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 個人的にそうあってほしいと願う。私の不器用な性格では幸せを掴めない、色々な苦労をさせたくないのが親心と言うものだろう。アリアの性格を引き継いでいる部分もあるのだろうが、私みたいな男ではなく、きちんと幸せにしてくれるような男性を選ぶべきだと。




 そう伝えても、耳を貸さないのがツミキなのだ。骨が折れる作業だ、説明をすると言う事も、導ける所まで連れていくと言う事も……。




 会話はツミキの言葉で終わり、私は何も返答をせずに静寂を選ぶ。嘘つきと言われても、どう思われようが、私にも意思というものがあるのだ。譲れない部分は譲らない。もう少し大人になれば、理解してくれる可能性もあるかもしれないが、アリアでさえ融通が利かなかったから、未来がどうなるのか見えない。それもそれで楽しい人生だ。




 私には出来なかった人生経験を積む作業を楽しみながら、歩んでもらいたい。まだ今の現段階では伝えるべきではない。私が生きている間に、色々と気付いてくれたらいいのだが、果たして、それも、夢のまた夢なのかもしれないのだから。




 「さて、そろそろ帰ろうか」




 切り出すのは私の言葉だ。何もなかったように、会話を無視して、方向性を変えていく。ツミキは不服みたいだが、渋々ついてくる。本当素直な子に育ってくれた。




 (愛しているよ)




 言葉として出せないからこそ、心で音楽お奏でるように、呟く。美しい旋律は夕暮れを誘い、夜へと誘う。これが二人の日常で、新しい幸せの形。そう思ってくれていたら、私も幸せだ。きっと天国のアリアもそれを望んでいる。




 『帰ろ、パパ。今日のご飯は何?』




 いつものように子供としてのツミキに戻ったmにたいだ、ホッと案著しながら、微笑む。そうやって父として娘の手を繋ぎながら、今日はハンバーグだ、好物だろう?とご機嫌取りをする。アリアのお陰で、女の扱い方を学んだ私も青年から大人へと移り変わったのだ。それは嬉しく、少し恥ずかしい。心が疼きながら、酔いしれてみる。この空間の流れにそって。




 『お腹すいたー。帰ったらラブラブしようね』


 「……する訳ないだろう」


 『素直じゃないんだから』


 「はいはい。そんな事はいいから寒くなるんだから、早く帰るぞ」


 『はーい』




 本当二十歳になっても、いつまでたっても幼少の頃のままだな。ホウと息を吐くと、白く濁った心の毒素を吐くように、景色の一部に滲んでいく。家に帰ったら家事をしないといけないと考えていると、ツミキが、今日はあたしも手伝うよ、といつもなら絶対言わない言葉を伝えてくる。




 媚びてくるツミキの誘惑、仕掛けられそうな罠に怯えながらも、ああ、と一言だけ答えて、夕暮れの淡い色に包まれながら、家路に着く。タタタッと私の手を離し、家へと駆けこむツミキの背中がアリアと重なって見えてしまう。




 クルリと振り向き、パパ早く、と声をかける姿が昔を表現しながら、霞んでいくのだ。同じ目え見てはいけない、感じてはいけない、自分に言い聞かせながら、ゆっくり向かう私と、はしゃぐツミキが対照的に思えて仕方なかった。ガラガラと引き戸を開けると、広がるのは昔ながらの家の風景。




 私の家は、天保時代から続く、由緒ある家らしい。今では零落れ、一般の家となんら変わりないのだが、肩書と家柄だけは残っている、特殊な環境。応接間を入れると十か所の部屋がずらりと並んでいる。




 本来ならば応接間を客間にしていたのだが、ツミキ本人が、ここを自分の自室にしたいと願い出たので、自由に使わしているのが現状だ。座敷を客間にしているのだが、家の内部を囲んでいるガラス戸から毀れる風が寒さをより一層強化し、暖房を設備しないと、いけない位に、凍えてしまう。




 応接間は密接されているので暖房がなくても、寒さを感じる事は少ないから、上手に使っていたのだが、私はツミキには甘い故、どうしても拒否をする事が出来なかった。




 いや、私が拒否出来ないように、策を練ったのはツミキ本人なのだが、何故か憎めない。




 『ここがあたしのあたらしい部屋。好きなように使うよー』




 大切に、誰にもけがされないように、箱入り娘のように育てすぎたのかな?頭を掻きながら、困っている私を見て、不適な笑みをする娘には感服だ。言っても言う事を聞かないのなら、仕方のない事と諦めているところもあるから、仕方ないとしか言いようがないのだ。




 「好きなように使いなさい」




 私達二人しか住んでいない、この家は静かで、広すぎる。私が産まれた当時は、親戚一同が集まり、ワイワイと宴会をしていたくらい盛んだったらしい。祖父が亡くなってから、全ての環境が変化し、もう今では二人以外の血縁関係は途絶えているのだ。悲しいと言えば悲しいが、二人の、この空間を邪魔する人間が誰も存在する事ないからこそ、こんな好き勝手に過ごしていけるのかもしれない。

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