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影魔の書  作者: CLOCK
第1章 あかりプラント
5/6

夕暮れと誓い

009

ローズ・プランターとの一戦を終えたあと、僕達は廃墟を後にした。


夢見矢の両親の問題は解決こそした訳では無いが僕は彼女がその話を打ち明けるまでこちらから聞こうとは思わない。


今は夢見矢が無事だっただけで十分なのだから。


そんなわけで僕達は、

つまり僕とミルは帰路についた。


夢見矢はまだ少し体調が悪そうなので

駅までは送った。


しかし問題はここからだ、ミルのことを家族にどう説明しようか。


いきなり自分の息子が透き通るような肌をした銀髪の幼女を連れてきたら間違いなく誘拐を疑われる。


あれ?ていうかこれ詰んでね?


「そんなことは無いぞ我が主よ。」


僕の横を並んで歩くミルがこちらを見上げながらそう言った。


「隠し通せば良いんじゃ、それにお前さんの家族に影魔の話なんかすれば危険に晒されるだけじゃしのう。」


「危険に晒される?何でそうなるんだ、影魔と関わりを持った訳でも無いのに。」


そう、

今の僕と違って家族はまだ影魔の存在を知らない。


「存在を知るということが駄目なんじゃよ。今まで信じてこなかった者が存在していると信じた時点で影魔は生まれる。人間どもが信じただけで影魔は生じるからのう。」


ミルは僕の家族の心配をしてくれているのか。


それとも単に影魔と対峙するのが面倒なだけなのかは分からないが、少なくとも僕は嬉しかった。


そして同時に謝らなくちゃいけないことを

思い出した。


「なぁミル、さっきはお前を他の影魔と同じように人間を見下してるなんて思ってごめん。お前はやっぱり良いやつなんだな。」


僕がそう言うと、ミルは威圧するかの様に僕を見据えながら不敵な笑みを浮かべ


「勘違いするな我が主よ。我が最優先に考えているのは自分の依り代のことだけじゃ。我だって他の影魔と同じで人間のことなぞどうでも良い、場合によっては殺すかもしれんしのう。この先もお前さんがその腑抜けた考えを続けるのなら我は躊躇なくお前さんを殺すぞ。」


それは、分かっている。仮にもミルは影魔だ。


今は僕の影に住んでいるが夢見矢に取り憑いていたあの影魔、ローズ・プランターの話によるとミルは伝説の影魔らしい。


僕だっていつ寝首をかかれるかも分からないが、それでも互いに信じ合ってはいけない関係では無いだろう。


「あぁ、分かってるよ。僕もお前に対して油断する訳では無い、ただ信じ合おうとは思ってる。」


僕は少し笑いながらミルにそう言った。


「まぁ、それも良かろうよ。」


ミルも苦笑でそう返した。


「そんな事よりもお前さん、我を隠し通す算段はついておるのかのう?」


しまった!今の話に集中し過ぎて何も考えてなかった!僕とした事がなんてミスを!


気がつけば僕達は既に家の近くにある公園の前を歩いていた。


「手間のかかる主じゃのう、普段の生活は我がお前さんの影の中に入っておるから何とかなるじゃろう。」


よ、良かった。これならしばらくは安心だな。


「おいおい何を勝手に安心しておるんじゃ。夜は我も影の中から出させてもらうぞ。影魔にとっては夜が朝みたいなもんじゃしのう。」


「じゃあやっぱりバレるじゃん!もうお前影の中に居ろよ!」


「まぁまぁ、出ると言ってもお前さんの部屋の中だけじゃ。安心せい、お前さんが眠っている間は我が見張っとくから♪」


と嬉しそうに笑いながらこちらを見ている。

畜生、可愛いじゃねえか!


そんな風に会話をしていると僕の家が見えてきた。外見はごく一般的なものだ。


僕は豪邸に住んでいる訳では無い。


「ここがお前さんのマイホームか。」


「いちいち英語にしなくていい。お前は影の中に入っとけ。」


「せっかちな主じゃのう。」


と呟きながらミルは僕の影の中に沈んでいった。


僕はミルが影の中に入ったことを確認し、

玄関の扉を開けた。


「ただいま〜」


いつもの口調でそう言うが誰も返事をしない。どうやら今はみんな居ないようだ。


買い物にでも行ってるのか?


まぁいいや、ミルを隠し通す手間が省けて良かった。


僕は荷物をリビングにあるソファに投げ捨てて二階にある自分の部屋に向かった。


僕の部屋の窓は南側にあり、夕日が部屋の中を照らしている。


「おい、ミル出てきていいぞ。」


僕がそう言うと影の中からミルがゆっくりと現れた。


「どうやら家族は留守のようじゃな。」


ミルは伸びをしながら言った。

そんなミルに僕は


「ミル。今日一日お前と出会ったり影魔と戦ったりしたけどさ、契約を交わした以上僕はもう普通の人間じゃないんだよな?」


「まぁそうじゃな。少なくとも純度百パーセントの人間とは呼べまい。」


人間では無い。そのことは契約を交わしたその直後から分かっていた。


そして僕はこのことを家族には打ち明けない。


例えその必要があったとしてもそれは今じゃ無い。


「ミル、僕はこれから先どうなるか分からないけれど、心は人間のままだ。それだけは忘れないでくれ。」


「...承知した。我が主よ。」


僕達は夕日の中そう語りながら日が暮れるのを見ていた。春休みの話はこれにて終了だ。こうして物語は冒頭へ戻る。




010

これまでの物語を見てきたのなら分かると思うが、僕と夢見矢の影の中に今も影魔がいると言うのはいささか語弊が生じている。


正確に言えば影魔を影の中に住まわせているのは僕だけであり夢見矢はあの影魔、ローズ・プランターの後遺症が残っているということだった。


今まで春休みの話を語っていたので時系列が分からなくなっている人もいるかもしれないので、はっきりさせておこう。


今は春休みが終了して一学期の終わりが近づいている頃である。


つまりあと少しで夏休みなのだ。


「夢見矢、毎度の如く尋ねているけれどローズ・プランターの後遺症はどんな感じだ?」


僕は少し眠たそうにしている夢見矢に話しかけた。


というかあからさまに眠そうにするな。


「そうね、後遺症と言っても大したことじゃ無いわ。植物に触れている間だけ操れるというだけよ。」


十分過ぎるくらいの後遺症だと思うのだけれど。


ちなみにミルから聞いた話だと後遺症はその人によって期間は違うけれど大抵の場合は一年足らずで治るらしい。


「ところでミルちゃんは一緒じゃないのかしら?」


夢見矢はミルのことをちゃん付けで呼ぶ。


ミルは嫌がっているが可愛らしい響きだ。


「ミルは今も僕の影の中にいるよ。」


そう言うと夢見矢は少し考えるように沈黙してから


「そう。なら、話は早いわ。」


ようやく本題に入れるのか...ここまでくるのにかなり時間がかかった様な気もするが、ここで余計なことを言うと更に長引きそうなので黙っておく。


だが僕はこの時この話を聞かなければ

良かったと思った。


いや、聞きたくなかった。


「時雨君、以前あなたの妹さんがこの廃墟に入っていったところを目撃したわ。」


と、夢見矢は少し目を伏せながら

そう言ったのだった。

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