表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第十四話 「ゴーストバスターズ!」

 

「それじゃあ行こうか、先へ」


「ええ!」


 決意を確かめあった俺たちは、空間の歪みをこえ、安全地帯(セーフティエリア)の外に出た。

 そこを出ると、腐った肉のような臭いが鼻をついた。

 そういえば、と思い起こす。


「ねえノア。ここっていったい何階層なのかしら?

 私ここに突然放り込まれたから知らないのよね。

 最下層は百層だから、それから逆算して予定を立てたいのだけど」


「え、えっと……悪い。分からないんだ。というか忘れた」


「は、はぁ!?」


 俺は彼女に説明した。

 力を求めて下り続けたこと。

 その間の記憶が、ほとんどないこと。

 話を聞いたララは呆れたようにため息を吐いた。


「あなたねぇ……!

 焦る気持ちも分かるけど、まずは自分の命を優先しなさい!

 そうしないと、すぐに死んじゃうわよ!

 死なれたらこっちだって後味悪いの! 死ぬの禁止! 分かった!?」


「…お、おう。すまん」


 俺は苦笑しながら返答する。パーティでのことを思い出すように。

 自分のために。

 死なないために力を求めた。

 けれどそれも、理性で制御できなければ、死期を早めるだけだ。

 当たり前の事実の前に、糾弾された俺は赤髪の少女に頭を下げた。

 すると喧しい音に感付いたのか、肌が崩れ落ちそうなゾンビや、漂う白いゴースト、骨だけで動くスケルトン等の亡霊系魔物が集まってきた。

 数は軽く五十は超える。


「……っ! 来たわね!」


 彼女は腕を構える。

 考えれば、俺がここに到達する前にも彼女は戦闘をこなしていたのだ。

 ここの階層が亡霊系魔物の住処だということも、事前に知っていたわけだ。

 俺は彼女に遅れを取らぬよう、黒鍵を構え、駆けだした。





 ――― ララ視点 ―――



 私は小中高とエレベーター形式で学院に通っていた。

 炎球しか使えなくて、今年入った高等部の卒業は怪しいけれど、学業は怠らなかったし、何より魔力ランクSSSというのも幸いして、才能集まる学院に居続けることができた。

 魔法騎士養成学院には、様々な学生が存在する。

 個性的な面々だが、彼らを大きく分けると、魔術師型と、剣士型に別れる。

 私は当然魔術師型だったけれど、剣士型にも凄い実力者たちは目にしてきた。

 けれど、そんな彼らと、目の前の少年の強さの質は、異なるものだと確信した。


(……想像以上ね!)


 視線の先にいる少年は、たった一つの傷も負わず、魔物共を駆逐していた。

 動きに一切の迷いがない。

 本能だけで動いているような荒々しさがあるのに、選びとる選択肢は、すべてが最良のものだった。

 学院で学び、鍛錬してきた強さではない。

 死地を経験してきた、確かな力の蓄積。

 彼の強さの根幹は、そこにあるのだと思った。


「私だって……!」


 私は腕を構え、巨大な赤の魔法印を四つ顕現した。

 射程を定め、狙う方向を定める。

 威力を決め、速度を設定する。

 そして唱える。


炎球(ファイアボール)炎球(ファイアボール)、ファイアボーール!!」


 いくつもの炎の球が直進し、彼の後方から襲っていた標的の頭を打ちぬいた。

 百発百中。

 周囲の敵を倒し尽くした私は、心の中でガッツポーズをし、彼の元へと駆け寄った。




 ――― ノア視点 ―――



開錠(アンロック)


 戦闘が終わり、俺は黒鍵の能力でチカラの回収を行った。

 魔石が砕け散り、吸い込むように欠片が黒鍵の中に入り込んでくる。

 多少の酩酊と、高揚。

 力が上昇する。


 ――スキル『恐怖付与C』は『恐怖付与B』に成長しました。

 ――魔力、闘力が上昇しました。


 ふむ。

 新しいスキルがいつのまに追加されていたようだ。

 そのスキルは段階を超えて成長している。

 しかし、魔力、闘力のランクアップは五十以上の敵を倒しても行われなかった。

 ランクが高すぎるのだ。おそらく、階層主レベルの敵でなければ、もう成長しないだろう。

 不安であり、不服ではあるが、気にしていても仕方がない。


「へ~~! あなたの能力って本当にあんなとんでもないものだったのねっ」


 俺が悶々としていると、ララが話しかけてきた。


「私、宝具って存在しないものだとばかり思ってたわ!」


 彼女は本当に驚いているようだ。

 身を乗り出して俺の宝具を見つめている。

 オタク気質なところがあるのか、爛々とした瞳を腕に近づけてくる。少しこそばゆい。

 それもそのはず、宝具所持者など、世界に数人といったレベルの話だ。それを十五のガキが使いこなしているなんてこと、普通ならばありえないだろう。

 黒鍵に染みついた血を払うために、俺がそれを振ると、もう一人の女の子(?)の声が聞こえてきた。


「ぬぅ……! お主、わらわ以外の女とイチャイチャしおって……!

 口を挟むに挟めんかったじゃろうが!」


 怒気を含んだ声と共に、黒鍵は霧となり、メフィーが現れた。


「い、いいいいいいい、いちゃいちゃ?」


 呆気に取られるララ。

 徐々に顔が赤くなってくる彼女をフォローするように、俺は応えた。


「別にイチャイチャはしてないだろ。

 というかだから勝手に出てくんなよババァ。

 あの姿のままでも会話できるだろうが」


 メフィーは「むかぁぁ!」とわざわざ声に出して反論の構えをとる。


「な、ん、で、わらわにだけ当たりが強いのじゃっっ!

 あとわらわはババァじゃないわ! ピチピチの十五歳なのじゃっ!

 訂正するのじゃ~~~~~~~~~~~~~!!!」


 怒り、俺に掴みかかってきたメフィー。

 だが、俺を押し倒すことは叶わなかった。


「あなた……めちゃくちゃかわいいじゃない!」


 俺に突撃したメフィーの体は、いつのまにかララによって抱擁されていた。


「髪はツヤツヤだし肌はスベスベ! 羽根はふわふわっ!

 妹に欲しいわ~~~!

 超かわいいわ~~~~~~~~~っ!!」


「の、のじゃ!?」


 抱き寄せ、頬をすり寄せてくるララに、抵抗していたメフィーだったが、


「のじゃ~~……」


 徐々に力を失っていった彼女は、鍵の姿へと戻った。

 ふむ。

 彼女を黙らせるには、ララがちょうどいいのかもしれない。



 ―――



 黒鍵の姿に戻ったメフィーを携えて、俺はさらに下の階層へと向かった。

 今のフロアが把握できない限り、下ったら即、ボスの部屋、だなんて可能性もある。

 俺はその旨をララに伝え、慎重に周囲を警戒しながら下って行った。

 降りると、

 そこは雷王獣と戦った場所のような、大きなフロアであった。

 階段が随分と長く、

 天井が、迷宮内とは思えないほどに、高い。

 完全に下りきると、


「ウォォォオオオオオオ!!」


 低く、唸るような声が迷宮内に響いた。

 音の発生源を見る。

 そこには、モクモクとした雲のようなものが、一か所に集まっていた。

 それは一つの形を成していく。

 巨人となる。

 クラウディゴースト。

 雷王獣ほどではないが、希少で、難敵ではある。

 あれがフロアボスなのだろうか。

 いや、それにしては……。

 と、俺が思考を巡らしていると、ララが指をさして言った。


「ノア、あれを見て!」


 指の先を見やると、そこは遥か上。

 クラウディゴーストの頭を指していた。

 そこにはキラリと光る魔石の姿がある。

 そう。

 奴が難敵である理由はただ一つ。

 その巨体さと、特性ゆえの生存能力の高さだ。

 俺は考え、足に闘力を込める。

 壁を駆け上がり、跳躍して魔石を断とう、という判断だ。

 しかし、俺が姿勢を取ろうとすると、ララは手でそれを制した。


「いつ次の安全地帯が見つかるか分からないわ。

 あなたは温存してて!

 私に任せてっ!」


 言ったララは右腕を前方に構える。

 そこには四つの巨大な魔法印が、等間隔に縦一列に並んでいた。

 向く方向は、先ほど指さした遥か上。


「あ、あそこを直接狙うつもりか!?」


 ほとんど空の雲を撃ち抜くほどの距離だ。

 ありえない、と思ったが、彼女の才能を思い出した。

 魔力ランクSSS。

 それだけの魔力があれば、可能なのかもしれない。

 四つの魔法印、そのうちの一つが大きくなり、一つが縮む。

 調整しているのだ。

 魔法、とくに攻撃魔法は魔力を四つの要素に分配して成立している。

 威力、射程、速度、精度の四つだ。

 ほとんどの魔術師は、それらを感覚的に調整する。

 が、極まれに、それをすべて緻密に操作する者もいる。

 彼女もその一人だ。

 彼女はその魔力を持って、一つの魔法に四つの魔法印を構築している。

 魔法名の詠唱でイメージを固定。体外魔素と魔力を混ぜ、魔法印を構築することでイメージを具体化し、放出の想起で魔法を撃つ。

 人によって詠唱と魔法印構築は前後するが、これが基本的な魔法の発動パターンだ。

 そして彼女はそれを、より高精度に、そして贅沢に行うことができる。


「ファイアボーーーールッッ!!」


 炎の弾丸は空気を抉り、ただ一点を目指して放たれた。

 魔物の声など、聴くこともなかった。

 ぐしゃり。

 上空でその音が鳴ってから、すべては終わった。

 雲は霧散し、視界が晴れる。


 灼熱のようなツインテールが一度跳ねて靡く。

 彼女は振り向きながら、挑戦的な笑みを浮かべてきた。


「どんなもんよっ!」


 そう言って、小さな胸を反る彼女。 

 俺はただただ唖然とした。

 そして歓喜した。

 彼女ほどの実力者が、仲間になったという事実に。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「な、ん、で、わらわにだけ当たりが強いのじゃっっ!☆  あとわらわはババァじゃないわ! ピチピチの十五歳なのじゃっ!☆  訂正するのじゃ~~~~~~~~~~~~~!!!」 例えばこの文です…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ