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影魔の書  作者: CLOCK
第1章 あかりプラント
4/6

夢見矢 燈とその記憶

007

暗い、ここは何処なの...?


「うぅ...頭が痛い。」


私は確かあの廃墟にいて、見知らぬ男の子がやって来て、それから...


「お父さん、お母さん...」


そうだったあの場で家のことを思い出してしまった。忘れる為にわざわざあの廃墟に通っていたのにね。自分が惨めだわ。


それよりもここはどこなの?暗くてよく分からないけれど少なくともそこまで時間は経っていないようね。


「時雨君!何処にいるの?」


私はあの見知らぬ男の子の名前を、時雨 冴月の名前を呼んだ。


しかし返ってくるのは暗闇の中に佇む静寂のみ。


「時雨君は一緒じゃないの?」


あの暗闇に飲まれたはずなのに。何故私だけがここにいる?


そう疑問を頭の中で繰り返していると目の前に一閃の光が走った。


その光の中から出て来たのは赤いパーカーに全身から棘を露出させた人型のナニカだった。


「ひっ!な、なんなの...?」


そのナニカは人であるならば腕があるべきはずの場所から植物のツルのようなものを伸ばし私に優しく触れる。


そして「お前の望みを叶えてやるよ。」と不敵な笑みを浮かべながらそう言った。


「の、望み...?」


「嗚呼そうだ、お前の望みを言え。そうすれば叶えてやるよ。」


望みなんて今の私には、無い。


「おいおい無いわけ無いだろう?人間ってのは常に何かを欲しながら生きてる。例えば勉強するのだって将来の為にやっているんだろう?風呂に入るのだって寝るのだって全部自分の為にやっている。欲の為にやっている。」


確かに人は欲の為に行動して生きているのかも知れないけれど、でも今の私にはそれが無い。


もう私という人間は終わっている、お父さんとお母さんが私の前から去っていったあの日から。


「じゃあ、両親のことを願えよ。」


目の前にいるこの化け物は何を言っているの?そんなこと出来るわけが...


「出来るさ、俺は影魔だからなぁ。」


影魔?聞いたことが無い。


「お前ら人間の言うところの悪魔さ。ただし普通の悪魔じゃあねえ。あんな下級のゴミどもと比べられても困るしなぁ。ケケッ!」


悪魔なら尚更願い事なんて教えられない。


「教えられない?やっぱりあるんじゃねえかよ、しかも両親のことだよなぁ?お前が望むなら叶えてやるぜ?ただし、代償は払ってもらうがなぁ。」


「その、代償って言うのは?」


ああ、何をやっているんだろう私は。何でこんな悪魔なんかに頼ろうとしてるの?


「それはまだ教えられねぇ、まぁ俺とお前がこうして影の中で会ったんだから払えない代償じゃ無いと思うがな?」


影の中?じゃあここは本当にあの廃墟なんかじゃなくて別の場所?


「言ってなかったか?ここはお前の影の中さ。お前が無意識的にも助けて欲しいと願ったから俺が出て来た。」


「私は助けなんか...」


「願ったさ!だから俺がここにいる。何度も言わせんなよなぁ、苛々してくるからよぉ〜?ほら、早くしないと俺は飽きっぽいんだ。お前が望まないのなら俺はお前の前から消え去る。」


「ま、待って!分かった、代償は必ず支払う!だからお父さんとお母さんと一緒にあの頃みたいに暮らしたい!」


言ってしまった。私はなんて駄目なんだろう。


「願ったな?叶えてやるよ。代償が支払えたらなぁ!」


そう叫ぶとその影魔はツルで私を縛り上げ


「支配術式ィ、展開!」


瞬間、私の足下に遺跡で見るような記号だらけの文字列が並んだ。


「悪魔を簡単に信じやがってこのクソガキ、俺にはもともとお前の願いを叶える気は無え。それに俺には出来ねえからな、精々出来んのは伝説と称されるあの影魔だけだろうが俺には関係無い。」


そん...な。やっぱり悪魔なんか信じちゃいけなかったんだ。


「契約術式を展開しても良かったが、割に合わねえ。俺は依り代を支配する!現世でまともに活動するとなったらこれしか無えからなぁ。能力が制限されるなんてたまったもんじゃ無え。クッ!クキャキャキャキャ!!」


その嘲笑うかのような笑い声を聞きながら私の意識は途絶えた。




008

僕が夢見矢の名を呼び続けて何分経っただろうか。


今も尚僕は夢見矢に語りかけているが彼女が正気を取り戻す気配は一向に見えない。


「夢見矢ァァ!目を覚ませ、僕がお前を助けてやるからさ!だから一人で抱え込まなくて良いんだぜ!?」


ローズ・プランターに攻撃されながら叫んでいる為か先程よりも声が出ない。


もう臓器の大半の機能が停止しつつある。


その都度ミルが側から僕達を回復する為に事象を操っているがそれもいつまで持つか。


タイムリミットはもう残されていない。


「お前さん、いい加減にせい。そやつはもう殺すしか無いんじゃ!」


「そんなことは無い!いや、僕が認めない!」


ミルは僕と感覚を共有しているため血を流しながら僕に話しかけてくる。


「ウぅ...」


ローズ・プランターが呻き声を上げ、僕を縛り上げていたツルを離す。


今まで突き刺さっていた長い棘が僕の全身から抜けた。


「ぐぁっ、はぁはぁ。何だ?ローズ・プランターの攻撃が弱くなってるぞ。」


「信じらん、可能性の話としてお前さんに話したのじゃがまさか本当に精神支配が解けかけておるのか?」


じゃあやっぱり夢見矢がローズ・プランターに取り憑かれた原因ってのは家庭のことだったのか。


だとしたらあともう一息だっ!ここで決定的な原因となる事柄を夢見矢に語りかければ精神支配が解けるかもしれない。


「なぁ、夢見矢。お前さっき『お父さん、お母さん』って言ってたろ?お前の両親がどうなったのかは知らないし聞く気も無い。だがな夢見矢、だけどさ夢見矢。お前だって一人の人間なんだぜ?悩むのはいいけれどそれを一人で抱え込むなよ。僕は今日お前と知り合ったばかりだ。だからこうなってしまったのは必然かもしれないけれどこれからは違う。僕がお前の悩みを聞いてやる、それで問題が解決するかは分からないけど話すだけでも変わると思うぜ?」


僕は傷だらけの体をミルに治してもらいながらそう言った。


これで夢見矢の心にまで僕の声が届いたかどうかはどうしようもなく運任せだ。


これで夢見矢が正気を取り戻さなければ僕は夢見矢を傷つけることになる、そこはやはりどう考えてもミルの言う通りなのだ。


「どうやらその心配はしなくても良いようじゃぞ、お前さん。」


僕の怪我を治療し終わったミルがローズ・プランターを指して呟いた。


ローズ・プランターが大きく体制を崩し何か喋っている。


「ち、畜生ぉ...何だコイツはさっきまで願ってた感情が消えていく!このままじゃ俺が存在出来なくなっちまう、一度この依り代と分離して逃げなければ!」


あいつ喋りやがった、つまり今は感覚ごと全てがあの影魔に集中してるのか?


それに夢見矢の体がローズ・プランターの中から出てきた。分離なんて出来るのか?


夢見矢は無事みたいだがこのままじゃローズ・プランターに逃げられちまう!


「そうはさせんよ。これ以上我が主が痛めつけられるのもそろそろ限界じゃしのう、これにてお前はゲームオーバーじゃ♪」


などと可愛らしくミルは殺害予告を堂々と目の前でした。


「な、何だとぉ!伝説と称される影魔のお前が何故ここにィ!?まずい、感覚ごと全てが俺に伝わっちまう!間に合わん!」


「さらばじゃ、下等な影魔よ。せめて最期くらいは楽しませろよ?」


そう言ってミルは事象を操る能力でローズ・プランターを宙に浮かし、僕が作ったような小さな火の玉なんか比にならないぐらい大きい火球をローズ・プランター目掛けて追突させた。


「グァァァァァァ!!!畜...正...何でこんなことに....」


「我が知るか。自分の運の悪さを恨むんじゃな、我と鉢合わせたという不運を。」


ローズ・プランターはミルの火球によって消し炭になり僕達の前から完全に姿を消した。


「ミル...お前。」


「どうじゃった、お前さんよ。我の事象を操る能力は見事なものじゃったろう?」


ミルは満面の笑みを浮かべながらそう言った。


「ところでお前さん、あの小娘の無事を確認した方が良いのではないか?」


「そうだった!夢見矢!」


僕が夢見矢の側に近づくと夢見矢は意識が覚醒していたらしく僕に抱きついて来た。


「ゆ、夢見矢...さん?」


あれれ、おかしいな。声が裏返っちゃったぞ。


こんな状況下で如何わしいことを考えるなんて僕は最低だなぁ!


「時雨...君。助けてくれて、ありがとう。」


夢見矢からこんな言葉が聞けるなんて思いもしなかった。まあ会ったばかりだしこんな一面もあるのかもな。


「全部、聞こえてたわ。あなたが私の為に言ってくれたこと全部。」


夢見矢は涙を流しながら、そして無理して作ったような笑みを僕に見せて「ありがとう」ともう一度僕に言ってくれたのだった。

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