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第二十二話 「急転直下」

 

 見上げる先で浮かんでいるソレは、神秘そのものであった。

 瞳はルビーをそのままはめ込んだかのような美しさを持っている。

 迷宮内の僅かな光源である青白い炎に照らされているが、

 幾万の鱗が発する色は白。

 体長は100メートルは超えんとするほどであった。


『シャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 叫び、白蛇の瞳が謎の銀の光を発する。

 俺は咄嗟に避けようと『電光石火』を使うも、タイミングが遅かった。

 ピシピシィ!

 音がして、見ると両足は石に変わっていた。


「――――くっ!?」


 途端に足が自分のものではないかのように重くなり、

 勢いもあって、俺は頭からこけた。

 口の中に砂利と血が入りこんで、気持ちが悪い。

 嫌悪感とともに、骸骨の剣士が言っていたことを思い出していた。

 これが、石化能力か……っ!


炎球(ファイアボール)!!」


 彼女の甲高い声がフロアに響く。

 空気を抉るような音。

 俺はそれを聞きつつ立ち上がった。

 ララが気を引いている内に、足を切り取り『再生』を――、

 そう思ったが、それは叶わなかった。


 パキン。


「な、んで……?」


 彼女の戸惑う声。

 俺にも、いや、誰にも想像できないようもない結果だった。


 白蛇には傷の一つもない。

 ララの放った炎の魔法は、消されたのだ。

 ガラスが割れるような、呆気のない音を出しながら、

 白蛇の鱗に触れた途端、炎は無かったことにされたのだ。


 奴はララを横目で見た後、

 そして、天井すれすれまで飛翔した。

 ルビーの瞳は、俺のみを射抜いていた。


『シャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 音の圧と、殺気だけで吹き飛ばされそうになる。

 いや、吹き飛ばされた方が楽だったのかもしれない。

 奴は牙を剥き出しにして、俺を噛み殺さんと突っ込んできたのだから。

 真上からの襲撃に、俺が回避することは許されない。

 足が石化しているからである。

 受け止める以外に策は無し。

 俺は両の手の剣をクロスさせて対抗する。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ぶつかり合った剣と牙の衝撃は迷宮に地震を発生させた。

 ビリビリと痺れる腕、足。

 電流のように全身を迸る衝撃は、筋繊維を引きちぎり、

 骨をすり潰す勢いである。

 血涙が出るほどに歯を食い縛り、

 俺は耐える。耐え続ける。


炎球(ファイアボール)!!」


 後方のララが叫ぶ。

 魔法は効かないのでは? と思ったが彼女の狙いは違った。


 ボゥ!


 俺の双剣(一つは鍵、以下略)に炎が灯り、赤く燃え上がる。

 味方の前衛職の武器や装備に魔法を付与する、付与魔法。

 ララは炎球以外使うことはできないが、

 その類まれなる制御力とセンスで、炎球を付与魔法へと昇華させたのだろう。


 本当に、彼女は凄いやつだ。


 指向性のある炎は双剣を後押しし、奴の牙を押し返す。

 それだけではない。

 魔法無効化のスキルが鱗のみの特性なのか、

 牙はしっかりと炎魔法の影響を受けているようだった。

 白蛇の牙が、ララの炎により、確かに損傷し始めている。


「いっけぇぇぇええええええええええええええええ!!!!」


 押し返せる! と確信していた。

 奴の牙を見れば勘の良いララならば気付くはずで、

 そうなれば、さらに攻撃力は上がる。

 突撃を跳ね返せれば、ララと連携してこの場で仕留めることも可能だと、

 そう思っていた。

 が、それは単なる幻想であった。


『ぬるい』


 最初、それは幻聴だと思った。

 だって、奴の牙はここにあり、

 奴はその顎門(あぎと)を開けているのだから。

 だが、声は確かに現実のものであった。

 そしてその法則に外れた発声こそが、

 奴が神の位に位置する存在だということの証明であった。


「――――な、に?」


 常識外のことがもう一つ。

 それはそれが当たり前であるかのように行われた。

 誰よりも動揺してはならない俺が、

 一番理解することを避けたくなる、現象。


 奴の牙が『再生』した。


 炎蛇のような雑魚魔物ならばまだいい。

 だが、BOSS級の魔物、それも『石化』を付与する光線と、『魔法無効化』の鱗を持つ魔物が、受けた傷すら『再生』する――?


「化け物がッ!」


 俺は思わず吐き捨てた。

 こんな相手に対して対抗策などほとんどないだろう。

 ただ一つあるとすれば、それは削りきることだ。

 奴が『再生』できなくなるまで、何度も攻撃をし続けること。


 それが無理難題だということは分かっている。

 けれど、この命を諦めるという選択肢だけは、ない!


「ララ!」


「ええ!」


 双剣に込められた炎。

 その火力が上がっていく。

 彼女が、調整しつつ、魔力を上げているのだ。

 その技術力には、脱帽せざるを得ない。

 赤から青へ、噴射される炎の色は変わっていく。

 今、二人で可能な最大限の抵抗をした。

 ――――だが、


『落ちよ』


 奴は毅然と、そう言い放った。

 そして、その意味するところを、

 俺はコンマ数秒後に知ることとなった。


 体が宙を浮いていることに、気付いたのだ。


 足元の土には亀裂が入り、足はすでにぬめりこんでいたのだ。

 それが、奴の牙と俺の剣が重なったその衝撃で、破壊された。

 足場を無くした俺は、奴の力に抵抗することができない。

 剣を交差させ、防御するが、

 奴の突撃の勢いが止むことはない。


「ごっ、がッッ――――――――はっ、あぁッ!?」


 93層の地面を貫通した俺は、一層、また一層と叩きつけられては地面を破壊され、

 一直線に落ちていく。

 内臓が破裂し、全身の骨が砕ける。

 何とかして『再生』を行使し続けるが、

 少しでも気を緩めてしまえば、気絶してしまうだろう。

 気絶してしまえば、もう死ぬしか道はなくなってしまう。


「ノア――――――――――ッッ!!」


 彼女の叫び声が耳に届いて、消えていった。

 とっくに届く距離ではないと知りながら、俺は手を伸ばした。


 その手は、ただただ空を切るだけであった。



 ―――



 視界が真っ白の光に包まれたとき、

 俺は直感で、ここが最後のフロアだと確信した。

 突撃の衝撃の中、俺はそのフロアの地面に右手を伸ばす。

 指先に魔力と闘力を込め、放つ。

 光速移動スキル『電光石火』で、俺は弾かれるように、フロアの側面まで瞬間移動した。


「――――――がッ、ごぽっ、うぇぇえええ」


 血を吐く。

 内臓の『再生』が甘かったか。

 俺は即座に『再生』し、石化した両足を黒鍵で切り落とした。


「ぁぁぁああああ!!!」


 叫びで痛みを誤魔化しながら、俺は両足を『再生』した。


 落ち着け。


 俺は心を落ち着かせる。

 大丈夫だ。まだ死んではいない。


 状況を確認しよう。


「…………」


 落ちて、落ちて、落ち続けて。

 俺が最終的に辿り着いた場所は、地下神殿のような場所であった。


 大きな柱が乱立している。

 中央には祭壇がある。

 そしてそのどれもが、紛うことなき黄金で出来ていた。

 床も天井も、この空間を構成するすべては黄金。

 不自然なことに、炎も何もないにも関わらず、

 一定の明るさが保たれている。

 と、周囲を確認していると――、


 ぬるり。


 意識の外から、奴は現れた。

 その赤眼が捉えるものは、俺ただ一人。


『ここで死んでもらうぞ、男』


 身震いするほどの、殺気。

 それのみで、気を失ってしまってもおかしくはない。

 だが、


「嫌だね。お前が死ねよ」


 そんな理不尽、

 俺には通じねえ。


 ああ、本当に。

 嫌になるほどに、理不尽ってやつは俺を苦しめる。


 俺から散々大切な物を奪っておいて、

 また、ようやく大切を見つけたと思ったら、

 今度は『死んでもらうぞ』だと?


 笑わせるな。

 俺は生きる。

 生きるんだよ。

 生き残って幸せになるんだ。

 彼女と共に、幸せになるんだ。


 俺から幸福の可能性を奪おうってんなら、

 奪ってやるよ、お前の命を。

 奪われる前に、奪いつくしてやる。


 決意を込めて、奴を見据える。

 俺と白蛇を挟んで、空中に炎の文字が浮かび上がる。


『Welcome to the last floor!!』


 続いた地獄の終着点。

 ここで、全てを終わらせる。



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