始末しなければならない。

 冒険者風情では、大半は歯が立たないのだ。

 かく言う俺たちも、まだ竜とは戦ったことがない。

 けれど、俺たちは冒険者だから。


 未知や強敵こそ、望むところだ。


 階段を下った先。

 四十層までのボス部屋は大仰な扉を経だった先にあった。

 けれど、このフロアは全く異なる様相をしている。

 階段の先にあったものは、白き道であった。

 大きなそれは螺旋状に渦巻いており、その先はどこまで続いているのか分からない。

 この道は、今までの層という概念からは逸脱している。

 どこまで……何層までこれが続いているかは分からないが、しばらくは安全地帯にも期待できそうにない。

 白道に足を踏み入れ、螺旋の中心に行き、下を(のぞ)く。

 そこには暗闇が広がるばかりであった。

 そして、皆の方を振り向くと。

 頭上に魔法の炎で文字が浮かび上がる。


『Welcom to the spilal road!!』


 その文字が消えた途端、

 先ほどまで何もいなかったはずの天井から――、

 白道を塞ぐように、赤い竜が()()()()()


 俺の運命を変える戦いが始まった。
















 ―――



 ステータス

 名前:カルマ・エイオス

 種族:人間

 称号:【転生者】【A級冒険者】【炎剣】

 年齢:25歳

 魔力:A

 闘力:S

 魔法:《炎系魔法(上級)》

 剣術:連撃流(上級)

 スキル:エクストラスキル『イメージ力増加』

 耐性:炎耐性B



 ステータス

 名前:モグリ・ポッド

 種族:人間

 称号:【A級冒険者】【大盾】

 年齢:25歳

 魔力:B

 闘力:B

 魔法:なし

 剣術:連撃流(中級)

 スキル:『盾防御スキルA』『料理スキルA』

 耐性:なし



 ステータス

 名前:レイン・アルテミラ

 種族:人間

 称号:【A級冒険者】【魔女王】

 年齢:25歳

 魔力:S

 闘力:D

 魔法:《炎系魔法(上級)》、《水系魔法(上級)》、《雷系魔法(上級)》、《土系魔法(上級)》、《風系魔法(上級)》

 剣術:なし

 スキル:なし

 耐性:なし




 ステータス

 名前:シルヴァ・アンヘル

 種族:人間

 称号:【A級冒険者】

 年齢:25歳

 魔力:A

 闘力:E

 魔法:《回復魔法(超級)》、《索敵魔法(上級)》

 剣術:なし

 スキル:『鑑定スキルS』『盗賊スキルS』

 耐性:なし













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