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参ったな、新型の魔物が出やがった

 ぱちぱちぱちぱちっ。

 周囲の樹々が音を立てる。

 俺の頬も不穏な風を感じた。

 かすっていったものもある。

 弾丸ではないようだが、かすった途端に頬がひりっとした。

 少しおいて、たらりと滲んだ血の雫が頬を伝う。

 くそ、いったい何が発射された?

 魔物がやったにゃ違いねえが、こんなのは初めてだ。

 魔物はほとんど、葉むらの影に隠れてやがる。

 なんとか、少し顔を出したところを狙って、俺は三射叩き込んだ。

 心地良い反動が掌に伝わってくるが、いつもほどの安心感はなかった。

 銃弾は命中したと思うが、魔物は頭を引っ込めただけで全く傷がついた様子がない。

 俺は身を低くしながら、あたりを見回した。

 馬は軍馬だから、さほど怯えていたりはしないが、そもそも馬というのは怯えやすい動物だ。

 これ以上攻撃がつのってきたら馬も制御しにくくなってくるだろう。

 他に魔物の姿は見えない。

 一体か?

 一体しかいねえのか?

 なら、こいつをなんとかすれば先に進めるよな? なんとかできりゃあな。

 それに、俺たちにはお荷物がひとつある。

 俺はアンシャルに手合図を送った。

[ 先に進め。俺が敵を惹きつける ]

[ 了解。できる限り援護する ]

 まあ、あのアンシャルは真面目な青年将校だ。

 俺が言わんでも当然お荷物を守る事を優先するはずだ。

 俺は馬腹を軽く蹴った。

 ぶるっと鼻を鳴らして馬は俺の合図に従った。

 うい奴。後で角砂糖をやるからな!

 俺は銃を腰の鞘に納めた。

 馬で走りながら射撃しても精密な射撃は無理だ。

 そもそもこいつは短銃だからな。狙うなら長銃とは言わんまでもせめて軍用の小銃が必要だ。

 さもなきゃ擲弾銃を寄越せっていうんだ。

 全くな、そういうものがきちんと支給されなかったから……ああ、だめだだめだ、厭な事を思い出しちまう。

 俺は剣を抜いた。

 魔物の姿が近くなってくる。

 こいつは初めて見た。

 首が長く、蝙蝠のような翼がある。

 いったいどうやってさっきの広範囲な攻撃をしやがったんだ?

 その解答はすぐにわかった。

 奴が翼をあげる。

 そしてくわっと口をあけた。

 吻なのか、嘴なのかはよくわからないが……。

 俺は馬を走らせながら、そいつの長い頸を思いきり剣で一撃した。

 ぎゃああっ、と悲鳴をあげて奴が口をもっと大きく開けた。

 射撃音がする。

 三発だ。

 アンシャルの射撃の腕がよほどいいのか、それとも運がよかったのか、魔物がどさりと枝から落ちた。

 それと同時に魔物の形がぼやけ、黒い塵となって吹き散らされている。

 俺は馬首を返した。

 鐙の上に立ち上がり気味に、前傾姿勢を取った。

 おい、馬よ。

 急ぐぞ。

 わかっているよ、角砂糖はふたつだな。


「や……やっつけたのですか」

「おそらく」

 アンシャルはそう言うと、銃を納めた。

 すぐにダンカーが追いついてきた。

「ご苦労」

「撃滅を確認」

 アンシャルは頷いた。

 馬の足並みを緩める。

 ロサミナの方から溜息が聞こえてくる。

 藁布団など、馬が歩いている時以外は役に立たないだろう。きっと、形の良い尻(アンシャルは少し紅くなった)が痛んだに違いない。

「大丈夫か」

 ロサミナも頷いただけだった。

 話す元気もないのか、それともダンカーを警戒しているのか。

 アンシャルは思わず笑みを噛み殺した。

「見た事もない奴だった」

 ダンカーが低い声で言った。

 アンシャルはまじまじとダンカーを見た。

「今日は砦まで行きたいと思っている。砦でなら、情報も集められるだろう」

 それまでは頭上も含めて警戒するしかない。

 本人にとってはどうかわからないが、ダンカーが部下として配備されたのには感謝する他ない。

 前身はどうあれ、ダンカーは優秀な部下だった。

「尻の具合はどうだ、間抜け」

「ロサミナ、だったら」

 ダンカーがじろりとロサミナを睨んだ。

 おまえなど間抜けで充分だ。

 視線がそう物語っている。

 やりすぎるなよダンカー、とアンシャルは目顔でたしなめた。

 ロサミナが貴婦人である事だけはわかっている。

 しかし、どのような身分なのかがわからないのだ。

 場合によっては、余計な敵を作る事になってしまうのだ。

 ここまでの間に、アンシャルは何度かロサミナの身元を尋ねた。

 しかし、はかばかしい答がない。

 単に言いたくないというより、隠さねばならないわけがあるようだ。

「砦まで行くのですか。どの砦ですか」

 あなたには関係ない。

 思わずそう言いかけたが、アンシャルは小さく吐息をついた。

「フォルト・ヴォルフバッハ」

 ロサミナが小さな声で砦の名を呟いた。

 そこは、村や町ではなく、魔物相手の防衛線上に建てられた、純粋に聖咒兵団の砦だ。

 だから、おそらくロサミナは知らないだろう。

 なんとかそこへ行き着きたいのは、魔物相手にかなり安全な場所だからだというのと、情報を集めるのに伝手(つて)があるからという理由だ。

 同期のひとりが、そこに配置されている。

「少し急がないと、日が暮れてくるな」

 唸るようにダンカーが言った。

 アンシャルの眉宇が曇る。

 そこが心配だ。

 日が暮れては危険度が飛躍的に上がるからだ。


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