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第83話 水面下の悪意

毎度更新が遅くて申し訳ありません……

今回は短いです。



『しまった……ッ』そう気が付いた時には手遅れだった。

 自分でも気が付かないうちに焦っていたのか、危険を承知で人気のない路地裏に誘い込まれていた。


 違法な奴隷を扱う組織の情報は思った以上に簡単に集まった。

 組織の連中もゴロツキや盗賊などが集まったもので、大した連中ではない事も分かっていた。


 だから、背後からの一撃に反応が遅れてしまった。


 油断していたのだ。


 まさか気配も無く背後を取られるなど思ってもいなかった。


 気が付いた時には背中が熱く、全身が思う様に動かなかった。

 自分の意志とは関係なく立っている事も出来ず、そのまま地面に倒れ、意識が薄れていくのが分かった。


 私は薄れゆく意識の中で必死に主に伝えるべき言葉を自らの手を染める血糊で地面に書き留めた。


『警戒すべきはけんきゅ――』


 そこで私の意識は途切れた。


 ――――――


「はい、ご命令通り密偵は始末しました」


 薄暗い路地裏の一角で一人の男が手にした魔導具に語り掛けていた。

 驚くことに薄っすらと光を放つその魔導具から返事が返ってくる。


「ご苦労だった。 これで奴らもおとなしくなるだろう」


 自信と傲慢さがにじみ出るその声に男は短く肯定の返事を返す。


「それに今夜には奴の屋敷も襲撃する、全滅とまではいかずとも死体を作り、姫殿下を()()すれば奴の評判は地に落ち、陛下にも貸しを作れるというものだ」


 その言葉に男はわずかに驚きの声をもらした。

 そんな計画は初耳だったのだ。

 密偵の始末は容易だったが、屋敷の襲撃はそうはいかない事を男は理解していた。

 ゆえに男は躊躇いがちに魔導具へと進言する。


「それは、いささか危険なのではと愚考いたします。 奴の屋敷には元騎士団長のライズや元Sランク冒険者で清風の二つ名を持つ男が――」

「下らん」


 その一言で一蹴されてしまった。


「こちらは50人以上での襲撃だ。 たかが元騎士団長と引退した老いぼれなど問題になどなるはずもない! 貴様は私の命令通り、黙って奴らの監視を続けろ!」


 その言葉を最後に魔導具は光を失い、男の声ももはや届かなくなっていた。


(……っく! いくらなんでも甘すぎる、雇われる先を間違えたか……)


 男は内心そう思ったが、命令違反などすればこの世界では信頼を失う上に奴らに追われる身だ。

 不安と焦りを胸に男は路地裏へと姿を消した。


 ――――――


 アルファ伯爵のイライラは頂点に達していた。

 いけ好かない公爵に従ってようやく見えてきた領主の座が零れ落ち、挙句に生意気な子供にその座を奪われ、今では己の地位すら脅かしているのだ。


「くそ……あの偽善者め、ここであの組織を潰されては()()()()()()()に私の地位が危うい……なんとしても奴を止めなくては」


 アルファ伯爵はこれまで数々の謀略でその地位と財を成してきたという自信があった。

 だが、それはあくまで元ルフィア公爵の後ろ盾があった故に成功を重ねる事が出来ただけに過ぎなかった。

 その事に気が付くことが出来ない彼は、稚拙な計画を推し進める事に疑問など抱く事は無かった。


 そしてなにより、彼自身が利用されているという事に気が付くはずも無かった。


 ――――――


 セントアメリアの王宮の地下――

 最も深いその場所は、投獄されれば死を待つだけの決して出る事など叶わない地下牢でその男はほくそ笑んだ。


「そうか、例のモノがようやく完成したのか」


 現国王の弟でありながら、他国と手を組み、王の命とその座を狙った男は配下の貴族よりもたらされたその報告に歓喜の色を浮かべていた。


「はい、完成品はまもなく我々の手に届く事になります」


 ルフィアの貴族共を利用し、平民を使ってようやく手に入れた力だった。


「ようやくだ……あの無能な兄に変わり私がこの国を治める」


 傲慢で、己以外すべて道具程度にしか考えていない男であり、その権力(ちから)でなんでも強引に叶えるように見えるが、その実、頭脳だけは現王族のなかでも頭一つ抜けていた。


 本来ならば無能と呼ばれてもおかしくないアルファ伯爵があれほどの地位を築けたのは、この男に使われていたからに過ぎない。


 実際のところ、先の戦争では帝国に裏切られたが、それ自体も計画の一部であった。

 正確に言えば、()()()()()()()()()のだ。

 重要なのは真の目的を悟られない事だった。

 当然、自身が暗殺される可能性は考え、警戒していた。

 故に、死ぬことだけは避けられるよう備えていた為、こうして生きながらえているのだ。


 そして現在の様に反逆罪で投獄される事も考慮していた。

 事前に王都の貴族を半数以上引き込む事で、自身の刑の執行を止めるほどの力を持っている。

 仮に、強引に刑が執行されても逃げ出す手筈はいくつも持っていた。


 そもそも、セントアメリア王国の歪みはこの男、元ルフィア公爵モーガン・アメリアによってもたらされたものと言っても過言ではないのだ。


 だが、そんな彼にも一つだけ大きな誤算があった。


「あの異界人についてはどうだ、こちらの計画に気が付いている可能性は?」


 それがリンの存在であった。


 モーガンの計画では帝国の裏切りや自身の捕縛は予想の範疇であり、大した問題では無い。

 だが、王国が帝国に勝利する可能性は無いと踏んでいたのだ。


 とは言え、()()()()()()にはさほど影響は無かった。

 だが、リンとルナの存在は無視できないものだと考えていたのだ。


「不愉快極まりないが、あの異界人は油断出来ん、例の組織を潰されるのは構わんが、それ以上は許すな」


 ある目的の為、その資金集めに使っていた組織など、目的を達成した今すでに用済みになっていた。


「それから、万が一奴らがカプトと接触した場合は余計な事を話される前に始末するようコルニクスに伝えておけ」


「よろしいのですか?」


 モーガンにとって自分の情報が洩れるのだけは避けたかった。

 その為ならば例のモノを作った技術者とは言え口を封じるのが最優先だった。


「御意のままに」


 モーガンは間近に迫るその時を思い口端が吊り上がるのを止められなかった。


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