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第十二話 「第80層BOSS・雷撃駆ける王の獣」

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 叫びと共に、地響きが鳴る。

 放たれる雷は無軌道的だ。

 無数の稲妻が青く光り、フロアを埋め尽くす。

 俺は隙間を掻い潜るように避ける。

 奴はお構いなしに巨大な爪を振り下ろす。


「――くっ!」


 地面が盛り上がり、土煙を舞わせるほどの威力のそれを、直接受けるわけにはいかない。

 さらに、雷王獣の爪は常に帯電状態だ。

 うかつに黒鍵で防いでしまえば、感電は避けられない。

 つまりは、俺は奴の攻撃を避け続けるしかないというわけだ。

 だが――、


「くそっ! こいつ、速すぎる!?」


 奴は15メートル程ある体型でありながら、距離を詰めるときは一瞬であった。

 おそらく、電流を闘力のように流し、加速に使っているのだろう。

 さらには音を消す何らかのスキルによる攪乱だ。

 奴は音を消すスキルをランダムで使い、接近する。

 これに雷撃での加速スキルも加わると、本当に厄介だ。

 敵は音を消し、光の速度で接近する。

 俺は後退を繰り返す。

 その中でできる反撃の手立てをたてた。


水球(アクアボール)!」


 まっすぐ直進、停止のイメージで魔法印を構築。

 魔力を操作し、想定通りに動いた水の弾を敵の顔面で停滞させる。

 窒息を狙ったのだが、


「GRUU」


 顔を覆うほどの水で囲んだにも関わらず、奴はそれをすべて飲み込んだ。

 これ以上の威力のものを作り出そうとすると、隙と時間を与えてしまう。

 この戦法では勝てない。

 奴の目がギョロリと動き、俺を捉える。

 俺は即判断し、地を駆けた。

 使うスキルは『透明化』。

 これで奴は俺を認識できないはず!

 そう思っていたが、雷王獣たる奴には、そんなことは関係ないようだった。


「ZIGAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 咆哮、雷撃。

 乱立する雷柱による範囲攻撃だ。

 先ほどよりも威力は弱く、けれど、より広範囲に渡る攻撃。

 駆けだしていた俺の肩に、雷撃が(かす)る。

 痛みと共に、『透明化』のスキルが強制キャンセルされる。

 再び奴の瞳が俺を捉える。

 巨大爪が踏みつぶさんと襲い掛かる。

 が、立ち止まってもいられない。

 俺は闘力を操作し、床を蹴った。

 空中で二度反転。風とワルツを踊った俺は回り込みうなじに目掛け刃を振るう。


 ギィィィィイイイイン!


「――は?」


 弾かれた?

 黒鍵はかなりの切れ味だ。

 今までの戦闘で刃が通らないなんてことは一度もなかった。

 俺の心の具現化である以上、刃毀(はこぼ)れもしないはず。

 弾いた剣の先の首、やつの体表の光り方には、覚えがあった。


(雷光石……)


 武器や生活用品の生成にも使われている、高硬度の鉱石であり、魔力を持つ魔石の一種。

 その硬さは、鋼鉄のようだとか。

 魔力を持つ電気石のそれは、発電の道理や仕組みをすっ飛ばして、それ自体が発電能力を持つ。

 日用品の電力を必要とするものすべてに、それは使われている。

 僅かな量でかなりの発電を行うそれは、非常に希少である。

 雷王獣の生体は謎が多い。

 もし、それを捕食しているとしたら……。

 そして、思考のまとまらない俺は気付いた。


 すでに、奴の体が真下にはないことに。


 音を消すスキルと、光速移動のスキル。

 奴はすでに10メートルほど離れた位置で立っていた。

 そして音もなく、()(たけ)びを上げているようであった。

 またも俺は一瞬遅れて気付く。

 細目の雷柱が縦に奔り、

 右耳が消滅し、右肩に穴が空いたという事実に。

 焦げ落ち、血すら流れない。

 俺は咄嗟に黒鍵を左腕に持ち替えた。

 もう、遅かった。


「ぐはっ――!」


 衝撃とともに、俺は真反対の壁まで吹き飛ばされた。

 奴はすでに目と鼻の先まで接近しており、その爪を振りかぶったのだ。

 爪により、肌は抉れ、血がどろりと流れ出した。内臓の拍動さえ、空気に触れて激痛を伴いながら感じられる。


「ごほっ――か、はっ」


 口からもせりあがってきた血を吐いた。

 体内から零れだした血で周囲には血溜まりができている。

 俺はなんとか意識を保ち、スキル『再生』を発動するも、死を意識せずにはいられない。

 スキルランクAならばまだしも、Bならばこれほどの致命傷を回復するのに三十秒は要する。

 奴は高速移動のスキルを有している。追撃されれば即死は免れない。

 もし、奴の攻撃を避けられたとしても、こちらに反撃の手段がない。

 刃で傷つけようとしても、奴の鋼鉄の体表には歯が立たず、刃が立たない。

 傷は塞がりかけている。

 けれど、いくらスキルで再生しようとも、その痛みを忘れることはない。

 痛みはある。そしてそれは、認識として、記憶として、俺に確かに刻み込まれる。

 明確な、死の予感。

 ああ、怖い。

 怖い怖い怖い。

 立ちすくんでしまう。もう、これ以上は――、


「いや、いやいやいや!」

 

 俺は頭を振り、脳を揺らし、自分の顔面をその拳で殴る。

 無理やりにでも奮起させる。

 そうだ。

 俺に恐怖があるように、

 弱点のない生物などいないはずだ。

 俺は、もう諦めないと誓った。

 死ぬわけにはいかない。俺が幸せになるために。

 奴を殺さなければならない。俺が幸せになるために。

 考えろ、考えろ、考えろ。

 俺が警戒しつつ、思考を巡らせていたそのとき、事態は動いた。


「――?」


 奴は目を血走らせ、涎を垂らし、体表を赤く変色させていたのだ。

 ダメージはそれほど与えていないはず。だとしたら怒ってああ成っているわけではない。

 だとしたら、考えられる要因は――、

 俺の頭の整理が終わる前に、奴は駆け出した。

 高速移動のスキルは使わず、音を消すスキルも使用していない。

 まるで我を忘れたかのようだ。

 加え、帯電もしていない。消費が激し過ぎたのだろう。

 俺は闘力を足に込め、その場から緊急離脱する。

 再生能力により、すでに体から流れ出す血は止まっているようだ。内側がまだ修復しきれていないのと、右耳、肩は未だ再生していないが、文句を言っても仕方がない。

 俺は奴の動向を一時も見逃さなかった。

 奴は俺と地面にできた血溜まりを見比べて逡巡した後、

 ぺろぺろと舌でそれを舐めだした。

 必死にそれを舐めまわす奴の姿に、


「見つけた」


 俺はニヤリと不適な笑みを向けるのであった。



 ―――



 血を呑み終わった奴は冷静さを取り戻したようだ。

 奴が視線をこちらに向ける。帯電能力はまだ取り戻せていないらしい。

 ここが、好機だ。

 足にありったけの闘力を込める。

 スキル『再生』ですでに欠損箇所は修復している。

 俺は目線を奴から離さず、時間も与えぬままに跳躍した。


「AAAA!!」


 接近は許さないと、奴の巨大爪が再び風を切る。

 俺は空中で天を仰ぎ、右足を地面に振り下ろしてブレーキをかけた。

 目前で爪と地が接触し、土煙が舞い上がる。

 条件はクリア。


「さあ、始めようか」


 俺は自分の左腕を切り裂いた。

 血が滴るそれを思いっきり投げる。

 その流れで黒鍵を地面に突き立てる。

 

 先ほどまで左腕が繋がっていた場所に、


炎球(ファイアボール)+水球(アクアボール)


 炎の球で焦がし止血。水の球体で臭いを密閉する。

 土煙が消える前に、俺は『透明』になる。

 俺は天井に張り付き、状況を確認した。

 奴は思惑通り、俺の左腕に夢中のようだ。

 しゃぶりつき、肉を喰い、血を堪能している。

 十秒、二十秒、三十秒――、

 奴が食べ終わる前に、俺の左腕は『再生』した。


「ふははっ」


 俺は天井から落ち、奴の首元に足を回して両腕で頭の(たてがみ)を掴む。


「AAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 さすがに異変に気付いた奴も振り落とそうと激しく動くが、もう遅い。

 俺は両手で奴の顔面に触れると、静かに口を開いた。


「終・わ・り・だ」


 スキル『溶解』。

 食性植物の魔物から奪ったそれを使い、奴の顔面を溶かした。

 目も、鼻も、口も、全部一緒になる。


死ね(アクアボール)


 奴の顔面を冷却した。

 奴が呼吸手段と状況判断能力を失ったのを見届け、俺は離脱した。

 当然、奴は暴れ出した。

 けれど、奴の目には、もう俺の姿は映らない。

 攻撃しようにもあたるわけもない。

 俺は黒鍵を取り戻し、奴からできるだけ距離を取った。

 いつ、放電能力を取り戻すか分からないからだ。

 奴は呼吸できなくなり、苦しくなったのか、自分の爪で自分の口を取り戻そうと顔面に攻撃していた。

 だが、それも無駄である。

 奴の体表は、()()()()()()()()

 一分、二分、三分――。

 しばらくすると、暴れることもなり、王の獣はその動きを止めた。

 バシュンという呆気ない音と共に、灰となって消える。

 ごそ、と青く綺麗な魔石が落ちる。

 俺はそれに黒鍵を向け、


開錠(アンロック)


 略奪を遂行した。

 強大な力が流れ込んでくる。


「ふははははははははははははははははははははははっ!」


 

 俺はまた、生き延びたのだ。

 俺はまた、勝ち「獲った」のだ。








 ――雷耐性Cを獲得しました。

 ――スキル『電光石火C』を獲得しました。

 ――スキル『放電C』を獲得しました。

 ――スキル『無音C』を獲得しました。

 ――スキル『再生B』の熟練度が上昇しました。

 ――スキル『再生B』は『再生B+』に成長しました。

 ――魔力、闘力が上昇しました。

 ――魔力B+は魔力B++に成長しました。

 ――闘力B++は闘力Aに成長しました。

 ――以下、ステータスが更新されます。



 ―――

ステータス

 名前:ノア・グランド

 種族:人間

 称号:【C級冒険者】【反逆の覚醒者】

 年齢:15歳

 魔力:B++

 闘力:A

 魔法:《索敵系魔法(中級)》、《炎系魔法(中級)》、《水系魔法(中級)》

 剣術:連撃流(中級)

 固有(ユニーク)スキル:『略奪』

 獲得スキル:『透明化B』、『再生B+』、『超嗅覚B』、『溶解B』、『電光石火C』、『放電C』、『無音C』

 耐性:炎耐性B、雷耐性C




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