表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第二十四話 「消えない恐怖」

 


 ―――ララ視点―――



「ノア――――――――――ッッ!!」


 白蛇の突撃を喰らい、奴と共に落下していくノアを見て、私は思わず叫んだ。

 穿たれた大穴に向かい、走り、近づく。

 届かないと知っていながら手を伸ばす。

 その手が、彼に触れることはなかった。


 そして、眩いほどの光が、私の視界を満たした。


「うッッ!?」


 何事かと思い、手で顔を塞ぎながら後退する。

 しかし、攻撃ではなかった。

 迷宮に穿たれた二つの大穴。

 それらが修復していたのだ。


「あぁぁあああっ!!」


 私は大穴があった場所に、何度も拳を打ち付ける。

 血が飛び散り、痺れるまで殴りつけても、修復された地面が壊れることはない。


「――――ッ!!」


 右腕を構え、炎球(ファイアボール)を放とうとするも、

 途中で、残酷なまでの冷静な思考が戻ってきてしまった。


「……私が落ちたって、死ぬだけだわ」


 彼のように『再生』の能力があるわけじゃない。

 それに、白蛇には魔法を無効化する力がある。

 能力の有効範囲は体全体で、

 通用するとしても眼や牙といった、鱗で覆われていない部分だけだろう。

 私が駆けつけても、彼の足手まといになってしまう。

 そこで死んでしまったら、彼までの命も危険にさらさせてしまうかもしれない。

 ノアは、優しいから。


「すぅ、はぁ」


 一度、深く深呼吸する。

 ノアの足を引っ張らないためにも、まずは自分にできることをしなければ。

 生き残るために、頭を落ち着かせて考えるのだ。


 まず、どうして大穴が塞がったのか。


 迷宮は生物のような側面を持つ。

 魔物が一度死んでもリポップし続けるのも、その所為だという。

 つまりこれは、迷宮による自動修復といったものだろう。

 通常戦闘で壁や床が傷つくくらいでは私たちは気付かない。

 そういった傷は、もしかしたら遅れて再生しているのかもしれない。

 が、この大穴は迷宮にとって想定していなかった事態に違いない。

 だからこそ、優先して修復したのだろう。


 いや、もしくは――――、


「あの白蛇が、仕組んだこと?」


 あの、龍の如く巨大な白蛇の力は驚異的なものだった。

 公開していたスキルだけでも、

『石化』を放つ光線、『魔法無効化』の鱗、『再生』。

 もっと隠している能力だってあるのかもしれない。

 放つ圧や、殺気の鋭さも凄まじいものであった。

 これらのことから奴が下層から強襲してきたフロアボスであることは明確であった。


 そして、それが意味するところは、奴がこの迷宮の最終ボスであるということだ。

 迷宮にはまだまだ謎が多い。

 そういうことができる存在があったとしても、不思議ではない。


「だとしたら……」


 仮説ではあるが、

 奴の目的は、私とノアを分断することだったのかもしれない。


(私を、警戒している?)


 その可能性もなくはない。

 私が所持している魔力量から、

 過大評価をしているということはあるだろう。


 もう一つ、考えられることとしては、

 奴が私など歯牙にもかけていないという可能性だ。


 もし、目的はあくまで圧倒的な力を持つノアだけで、

 私には一縷もの魅力も感じていないのだとすれば、


「そこに、勝機はある」


 奴を倒すにはたった一つの方法しかない。

 それを果たすために、

 もしかしたら私の力が戦況を左右するのかもしれない。


 私の考察が正しければ、

 奴の意識に少しでも私の存在を印象付けられたら、勝率はぐんと上がる。


 思考しながら歩いていると、下層へ続く階段を見つけた。

 まるで、このフロアには魔物など必要もないとでも言っているかのようだ。


「…………よし」


 いつまでもノアの足を引っ張るわけにはいかない。

 ノアの力に少しでもなれる可能性があるのなら、

 私はなんだってやってみせる。



 決意とともに、私は次の階層へと足を進めた。





 ―――



「はぁっ、はぁっ、痛ッ!」


 左腕からツーっと血が滴る。

 先ほど魔物に傷つけられていた箇所だ。

 一瞬、道具で回復しようとしたが、

 数分前の失敗を思い出し、周囲への警戒をする。


「どうやら、いないみたいね……」


 安全地帯(セーフティエリア)も見つからないので、

 近くの岩場に身を隠し、一時的な休息をとる。


 ミニチュア形式にしていたポーションの容器に魔力を流し、

 通常サイズに戻すと、それを一気にぐいっと飲み干す。

 全身の痛みが引いていく。切り傷もほとんどが修復したようだ。

 とはいえ、これも十回目。

 ポーションの残基は、残り十といったところか。


「このペースはまずいわね……」


 94層のフロアも、何かテーマがあるというわけではなかった。

 93層付近と変わらず、出てくる魔物の強さが大きく変化したわけでもない。

 迷宮を操作する権利が、白蛇、もしくは何者かにあるのだとしたら。

 かつて勇者だったと名乗るあの男が居た90階層以降は、

 もしかしたら冒険者が攻略してくることを想定していなかったのかもしれない。


 今までの傾向からして、そろそろ94層も攻略目前だといったところだが、

 いかんせん交戦が多すぎる。


 索敵魔法、さらには殺気を察知するエクストラスキルまで所得したノアと違って、

 私には探索用で使える能力や魔法はない。


 加えて、急がなくてはならないという焦りの所為か、

 身を隠しながら探索したとしても、

 今までと比べると倍以上のペースで魔物と遭遇している。


 さらには、一瞬でも集中の糸が切れてしまったばかりに怪我を重ねる始末。


「私って、ほんと駄目……」


 もっと強い自分でいたい。

 憧れた人のように、強くありたい。

 そう思うのに、私は弱いままだ。

 この迷宮に迷い込んでから、重要なところでは彼に頼りっぱなしで。

 彼がいない今は、ただただ寂しくて、辛い。


「それでも、いかなくちゃ」


 今でも、立ち上がる理由を、戦う理由を彼に預けている。

 私は弱いから、こうやって彼に依存することでようやく正気を保っていられる。


 私は自嘲的な笑みを浮かべながらも、

 このままではいけないと立ち上がろうとした。


 しかし――――、





 からん。





「――――ッ!?」


 その音を聞いただけで、

 私は身の毛がよだち、鳥肌が立ち、震えながら岩陰に体を引っ込ませた。


「はっ、はっ、はっ……」


 心臓の音がやけに煩い。

 息も切れ、思考がまとまらない。

 そんな中でも、



 からからから。



 その音は近づいてくる。

 そのたびに恐怖が私を支配する。

 迷宮内に相応しくないその音の正体を、私は知っていた。


 首無し親子。

 エルフのような人型の魔物であり、

 簡素なベビーカーの上に首無しの赤ん坊を乗せ、

 首無しの母親は迷宮の至るところをうろついてまわる。

 目撃情報は少ないが、その魔物の存在は有名だ。

 曰く、迷宮に一体は彷徨っている。

 曰く、その首無しの顔にのぞきこまれた者は、迷宮から戻ってこれなくなる。

 そして――――、


(体が、動かない!?)


 金縛りにあったように、筋肉が張り詰めて動かない。

 これも、『首無し親子』の特性だった。

 他の魔物と異なり、精神を喰って生きている彼ら彼女らは、

 強力な『恐怖付与』のスキルを持っている。

 そして奴らは大体、精神的に弱っている相手の前に現れるのだ。


(動いて……動いてよっ!!)


 声が出ず、

 心の中で叫ぶも、足は動かない。

 からからという音が鳴るたび、動悸は激しくなり、

 恐怖は加速していく。


 私は俯き、息を殺した。

 動けないなら通り過ぎるのを待つしかない。

 岩陰に隠れ、ガタガタと震えながら、奴が私を気づかないことを祈った。


『あーうー?』


 赤ん坊の声にビクリと震える。

 動悸が煩いが、目を瞑り、顔を下に向けることでなんとか我慢する。

 十秒、

 二十秒、

 三十秒。

 カウントしていると、いつの間にか音はしなくなっていた。


(何とか窮地は去ったようね……)


 ほっと一息を吐く。

 精神を喰らう魔物である『首無し親子』は、

 迷宮ではもっとも出会ってはならない存在だ。


(次からは、もっと気を付けないと)


 そう思い、顔を上げたとき。










 …………首の取れた赤ん坊は、そこにいた。


 首から上はなく、

 代わりに黒い糸くずのようなものが固まってできた球体のようなものが浮遊している。


 目だけで後ろの方を向くと、そこには赤ん坊を抱える母親の姿があった。

 そうだ。途中で気付くべきだった。

 音がしないなら、ベビーカーなど放置しているということ。

 すでにターゲットを見つけていたという可能性を。


 母親は、まるで自分の子に乳を上げるような仕草で、

 私の顔面に、赤子の顔を近づけてきた。


 赤子の顔、その黒い糸くずが伸びてきて、

 私の頭と眼球に入り込んでくる。

 血は出ない。

 ただ、本来入ってはならない場所に、

 異物が入り込んでくる感覚はあった。


 記憶が、見られたくないものが、

 見られる感覚がある。


「やだ……やめて、私の中に入ってこないで……」


 声に漏らしたのは、そんなみっともない言葉だった。

 涙が頬を伝って流れ落ちていく。


「嫌ぁ、嫌……っ!」


 子供のように泣きじゃくる私を見て、




『きゃはははははははははははははははははは!!!』





 首無しの赤子は嬉しそうに嗤っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ