機関砲なら俺に任せろ
船の旅なら安全かと考えたアンシャルとダンカーだったが、激しい流れを下る川船に、魔物の群が襲ってくる!
積み荷の上によじ登っていてさえ、飛沫が顔を打つ。
流れが速い分船の動きも早いから、向かい風もひどいもんだ。
といってもそこまでは、嵐の時に馬を走らせるのと変わりない。
問題は船の揺れだな。
俺は高いところにいるから、余計に揺れが大きいわけだ。
いや、別に船酔いはしねえ。
問題は、つかまっていないといけねえって事だ。
つまり、手がそれでふさがっちまう。
思わず舌打ちした。
これじゃ意味がない。
当たり前だろう!
俺がわざわざ積み荷の上によじ登ったのはわけがあるのだ。
煙と馬鹿は高いところにのぼりたがるなんて言うが、もうひとつある。
見張りは高いところにのぼるんだ。
これは、陸でも水上でも変わらない。
そして、守るべきロサミナと、後方支援が専門のアンシャルに比べれば、やっぱりこういう事の専門は俺しかいないっていう事だ。
ここで魔物が出たら、昨日のように馬で突進するという事はできないから、射撃が便りとなる。
溜息が出た。
白状すると、俺の射撃の腕は並だ。
弾数を射てば当たるが、精密射撃なんて試すだけ無駄だ。
しかしあのアンシャルは、魔物があけた口の中に銃弾を叩き込んだ。
あれは偶然なのか、それとも射撃の腕がいいのか。
できれば腕がいいのであってもらいたい。
船が大きく揺れる。
ロサミナの悲鳴はさっきまで聞こえていたが、今は聞こえない。
ちらっと見下ろしてみたら、アンシャルがロサミナを支えているのがわかった。
おいおいおい。
ロサミナは美人だから、そうしてやりたくなる気持ちはわかる。
だけどそんな事をしてたら腕がふさがるじゃねえか。
どうすんだよ。
すると、言わんこっちゃない!
例の新型の魔物が、数匹群を作ってこちらをめがけてくるのが見えた。
「敵襲! 敵襲!」
アンシャルが銃を抜くのが見えた。
俺も銃を抜く。
くそ、野砲があればなあ。
アンシャルと船頭が口早にやりとりしているのがわかるが、何を言っているのかまでは、水音が凄まじくてわからない。
「ダンカー!」
おっと、呼ばれた。
アンシャルが銃で船尾の方角を指し示す。
なんだろう?
俺は銃を持ったまま、積み荷を覆う布の上を滑り下りた。
「船尾に機関砲がある!」
「了解」
なるほど。
こいつは民間船だが、魔物のいる土地を抜ける船だから、備えはあるという事だ。
俺は揺れる船の上を船尾へと走った。
甲板は濡れているから滑る。
何とか足をとられつつも、俺は船尾にたどりついた。
これか!
機関砲らしきものは、濡れないように防水布で覆われ、固縛されていた。こいつをほどかなきゃならねえのか!
俺はしゃかりきになって縄をほどいた。
覆い布をかなぐり捨てて、砲座に納まる。
こいつは原始的な砲だ。
目標を狙うのは完全に黙視かつ手動だ。
ぐん、と砲身を魔物の砲に向け、選択抓を「安全」からかちかちと「連射」に動かした。
これで討てるようになった。
「ダンカー! まだか!」
「今すぐ!」
「射て!」
俺は砲を発射する踏板を踏みっぱなしにしながら、両手で砲身の向きを保持した。
頼もしい射線が魔物に向かって伸びていく。
ありがてえ!
機関砲の方が当然弾がでかいし、威力も高いから、魔物は空中でふっとばされていく。
ばらばらになると端から塵となって消える。
いやっほう!
敵が爆散する光景ってのは気分が高揚するもんだ。
その時、アンシャルが射つのが聞こえた。
なんだって?
俺が見つけた群はこの機関砲で……。
なんてこった!
別の方角からも別の群が来やがったのか?
俺は最初の群をぶちのめすと、アンシャルが狙っている群を探した。
見えづらい。
船が揺れるのと、あげる水飛沫で、前方から来るやつはいいが、横手から来るやつはとても見つけづらい。
俺は目をすがめ、アンシャルが射つのを待った。
火線がのびる方向を探す。
あれか?
あれだな!
俺は体ごと砲身を振った。
こいつは機関砲だから、まあ形としては機関銃と同じだ。
だいたいの狙いをつければ、正確でなくとも的に当たるんだ。
俺は射った。
どんどん弾帯が砲に送り込まれていく。
この弾帯が終わるまでは連射できる。
終わったら……。ここには弾込めをする僚兵はいない。
つまりそこで終わりってことだ。
そもそも交換する弾帯があるのかすらわからないんだがな。
俺は狙いを定めるとぶちかました。
連射している間は俺の体にがんがん震動が伝わってくる。
それに耐えて、踏板を踏みっぱなしにした。
射線は保つのが肝心だ。
その時、急降下してきた魔物が俺の頭上に迫って来た。
くそぅ!
俺は砲身を支える射撃棹を片手で支える。くそ重い。
自由になった片手で剣を抜き、俺の頭をかじろうとした奴の口の中に剣をつっこんだ。
刃の周囲で敵は塵となっていく。
くぅ、砲を支えている左腕が丸太みてえだ。
俺は剣を納めずにそいつを口にくわえた。
魔物の残留物はいいのかって?
奴らは消える時にはきれいに消える。だから血や脂が残るという事はないんだ。
まあ、あれだ。
刃に塗る油の味はするさ。
それくらいは仕方ない。
俺は再び、砲の連射を魔物の群に叩き込んだ。