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影魔の書  作者: CLOCK
第2章 とうかメモリー
6/6

我が妹 時雨 冬火

001

現在の状況を理解するにあたって少し僕の妹の話をしよう。


名前は時雨 冬火。中学二年生の少女だ。寒いんだか暑いんだか分からん名前だ。


彼女は常に元気ハツラツで大人しくしているのは病気で寝込むときぐらいで、だからこそ今回夢見矢から聞いた話は納得せざるを得なかった。


あいつ最近どっかに出掛けてると思ったらここに来てたのかよ。


冬火はよく心霊スポットなどの人がいない様な場所に一人で行くので不思議は無かったが、訪れた場所がこの廃墟だったことが問題だ。


ミル曰くこの廃墟はもともと影魔が生じやすい場所だったらしい。


影魔は人に存在を信じられることで生じるがここには信じられなかった、いわゆる中途半端な影魔が集まっているのだと言う。


危険だ、僕はミルからこの話を聞いた直後にそう思った。


僕のように影魔と契約を結ぶのでさえかなりのリスクを背負うと言うのに夢見矢の場合みたいに影魔に精神支配をされてしまったらどうしようもない。


夢見矢のときは結果的に偶然が重なっただけで本来なら夢見矢は死んでいてもおかしくはなかった。


今僕の妹がどんな状況下なのかは分からないが少なくとも影魔と関わっている可能性は否定出来ない。


そういう訳で夢見矢と僕は一度別れ、冬火について調査することになった。




002

僕は家に着くなり真っ先に二階にある冬火の部屋に向かった。


(正確には僕の隣の部屋。ちなみに僕の部屋の方が若干広い。)そして僕はノックもせずに堂々と妹の部屋に入る。僕がそこで見たものは.......馬鹿みたいな格好して寝ている冬火だった。


決して際どい姿では無い。期待していた人達よ、残念だったな。


そもそも妹に対してそんな姿を求める兄は居ない。


というか女子ならもう少し可愛らしく寝やがれ。


「おい、冬火起きろ。兄のお出ましだぞ。」


寝ている冬火を足で軽く踏みつけながら起こす。


「んぁ...?おかえりなさい兄ちゃん、ふぁ〜...眠いから寝ていい?」


「駄目に決まってんだろ。何の為に起こしたと思ってる。」


「何の為って私はまだ何も聞かされてないけど?」


おっと、用件を言うのを忘れていた。


これじゃあまるで用事も無いのに寝ている妹を踏みつけて睡眠を妨害する悪い兄の構図が出来上がってしまう。


危ない危ない。


僕はわざとらしく咳払いをしてから


「お前に話があって来た。」


「へぇ〜私は無いけど。」


お前から話が無くても僕から話があるんだって。


「質問形式になるから答えてくれ。」


「あぁ、おkおk分かったから早くしてー」


気だるそうにしながら僕からの質問を促す。


「問1、最近自分の身体能力が上がったと思うか?」


影魔と契約を結んだときの特徴である。


契約を結べば身体能力が上昇する。


「いや?そんなのは全く感じないけど。そもそも私が運動出来るの知ってんだろ?まぁ持久走なんだけど。」


全く感じないか。影魔と契約を結んだのなら身体能力が上がってる筈だ。


つまり契約を結んで無いのは分かった。


となると可能性は一つに絞られた。


「じゃあ問2だ。最近自分が自分じゃ無くなる瞬間を感じたか?」


最後の可能性は影魔に取り憑かれた可能性だ。


僕は正直なところこんな可能性は否定したかったが夢見矢という実例があがっている以上無視出来る問題でも無いだろう。


「何だそりゃ?私は常に365日24時間、元気いっぱいの冬火ちゃんだぜ。まぁ最近はなんだかすげぇ眠いんだけどさ。」


取り憑かれてもいないだと?


そんなことがあるのか?


影魔と関わってる以上...いや待て、そもそも冬火は本当に影魔と関わってるのか?


もしかしたら、たまたまあの廃墟に入っただけで影魔には会っていないかもしれない。


まぁこんな風に『かもしれない』を追求すれば全てが不確かなまま進んでしまう。


だがしかしこの場合は『かもしれない』にすがるしか無いのだ。


「んで兄ちゃんは私にこんな質問をして何がしたかったわけ?」


まだ眠たいのか右目を手で擦りながら聞いてくる。


「あぁ大したことじゃ無いよ。ちょっとしたクイズさ、ほらお前クイズ番組なんか好きだろ?だから兄がこうしてお前を喜ばせに来たってわけだ。」


まぁコイツがクイズ番組を好きなのかは正直知らないのだが。


「好きか嫌いかで言えばクイズ番組は好きな方だけど、だからって寝てる妹を蹴って起こす兄なんて聞いたこと無いんだけど。」


「それは悪かった。まぁ蹴ったんじゃ無くて踏みつけたんだけどな。」


「同じことだろ。とりあえず話が終わったんだったら私は寝るぞ〜」


「あぁ、おやすみ。」


「ん、おやすみ〜」


僕は冬火に邪魔者扱いをされながら部屋を出た。

時刻は午前11時。


まだ午前中なのにどんだけ眠いんだよあいつ。僕は自分の部屋に行きまだ日は出ているがミルに出てきてもらうことにした。


「ミル、今の話聞いてたか。」


すると僕の影の中から銀髪の幼女が現れた。


「聞いておったが、単純にあの妹御は影魔と関わっていないのではないか?」


そう考えるのが当然だろう。実際質問のどれにも該当していなかったのだから。


しかし、嫌な予感がする。

僕はまだ影魔については素人なのだ。


専門家でも何でもない。

だからこそ、いつ例外が起きるか分からないのだ。


「僕もそう思ってる。だけどまだ確信が無い。調査は今後も続けるが、早い内なら今日中にはっきりさせたい。ミル、今日の夜お前にも手伝って貰いたいんだが構わないか?」


ミルは少し思案してから


「別に構わんが、しかし何をするのじゃ?」


「冬火が夜中に何をやっているのかを探る。」




003

夜。時刻的に言えば夜中の1時だ。


本来なら僕はさっさと寝ているのだが調査の為に起きている。


「のう、お前さんよ。夜中に何を調査するのじゃ。妹御のプライベートまで探る気は無いのじゃが。」


ミルは小声で話しかけてくる。


「朝の話聞いてたろ?あいつ最近随分と眠そうなんだ。だから夜中に何かやってるんじゃないかと思って。」


僕達は静かに冬火の部屋まで行き、ゆっくりと扉を開ける。


結果的に言えば冬火は居なかった。


家のどこにも、居なかった。


玄関にあるはずの冬火の靴が無いのを見て確信したのだが恐らく彼女は現在外に出てる。


どう言う理由かは分からないが夜中に外を出歩く行為自体が危険である。


だが不思議だ。


彼女の性格からして夜はグッスリと熟睡する筈だ。


それが外出している。


「ミル、外に行くぞ。冬火を探すんだ。」


「承知した。我が主よ」


僕は靴を履き両親にバレないように家を出た。


冷たい夜風が僕達の頰を撫でる。


どこまで行っているのか全く見当がつかないので自転車で探すことにした。


「お前足跡とか見つけられないの?」


「いくら事象を操ると言ってもそんな都合の良い様に我は出来ておらん。」


そう言いながらもミルは地面を眺めている。


そのまましばらく自転車で走っていると公園の中に人影が見えた。


冬火だろうか?公園の電灯でその顔が少しだけ見えた。


冬火であった。


しかしその表情は酷く虚ろな様子だった。そしてその横にはもう一人誰かが立っていた。


「ミル、この位置からあれが誰だか分かるか?」


「妹御の姿は確認出来るが横におる奴は分からんのう。」


おかしい。冬火はこんな夜中に人と会うやつじゃない。


どういうことだ?


「お前さん、少し気をつけた方がいいかもしれんぞ。妹御の隣の人間から影魔の気配を感じる。」


影魔の気配だと?


じゃあ冬火は何でそんな人間と...いや違うか。この状況なら答えは絞られている。


つまりはあの人間の影魔が冬火に何かしたってことだろう。


「もう隠れてもいられないか。行こう、話をつけてくるんだ。」


「我も同行するが用心しろよ、お前さん。」


僕達は公園の入り口から堂々と人影に近づく。


「あんた、こんな時間にこんな場所で僕の妹に何をしてるんだ。」


「あぁ?何だお前、コイツの兄貴か。見たところお前も影魔と縁があるらしいな。だが俺とは違う。契約を結んでやがるな?くっだらねえ事してんなぁお前。」


そう男は言いながら高らかと笑ったのだった。

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