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第115話 小芝居

大変お待たせいたしました。

四章スタート&更新再開です。

 俺の両親は正反対の性格だった。

 父親はドライな性格でリアストアな人で、結果を重視する人だった。

 反対に母親は何事もポジティブに考える人で過程を見るタイプ。


 そんな両親が仲良く夫婦生活を営めたのは息子の俺から見ても不思議だった。


 でも2人はいつも幸せそうだったし、そんな両親に育てられて俺も幸せだった。


 だが、幸せな生活がいつまでも続く保証なんて無いって事を俺は知った。


 ある日、両親はあっさりと死んでしまったーー


 理不尽に奪われたのだーー


 道場での稽古を終え帰宅した俺の目に飛び込んだのは血塗れで倒れる変わり果てた両親の姿だった。


 警察は金品目的の強盗だと言っていた。


 こうして、俺が当たり前だと思っていた幸せな日常を理不尽に奪われた。


 生前、父親が言っていた言葉が頭を過ぎるーー


「世の中は常に残酷で理不尽なものだ、だから常に人より努力しなさい。 それでもなお、思い通りにいかないものだ」


 本当にその通りだった。


 だから俺はあらゆる努力をしたーー


 両親の仇を討つためにーー


 いつか復讐を果たすためにーー


 ーーーーーー


 ドールから戻って1ヶ月が過ぎた。


 その間でルフィアは大きく変化し始めている。


 主に平民の生活が改善されつつある。

 子どもの教育機関、診療所などの公的機関の設立。

 そこから生まれた雇用機会など、広く生活を豊かにする政策を進めていた。


 その考え自体はリンのから生まれたものだが、その全てを素人のリンが円滑に実現するのは難しかった。

 だが、思わぬ人物の活躍により目覚ましい成果を上げていた。


 黙々と書類に目を通し、判子を押す。

 朝から延々とその作業を繰り返し、気づけば既に日は昇り切っている。

 だが休みなくこなしたお陰で、ようやく最後の一枚に手をかけるまでに至った。


 がーー


 ドサッ! 


 ようやく積み上げられた書類が無くなったと思った瞬間、今度は先ほどの倍はあろう量の書類がリンの目の前に積み上げられた。


「今度はこの書類です。 今日中に終わらせて下さい」


「…………マジ?」


「はい、出来ればティータイム迄にはお願いします」


 その言葉に再び書類の山に目をやる。

 だが、どう見ても先ほどの倍以上はあるのだ。

 朝から昼までぶっ通しで頑張って終わらせた量の倍なのだ。


「無理です」

「ダメです、頑張ってください、そもそもリンの発案です。 責任を持ってください」


 ピシャリとリンの言葉を却下、更に追い討ちをかける言葉にリンはぐうの音も出ない。


 全くもって容赦の無い少女ーー


 セーラ・シルベストルーー


 一国の王になるべく教育を受けてきた彼女のおかげでルフィアの改革は急速に進んでいた。


「ま、まぁ、お昼くらいは食べてもいいんじゃないかなぁ?」


 そうリンをフォローする言葉を発したのはユーリだった。

 リンが判を押した書類を仕分けながら苦笑いを浮かべている。


「安心して下さい。 抜かりはありません」


 そう言い終えた直後、部屋の扉をノックする音が響き、シンが銀のカートを押して部屋に入ってくる。


「お食事をお持ちしました。 ご指定通り食べ易いサンドイッチをご用意させていただいております」


 リンがグシャっと机に突っ伏す。

 積み上げられた書類がグラグラと揺れ倒れそうになるが、すかさずシンが書類に手を置き崩れるのを防ぐ。


 そんなリンの様子を見てセーラが小さくため息をついた。


「まったく……そんな事ではいつまで経っても改革が進みません。 ですが、そうですね……ちょっと無理をさせ過ぎたかも知れません」


 幼い見た目とは裏腹に落ち着いた声音でそう口にすると、再び突っ伏したリンに目をやり、仕方なさそうに肩を竦める。


「分かりました。 今日の所は午後からお休みにします」


 その言葉にリンはガバッと身体を起こす。


「マジ? こう言っちゃなんだが、本当にいいのか?」


「良くは無いです。 ですが、そんな状態では効率も落ちますし、間違いがあっても困ります……断じてリンの為ではありません。 あくまで公務に支障をきたさない為です」


 テンプレの様なセリフだが、今のリンにとってはそんな事も気にならない程に嬉しい言葉だった。


「スマン! 明日また頑張るから!」


 それだけ言うとリンは、逃げる様に執務室から飛び出していった。


「やれやれです。 このくらいで根を上げるなんて、大変なのはこれからなのですが……」


「まぁ仕方ないんじゃないかな? 元々は私と同じ一般人だし、いきなりこんな激務じゃ目が回るのも無理ないよ。 実際私も結構しんどいもん」


 ユーリはそう言いなが座ったまま大きく身体を伸ばす。

 連日のデスクワークに身体のあちこちが凝り固まっている気がしていた。


「でもユーリは文句も言わず頼んだ仕事を終わらせています。 それに比べて発案者があれでは先が思いやられます」


 そう言ってリンのデスクに置いた書類を再び自分のデスクに運び直した。


「え? まだ続けるの?」


「まだまだ仕事が控えていますので、少しでも進めておかないとーー」


 そう言って少女は書類に伸ばした手をユーリが横から掴むと、そのまま引っ張り机から立ち上がらせる。


「そんな事言わないで、私たちも今日はお休み! せっかくだし街に出かけようよ! まだこの街全然回れてないんだしさ!」


「そういう訳にはーー」

「いいからいいから! 明日からまた頑張ろ!」


 本来なら街の運営を担う立場上、そんな事は言っていられない。

 リンも成り行きとは言え、領主としての責任を果たさなければならない事は理解していた。

 街に住む人々がいる以上、甘えは許されない。


 故に多少のオーバーワークなど気にしてはいなかった。


 食事も睡眠もきちんと取れている。


 だが、それすらまともに取れていないーー

 いや、取っていない人物がいた。


 根が生真面目なのか、セーラは誰よりも早く、誰よりも遅くまで公務をこなしていた。


 本人はまったくそんな素振りは見せないが、このままではまずいと思ったリンとユーリは一芝居打ち、強引にセーラを休ませる事にしたのだ。


「やれやれ、上手くいったみたいだな」


 二人が執務室から出ていくのを影から覗いていたリンは小さくため息をついた。

 二人が見えなくなったのを確認してリンは執務室へ戻る。


「どうやら上手くいったようですな」


 部屋の中ではシンが昼食を用意してくれていた。

 ソーサーに乗ったカップからは今入れたばかりと言わんばかりに湯気が立っている。


「……シンには言って無かったと思ったけどな」


「リン様が弱音を吐くとは思えませんからな、セーラ様を休ませる口実を作られたのかと」


 シンに見透かされ、リンは小さく肩を竦めた。

 もとよりこの人を騙せるなどと思ってはいない。


「そうとは限らないだろ? 実際かなりシンドイよ。 近々本当に逃げ出すかもしれないぞ?」


「ほっほっほ」


 シンは好々爺のような笑いをこぼしたが、リンは理解している。

『できるならどうぞ、逃がしませんがな』

 と、言外に告げている事に。


 この屋敷で本当の意味で誰よりも厳しいのがこの老紳士なのだ。

 自分で始めた事を途中で放り出す事など絶対に許してはくれない。


 リンはなんとも言えない渋い表情を浮かべつつ、昼食が並べられたテーブルに座ると、その中からサンドイッチを手に取り、午後の仕事であるデスクの書類の山を見つめつつ、内心で盛大なため息をついた。

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