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影魔の書  作者: CLOCK
第1章 あかりプラント
1/6

始まりと終わりの物語

001

この物語は僕が中学三年に上がった時から始まる。


周りの友人はあと一年で卒業という事を気にし一年が短いなどと言っていたが、僕にとっては卒業までの最後の一年間がとても長く感じられた。


そう、果てしなく、程遠く、先が見えない様だった。


いや、恐らくだが僕の感性がおかしいのであろう。時間の感じ方は人それぞれだが、それにしても僕の場合は異例だった。春休みから先、卒業に至るまでの間色々な事を体験し過ぎた。


恐らくだが普通の人間ならばこんな体験はしない。「こんな」という表現だといささか誤解を招くかもしれない。


そう、「普通の人間」なら体験し得ないのだ。つまりは僕の正体が人間では無いという開示なのである。


化物。日本ではこう呼ぶだろうが、グローバル化が進みすぎて最早この表現自体が無くなるのではないかと不安になる。


論点が少しズレた様な気もするが、まぁいい。これから語る、普通の人間では「なくなった」僕が語る、そんな物語を始めよう。


002

四月上旬。まだ若干雪が残っている場所もあろうこの季節。


学校では新しいクラスに馴染めない僕だが、だからと言って引きこもりという訳では無い。


僕にだって出掛ける時ぐらいある。


今時の中学生はハメを外してカラオケなどの娯楽施設に足を運ぶのだろうが、僕は違った。


いや、まず普通の人でもこんな場所には訪れない。其処は、廃墟であった。


正確に言うとその辺りは薄暗く人気も無い明らかに心霊スポット寄りの場所だった。


だがまぁ、いい加減春休みからこれまで此処に通い続けていただけあって心霊の類はどうでも良くなった。


見えないし。そもそも科学的に証明出来ないものを僕は信じない。むしろ僕は既にこの時点で心霊以上のモノと関わりを持っていたので今更だった。


そんな事を考えながら廃墟の階段を上って行く。三階の南側の部屋に入ると既にそこには先客が居た。


「あ、時雨君。遅いじゃない。あともう少し遅かったら貴方の家まで右手にナイフを持って迎えに行こうと思っていたのよ。」


開幕早々とんでもない事を言い放つその小柄な少女は笑顔でこちらを見ている。


彼女は僕と同じ中学校に通う同級生の夢見矢 燈 。


普段の彼女は物静かで決して今のような発言はしないのだが、何故だろう。


僕と一緒にいる時はこれでもかというくらいに自前の毒舌で僕を罵倒する。


「休日の真っ昼間にナイフを持ちながら住宅街を徘徊するとか怖すぎるわ!」


本当に恐ろしい。多分コイツならやりかねない。


「つーかナイフってよくある100均のナイフを使うつもりなのか?」


「いいえ、ペーパーナイフよ。」


「ショボっ!」


こんなのに僕は怯えていたのか!


「で、時雨君。今日此処に貴方を呼んだのにはちゃんと理由があるの。」


そう、春休みから通ってるとは言ったが今日は夢見矢からの誘いだったのだ。


「あぁ、僕もそれを聞きに来た。で、何なんだ話ってのは?」


「その...私達春休み以降変な関係を持ったじゃない?だから今後の事を考えようと思って....。」


「ちょっと待て夢見矢!なに誤解されそうな言い方してんだ!確かに僕達は春休み以降人間ではなくなったけれども、かと言ってお前とそんな淫らな関係を築いた記憶は無い!」


「相変わらず突っ込みが早いのね。春休みの頃と変わってないわ。」


春休み。一般の学生ならば有意義に過ごしているだろうが僕達は偶然にもこの場所。


この廃墟で出会ったのだった。同じ中学校だが面識は無かったが故に最初こそ戸惑ったが今はこうして打ち解けて来ている。そんな春休みに事は起きた。


今居るこの部屋に突如として空間に穴が空いたのだ。そして僕達はその空間の穴に飲み込まれた。


その後空間の中で何が起きたのかは記憶が曖昧なのだが、今現在わかっていることは僕と夢見矢の影の中に「影魔」というものが入っているという事だけである。


003

春休み。僕は宿題も既に終わらせており暇だった。


何度か友達に映画を見よう、だとか誘われたが気怠かったので断った。


五月はまだ一ヶ月と少し先なのに既に五月病が発症していた様だ。


そんな中家でずっと漫画を読んでいたので持っていた本は全て読破してしまった。


僕としたことがじっくりと本を読む予定だったのに一気に読んでしまった。


「買いに行くしかないか。」


悪態をつきつつも暇な人間だと周りから言われるのには納得がいかないので、さりげなく本を読んでるアピールをする為に僕は本屋に行った。


何処の本屋かって?そんなの決まってるだろう。◯ーチャンフォーだ。


恐らくだが僕の知っている書店で一番本が揃っているのはここしかない。


しかし、僕の家からは少し離れた位置にあったのでバスで向かった。


その後お目当ての本が見つかり少し上機嫌だったので歩いて帰ることにした。いや、正直に言うとバス代を本に回してしまったのだ。


我ながらに馬鹿である。後先考えないからこうなる。


帰り道、工事中と書かれた看板が目に入った。


以前からこの工事のことは知っていたが何の作業だろうか?建物の取り壊しか?


疑問に思った僕はいつのまにか工事中と書かれた看板を通り越して中に入っていった。


其処は、廃墟だった。よく見る塾っぽい雰囲気の建物だ。工事中と書かれていた割には何の取り壊しもされておらずむしろ原型を保ちすぎていた。


つーか工事してないなら看板外せよ。


現在の時刻は午後14時38分。まだ家に帰る時間でもないか。


そんな適当な口実を作りながら僕は廃墟の階段を上る。ふと耳を澄ましてみると上の階の方から何か物音がする。


誰かいるのか?いや、そんな筈は無い。誰が平日の真っ昼間からこんな廃墟に訪れるというのだろう。


…果たしてそれは僕であった。僕の様な物好きがいるとは到底思えないが、確認せずにはいられなかった。


僕は物音のする方、三階だろうか?壁には薄っすらと「3F」と書かれた文字があった。


僕はそのまま日光の差している南側の部屋に入った。そこには、少女が一人佇んでいた。


開いている窓から身を乗り出す形で日の光を浴びている。颯爽と吹く風が少女の髪を揺らす。その姿はまるで黄昏ている様だった。


004

彼女の姿に見惚れて一体何分たったのだろうか。いや、時間にすればほんの5秒程だろう。


僕が見ていた彼女は不意に後ろを向いた。


「あら?何故こんな場所に私以外の人間がいるのかしら?此処は私のテリトリーよ。」


...動物か何かなのかお前は。


「えっと僕は時雨って言います。ここには興味本位で来たんですが、あなたは?」


「なるほどなるほど。全く興味が無いのに暇つぶし程度に入って来たことが伺える顔だわ。」


読まれている!初対面なのに遠慮が無え!


「私の名前は夢見矢。」


それだけかよ。せめてここにいる理由ぐらい言えよ。


「ここは私のテリトリーよ。」


「同じ事を何度も繰り返すな。ロボットか。」


「何を言っているの?私は人間よ。それともあなたの目は腐っているのかしら。」


「僕の目はそこら辺の野菜じゃないんだぞ!腐ってるとか言わないでくれ!」


ていうか野菜に謝れ!いや、その前に僕に謝れ!


「もう面倒くさいから敬語は無しにするぞ。夢見矢、お前は何でここにいるんだ?」


「急な質問ね。言ったでしょう?ここは私のテリトリー。いつもここにいるのよ。気分が落ち着くから。」


「普通、家の方が落ち着くと思うんだがな。」


「嫌よ。」


彼女はきっぱりと断言した。威圧と言ってもいい。


「あそこは嫌。」


家庭。その片鱗に片足を踏み込んでしまったらしい。彼女の顔は会った時からずっと無表情だが今はその顔から冷気さえ感じる。


これ以上この話は追求しない方が良さそうだ。


「あー、なんつーか悪かったな。家庭の事情に話持ち込んで。」


夢見矢は心底疲れたように嘆息した。


「別に。時雨君の所為では無いもの。強いて言うならこれは私の問題、あるいは環境。」


とそう述べ、再び会話の方向は先の質問に戻ろうとした。だが、その答えは得られなかった。


僕と夢見矢の会話を遮らせる、あるいは中断させらせた。僕達の目の前には、闇があった。


「闇」と言うよりは穴だった。例えるならばブラックホール的なやつ。


まぁブラックホールが観測出来たのはつい最近なのだけれど。その闇が突如として出現し、同時に僕らを飲み込んだ。


何時間経ったのだろう。少し頭が痛いが僕は目を覚ました。其処は暗闇の中だった。


もしかしたら廃墟の中で気絶して夜中になったのかも、と思い僕は携帯電話の電源をつける。

ちなみにスマホである。


「午後14時50分....」


先程確認した時刻から12分しか経っていなかった。日付も変わっていない。


つまりここが廃墟の中じゃないって事だ、となるとここは何処だ?


「ていうか、おーい!夢見矢!どこだー?」


先程まで会話していた夢見矢の姿が無い。


暗闇の中だから視認出来ないだけかもと思ったが返事が無い以上夢見矢はいないのだろう。


「くそっ、どうなってんだ?」


僕が悪態をついたその時、目の前に一閃の光が走った。そしてその光の中からは白い炎を纏った少女が現れた。


髪は透き通った銀色に見た目は完璧に幼女の部類だった。


その幼女は僕にゆっくり近づき、そしてこう名乗った。


「我こそは全ての事象を操る者。唯一にして有限にして無限の影魔。サイミルト・フューレ・アルタイル。」

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