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制圧射撃!

 窓を開けるといきなり強い風が吹き込んできた。

 こいつは蒸気機関車に引っ張られているわけだから、その風にはどうしても煤が混じってやがる。

 アンシャルがさっと目を細めて、長銃の照準器を覗き込んだ。

 俺はそのまま仁王立ちだ。

 どうせあんな精密射撃はできやしねえ。

 俺にできrのは、アンシャルの援護、それだけだ。

 風は快かった。

 この前、山の上で魔物に囓られたところが、どれも熱をもっていて不快だったが、そこに風があたるとうまい具合に冷やされる。

 ふいに、長銃の先端から青銀色の炎がひらめき、先頭の魔物の姿が揺らいだ。

 かしぎ、たちまち翼をすぼめて回転しながら落下する。

 いまだ。

 俺はぶっぱなした。

 狙いはどちらかというといい加減だ。

 俺の使命は援護。魔物が近づけられないようにする事だ。

 全弾射ち尽くす頃にはアンシャルが弾ごめを終わっている。

 俺は一歩退いて、座席にどさりと腰を落とした。

 アンシャルの奴は冷静だった。

 まあ狙撃手ってのはそういうもんだがな。

 またしても魔物が数匹、石のように落ちていった。

 俺は入れ替わりに立ち上がって、がんがんと射った。

 銃の反動が傷に響くが、今はそんな痛みを感じる事はない。

 戦いの最中はいつもそうだ。

 俺の弾で、魔物が一体落ちていく。

 当たった、なんて喜ぶ事はない。

 それは、俺のいい加減な射撃でも弾があたるくらい、魔物がさっきより接近しているからだ、と見るべきだ。

 クソ、全部で何匹いやがるんだろう。

 いきなり、吹き込む風の勢いが強くなった。

 ロサミナが運転士をうまく説得したんだろう。

 今は列車は狂ったように突き進んでいる。

 しかしな。

 これは、その分魔物に接近しつつあるとも言える。

 なんせ魔物の奴らはこちらの進行方向にあたる、円の四半分から飛来しているんだからな。

 それにもうひとつ、俺たちに不利な事がある。

 列車は速度をあげればそれだけ揺れるんだ。

「支えなくてもいいか?」

「まだ大丈夫だ」

 再び、アンシャルが撃ち放した。

 すかさず俺が替わって、小銃を速射する。

 くっ。誰かの熱い息がうるさい。

 いや、これは俺の息なのか。

 数日寝台に寝転がっていただけで、体力が落ちている気がしてならねえ。

 俺の射撃速度が少し上がる。

 まあ、上がったような気がする。

 アンシャルが射つのを待って、俺が立ち、射ちまくる。

 射ちまくるといっても、小銃に込められるのは四発だ。

 弾詰まりを避けるには、二発だけ詰めて余裕をもたせるしかねえが、そんな事は言っていられない。

 だから四発詰める。

 万が一にも詰まらないように、弾がまっすぐきちんと入るように気をつけてな。

 このあたりはまああれだ。

 練習だ。

 山のように練習すれば、体が自然に覚えるってやつだ。

「駅が近い。それまでにかたをつけるぞ、ダンカー」

 アンシャルが静かに言った。

 この局面で、なんてまあ冷静な奴。

 魔物の奴らの顔が今でははっきりと見える。

 げえ。マジ醜いぜ。

 あっちもそう思っているのか知れないがな。

 アンシャルが射った。

 俺がぶっぱなした。

 その時にはもうアンシャルが打ち始めていた。

 早い!

 俺も射った。

 あたりは風が吹き込んでいるのに、硝煙の臭いでいっぱいだ。

 いや、機関車の煤もあるのかな。

 ともかく、いがらっぽい臭いだ。

 いいのはたちこめる煙がその都度吹き払われるってことだ。

 俺は短銃も抜いた。

 小銃はぎりぎり片手で扱える。

 両手に伝わってくる反動、震動、そして痛み、これがアンシャルと俺せいいっぱいの制圧射撃だ。

 俺は荒い息をついていた。

「ダンカー、ご苦労」

 え?

「もう、駅につく。魔物は撃退した」

 そ、そりゃあ良かった。

 俺はどさっと座席に……ロサミナの藁布団の上に体を投げ出した。

 列車の速度が緩んでいくのがわかる。

 それでも、駅に滑り込んだ時には、もの凄いブレーキの音とともに、列車はがたんと停まり、激しく揺れた。

「くそっ」

 俺はまだ開いていた窓から身を乗り出した。

 ああ……。

 客車の一部が脱線してやがる。

 速度を出しすぎていたから、急ブレーキでこうなったんだ。

「脱線はひどいか」

 こいつ見ていないのに、なんで脱線したとわかるんだ?

「いや。大したことはねえ。これなら死人も出ていないはずだぜ」

「そうか」

 アンシャルはハンカチを取り出すと、悠々と顔を拭った。

 そのハンカチがすぐ真っ黒に染まる。

『ダンカー。それでも兵士(ゾルダル)か。身だしなみを調える」

 ちょ、ちょっと待てよ!

 俺は慌ててあちこちを探した。

 ハンカチなんて気の効いたものは持ってねえんだよ!

 ようやく雑嚢から、何に使ったんだか思い出せない布を引っ張り出して顔をざっとぬぐった。

 真っ黒だ。

 そうか、俺の顔もこれだけ黒買ったというわけか。

「よし。座れ」

 ぎこちなく座ろうとすると、アンシャルが自分の隣をさした。

 ああ、そっちね。

 すると、それを見計らったかのようにロサミナが戻ってきた。

「ここまで戻るのが大変だったのよ。途中の客車が……ねじれていて」

「脱線したんだ」

 アンシャルが一言で説明した。

「そ、そう」

 ロサミナも少し毒気を抜かれたような顔で返事をした。

「それで、魔物は?」

「撃退した」

「そ、そう」

 ロサミナも腰を下ろした。勿論藁布団の上だ。

 ほどなく車窓がまわってきた。

「お怪我などはありませんか」

 そう言いながら車掌は俺を見やがった。

「この兵士(ゾルダル)の怪我はもとからだ。気にしなくて良い」

「そうね。傷が増えてる様子はないわ」

 くっそぅ、そんな補足をしなくてもいいだろ!


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