植物を操る影魔 ローズ・プランター
006
果たして僕達は無事に暗闇の中から脱出した。
「さて、これからどうするかのう?」
そんなことを言いながらミルは部屋の中にある日陰のところにいる。
「なぁ、影魔ってのは影の中にしか存在出来ないのか?」
「別にそういう訳では無い、じゃが影の中の方が心地よい。それに影魔は基本的に光を嫌うんじゃ。光というのは属性で言うと聖の部類に入るからの。我々影魔にとっては最悪の属性じゃな。」
属性なんてあるのかよ、いや分かりやすく言い換えただけか。
ちょっと待て、今コイツ我々影魔と言ったか?
「なぁ、一つ聞いてもいいか。」
「なんじゃ。」
「影魔ってのはお前以外にもいるのか?」
「当たり前じゃ。一つの種として存在しておるからのう、無論生物では無いが。」
だとしたら夢見矢も影魔と契約を結んだのかもしれない。というか夢見矢はどこだ?
「おーい夢見矢ー!」
しばらく僕の声が廃墟中に響いた後、隣の部屋から呻き声が聞こえた。
僕達はその呻き声の聞こえる部屋に向かったのだが、そこには跪き苦しそうにしている夢見矢がいた。
「おい夢見矢!大丈夫か?」
僕がそう言いながら夢見矢に近づくと
「嫌ぁ!」
彼女のその悲鳴に僕が硬直していると
「お父さん、お母さん......帰ってきて....」
などとボソボソ独り言を言っていた。
まさか夢見矢の家庭の問題というのは両親のことなのか?
しかしここまで絶望するほどのことを思い出させるなんて夢見矢の影の中で何があったんだ?
「これはまずいのう。」
「どういうことだミル、夢見矢は影魔に何かされたのか!」
僕がそう怒鳴るとミルは
「落ち着け我が主よ。この小娘は影魔との契約に失敗したらしい、否。影魔に乗っ取られたというべきか。何にせよこの小娘は影魔に侵食されておる。」
影魔に侵食されている。
つまり影魔に乗っ取られたのだ、今この夢見矢の精神の中には影魔が宿っており夢見矢自身にはどうすることも出来ないらしい。
しかし僕の場合はミルに乗っ取られたりしなかった、ならば条件が違うのだろう。
例えば契約術式の代償が大量の血液だった僕とは違い別の代償が必要でそれを満たせなかったという可能性だ。
「ミル、さっきやった契約術式の代償はその人自身で変わってくるのか?」
「その人自身と言うよりは影魔の種類で変わってくるのう。お前さんの場合はたまたま我の属性と合致していたが為に代償もお前さんが用意出来るものになったが、恐らくこの小娘と影魔の属性が違ったのじゃろう。そして契約術式を失敗した、こんな所かの。」
つまり契約術式が失敗すれば問答無用で影魔に侵食される、何でこうも理不尽なんだよ。
畜生、夢見矢を助ける方法は無いのかよ!
「あることにはあるぞ、我が主よ。」
「それは本当かミル!頼む教えてくれ!」
僕は夢見矢を助ける為ならどんなことだってしてやる!さっき会ったばかりだけど、でも目の前で苦しんでるのに見捨てられるか!
「簡単なことじゃ、殺し合えばいい。」
....え、なんて言ったんだ?
コイツは...ミルは今、なんて?
「じゃから殺し合うんじゃ。その小娘とのう。」
「巫山戯るな!それじゃ何の解決にもならないだろうが!何で影魔に乗っ取られただけの夢見矢を殺さないといけないんだよ!」
コイツら影魔は人の命をどうとも思ってない、
僕達人間なんか所詮下等生物だと愚弄して嘲笑っているんだ。
「少々言葉が足りなかったかのう、正確にはその小娘に取り憑いている影魔を殺すんじゃ。まぁでも取り憑かれている以上感覚はリンクしている筈じゃから小娘も無傷じゃ済まないじゃろうが。」
影魔を殺す。簡単にミルはそう言った。
影魔であるミル自身がこう言うのだから対処方法としてはこれで間違い無いのだろう。
しかし「お前は仮にも同じ影魔なんだろ。同族を殺されても何も感じないのか?」
「そもそも我々影魔というのは個々で敵対しておるからの。まぁ我は敵対しようがしまいがどうでもいいんじゃがな。だから何も感じはせんよ。」
コイツは随分と楽観的だな、僕だったらそんな立ち位置嫌だけれど。
「じゃあミル、影魔を殺す方法を教えてくれ。」
夢見矢を助けるにはこれしか無い。ならばどんな状況下でもやらなきゃ駄目だろ。それが僕が夢見矢と関わった責任なのだから。
「先程お前さんが使えるようになった我の事象を操る能力を使うんじゃ、恐らく戦闘になれば小娘に取り憑いている影魔も攻撃を仕掛けてくるじゃろう。あの影魔がどんなタイプなのかは分からんが、あれ程の精神支配じゃ。相当手強いぞ。あと可能性で言えば、あの影魔が取り憑けた原因を取り除くことが出来れば小娘は無傷で助かるじゃろう。」
戦闘か気軽に言ってくれるな、こっちが殺す気で闘うんだ。きっと相手の影魔だって殺す気で攻撃してくる。中学三年で殺しあうとかどんな人生だよ。
「分かった。じゃあ行くぞ、ミル!」
「戦闘結界を張る、少し待てお前さんよ。」
そう言いながらミルが手を床につけた途端僕達を黒い影が包み込んだ。
また影の中なのか?そう思った瞬間、黒い影のドームの内側が白く発光し視界が明るくなった。
そして夢見矢の方を見ると、いや夢見矢なのかも分からない。そいつの見た目はまさに異形だった。
全身が棘で覆われており、赤色の薔薇の様なフード付きのパーカーを着ていた。
両手は植物のツルを伸ばしたものに見える。
「おいミル。あれが夢見矢に取り憑いた影魔なのか?」
「その通りじゃお前さんよ。見たところどうやら植物を操る影魔の様じゃな。」
植物を操る影魔。ミルとは全く違う影魔だな。
しかしどう戦ったものか。そう考えていると
「お前さん下がれ!来るぞ!」
そう言ってミルが僕を後ろに押した。直後あの影魔から伸びたツルがミルを叩きつけた。
「ぐっ...!」
「ミル!」
そう言ってミルに近づこうとすると
「ぐあっ!」
僕も叩きつけられる痛みが走った。
「ミル…これはどういうことだ...?」
僕は血を吐きつつミルの方を見た。
「言ったじゃろう、契約を結んだ以上我らは感覚が共有されておる。どちらか片方が受けたダメージはそのまま純度百パーセントでもう片方にも伝わる...」
何だよそれ契約を結んでも結局感覚はリンクされるのかよ。とにかく早く対処しないと次の攻撃が来る。
「お前さん、あの影魔の正体が分かったぞ。名は【ローズ・プランター】。まさに植物じゃな。我は昔あれと同種の影魔を殺したことがあるからのう、能力は分かったが今一度なぜあれ程までに強力なのかは依然として不明じゃ。」
ミルのその言い方からすると同種は弱い影魔だったのか?それに昔殺したことがあるって...まぁ良い今は奴との戦闘ならぬ闘争に目を向けるべきだ。
「ウァアアアアアアアアア!!!」
ローズ・プランターが唐突に叫び声をあげながら走って来る。全身からはパーカーを破って棘が露出していた。
「ぐあああッッッ!!」
ローズ・プランターは勢いそのままミルを視界の端に置いて僕を抱きしめる様に全身の棘を突き刺した。
「お前さん!ぐっ!」
僕とミルの体からは大量の血が流れている。
ローズ・プランターはそのまま僕を抱きしめ続ける。
「お前...さん。動けないのなら我がこの木屑を灰にしてやるぞ...」
「待て...ミル!そんなことをしたら夢見矢まで消し炭になる。お前は手を出さないでくれ頼む...」
「無茶なことを言うのう我が主は...」
そう言いながらミルは苦笑した。もちろん僕達二人は大量に出血しているのでそんな余裕など無いが。
「夢見矢ァ!聞こえてんだろ⁉︎お前はこんな弱っちい影魔に負けるつもりなのかよ!さっきまで僕にあれだけ罵声を浴びせていたのにいざとなったらこれか!ぐぁッ!...こんな影魔なんかにお前が取り憑かれて死んじまったら僕はお前にやり返せないだろうが、お前の心の強さはその程度なのかよ!もしお前が精神的に辛いって言うなら僕に相談しろ!家庭の問題だろうが何だろうが僕が聞いてやる!だからさぁ、戻ってきてくれよ夢見矢ァ!」