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声劇台本 25年

作者: ヴァリエール

この作品は声劇用に作られています。あらかじめご了承ください。

25年


登場人物



・北村沙紀(沙紀)[きたむらさき]♀ 俊正の娘


・北村俊正(俊正)[きたむらとしまさ]♂ 沙紀の父


・安西嗣也(嗣也)[あんざいつぐや]♂ 沙紀の彼氏


(ナレ)は読まなくても進行上問題はありません。やる際は沙紀役が兼任するとよいかもしれません。


若干の改変、語尾やしゃべり方はご自由にどうぞ






俊正:ああぁ、また失敗した。やっぱり料理教室にでも通うべきかな……


沙紀:ただいま、なんか焦げ臭いけど?


俊正:沙紀、、お帰り。いやなんでもないぞ



(ナレ)少し慌てながら台所に駆け寄ってくる



沙紀:また料理してる、もう私がするって言ったでしょ、お父さん不器用なんだから


俊正:バカにするな、父さんにだって本気を出せば料理くらいできるぞ


沙紀:……じゃあ今晩はお父さんに任せますね、ごちそうを楽しみにしてます、フフッ


俊正:ごめんなさい、沙紀様頼みます


沙紀:もぅ、仕方ないなぁ、お料理は私がしますね



沙紀:あの、お父さ……


(ナレ)父が洗濯機の前で手帳を片手に真剣な眼差しでブツブツと独り言を言いながら洗濯をしようと苦労していた


俊正:よし、できたぞ、なんだ簡単じゃないか。あ、洗剤入れ忘れた……。はぁ、っもう一回



(ナレ)その日はそのまま声はかけずに部屋に戻った




(ナレ)プルルルル 携帯電話の鳴る音がした



嗣也:夜分遅くにすみませんね、沙紀さん


沙紀:嗣也さん、ちょうど今電話しようと思ってたんですよ


嗣也:それは奇遇ですね、シンクロノイズ現象でしょうか、宇宙人の陰謀ですかね……


沙紀:何言ってるんですかフフッ


嗣也:さて、なんでしょう



沙紀・嗣也:フフフ(ハハハ)


二人は揃って笑った。


沙紀:もう、嗣也さんったら笑わせないでくださいよ、大体宇宙人の陰謀って何ですか……


嗣也:少しは元気そうになってなによりです


沙紀:あっ、嗣也さん


嗣也:はい


沙紀:この前のお話しなんですけど、もう少しだけお時間を


嗣也:(遮るように)構いませんよ、ゆっくり納得行く答えが出るまで待ちますよ


沙紀:ごめんなさい、嗣也さん。私なんてとても釣り合わないわ


嗣也:そんなことはありません。悩むのはそのことを本当に真剣に考え向き合っている証拠です。恥ずことではありません


沙紀:ありがとうございます。もう少しだけお時間いただきます




(ナレ)朝起きて眠い目をこすりながら


沙紀:おはよう……。お父さん今日仕事?


俊正:急な依頼でな、悪い、もう行くよ


沙紀:行ってらっしゃい


沙紀:もうこんな時間、嗣也さんとの待ち合わせに遅れちゃう、準備しなきゃ



(ナレ)自転車で美容院に行きその後待ち合わせ場所に向かう


沙紀:あれ?自転車が動かない


沙紀:……だめ、チェーンが外れてる、全然動かない、嗣也さんとの待ち合わせに遅れちゃう、どうしよう


(ナレ)困って道でうずくまっているとカチャンと自転車を担ぐ音がした


俊正:タクシー。


沙紀:お父さん!?


俊正:なにそんなところでうずくまってる、はやくカバンを持て


沙紀:でも、自転車が……


俊正:自転車は父さんが担いで帰って修理しといてやるから。安心しろ、こっちは得意分野なんだ、明日には直して見せる


沙紀:……


俊正:お前は早くタクシーに乗れ、今日はデートなんだろ遅れちゃいかん


沙紀:お父さん


俊正:なんだ、まだ何かあるのか?


沙紀:ありがとう


俊正:おう、行ってこい



俊正:さてと、家まで五キロはあるな、行くか




(ナレ)そのまま自転車を担いで家まで帰った

    その後家に帰って俊正はお隣のおばさんに頼んで料理を教わった



沙紀:ただいま……、んん、これはいい匂い


俊正:おかえり、沙紀、今夜は父さんが作ったぞ


沙紀:えぇ、お父さんが……、本当!?すごいすごい


俊正:ほら、食べてみろ


沙紀:うん、いただきます。ん?あれ、この味


俊正:どうした、やっぱり口に合わなかったか……


沙紀:ううん、すっごく美味しい


俊正:そうか、よかった、これで料理は父さんもできるな


沙紀:そうだね……




俊正:これをここにセットして、ここに洗剤を入れて、これでよし。ふぅ……



(ナレ)前よりも手際よく洗濯機を操作していた

    洗濯機の横の棚においてあるシャツが数枚いつもと違う畳み方になっていた


    それからしばらくの時が流れた



俊正:どうしたこんなところで、そんな顔して、具合でも悪いのか?


沙紀:お父さん


俊正:なんだ、どうした、言ってみろ


沙紀: …………


俊正:窓を見てごらん、向かいのビルの窓掃除をしている人が見えるかい?


沙紀:うん


俊正:あの人の足元を見てご覧、少し震えているのがわかるか


沙紀:ホントだ……


俊正:でも一生懸命頑張っているだろ、きっとなにか事情があって苦手な仕事をせざるを得なくなったんだろうな


俊正:なぁ、沙紀


沙紀:なあに


俊正:お前が辛いとき、必ずそばで支えてくれる。悲しみも共に乗り越え、喜びは一緒に分かち合ってくれる、彼はそんな豊かな青年だ


沙紀:お父さん、私、私、


俊正: …………


沙紀:お母さんが死んだあの日、私はおかしくなってしまうってくらい辛かった。でもあの日お父さんは泣いたり、感情を露わにしている様子はなかった。

    

    あの時の私はお父さんが冷たいって、なんでもっと悲しまないのかってそう思ってたの。馬鹿だよね、お父さんが一番悲しいはずなのに……


俊正:そうだな、もちろん、とても辛かった。でも約束したんだよ、これからはお前の分も俺が沙紀を守るってな。今後の家庭のこと、母さんの代わりも俺がやって安心させてやる。そう決心したから心には少し余裕が足りなかったのかもしれないな


沙紀:だから、私は……。大好きなお父さんに全然恩返しもできてないし、大きくなっても助けてもらって、私ね本当は知ってるの私がお父さんのことを心配して嗣也の返事を待たせてたから、安心させるためにお隣さんに料理を作ってもらってたのもお洗濯も


俊正:なんだ、バレてたのか……


沙紀:すっごくだっておいしいもん


俊正:ん?どういう意味だよ……


お前が生まれた日の話をしようか。あれはとても暑い夏のことだった。あの日病院からの連絡を聞いて飛んで駆け付けたよ

    

そこで見たんだ、この世のどんな宝石よりも眩しくて美しいものをな。もちろんお前のことだ。あの時のことは今でも覚えてる、それから毎日楽しい日々で、お前の成長が本当に嬉しかった。

    

歩けるようになって、言葉を話すようになって、幼稚園へ行って、たくさんの友達を作って、お勉強するようになって、そして、自分ではない誰かのことを誰かの幸せを考えられるようになった。長いようであっという間の時間だった。俺の宝物だ。そりゃあな、寂しくないわけじゃないが、少しくらい寂しくたってこの宝物が温めてくれる。だから安心しろ。



沙紀:お父さん今まで本当にありがとう、私はお父さんとお母さんの娘で本当によかった


俊正:なに、一生の別れじゃないんだ、たまには遊びに来い、早く孫の顔もみたいしな


沙紀:もう、お父さんったら


俊正:沙紀……、幸せにな
















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