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京藤さんの話によると、別れた後しばらくして何かに襲われたらしい。フィールドを破られ強制的に帰還させられてしまい、先に館へ到着したそうだ。
「砂丘に向かって実射訓練していたんだ。装填作業をしていた時だった。まず最初にターゲットを置いていた場所に現れた。地中から飛び出してきてターゲットを食い破ったんだ」
「地中から現れた?」
「そう。なんと形容していいのか・・・半径20cmほどにもなる巨大な・・・ミミズ?・・・だった」
「ミミズ・・・。蛇ではなく?」
「そう、蛇ではなかった。口が蛇のように上あごと下あごではなく、円筒の内壁に歯がびっしりついていて円筒を広げたりすぼめたりする感じだった」
「・・・」
(FPSではなく、RPGかな?なんというかサンドワームとかいうモンスターがそんな感じだった気がする。)
「的を食い破る際に口が見えて、とても気持ち悪かった。急いで君に連絡しようと思って動いたその瞬間、今度は足元から現れてボクの右足がかまれた。その直後転送させられて、こちらに戻っていたよ」
「ご苦労様です」
「うん。怖かった・・・」
相当気持ち悪くかつ怖かったのだろう。こわばった顔をしていた。
(・・・なんと慰めればいいのか・・・そういえば、人と触れ合うことでオキシトシン・・・とかがどうのでリラックス効果があるんだっけ?・・・抱きしめてあげるのが最良・・・だと思うが、それはさすがにあれだし、頭をなでる?・・・いや、女性の髪はたやすく触れてはならないから・・・肩ぐらいならいいか?)
ドラマなどで時々見られる、社長が部長をほめるときに両肩をたたくイメージを思い浮かべた。実行に移そうと両腕を上げると、京藤さんが胸に飛び込んだ。
「っ!?」
驚いて固まる。少しの間、お互い無言でいた。彼女から胸に飛び込んできたのだから、多少触れても大丈夫だろうと思って、背中を優しくぽんぽんと叩いた。京藤さんが顔をうずめたまま話し出した。
「・・・全ての兵科、兵器の取り扱いはできるよう教えられているけどそれは、教導隊として全ての兵科を教えるため、各隊の連携を円滑に行えるよう教えるためなんだ」
「・・・?」
「・・・ボクは、実戦は苦手なんだ」
(・・・ああ。そういえば、説明欄にあったな。)
「そっか。意図したことではなかったとはいえ、申し訳ない」
「・・・ん。でも、役に立ちたいとは思ってるし、実戦もこなしたいと思ているんだ」
「わかった。じゃあ、また向こうに行ったときは護衛をお願いするね」
「ごめん。取り乱した」
京藤さんが離れる。顔をうつむけておりその表情はよくわからない。
(さて、取り乱したって認識しているなら恥ずかしいことをしたって思ってるよな?なら先ほどのことには触れず仕事の話だな)
「そうか。そうすると困ったな。明日また転移したときにそいつらがそこにいたら危険だな」
「・・・あ、あぁ。それには考えがある。ちょっと確認したいことがあるのでこれで失礼するよ」
そう言ってそそくさと退散してしまった。
(うーん・・・?対応を間違えたか?)
いろいろと考えるがそもそも対人関係が得意な方ではないこの男は、考えるだけ無駄だと知っていた。なので早々に別の問題に切り替える。タブレットを取り出し古井さんに連絡を取る。
「古井さん。こちら石田。どうぞ」
『こちら古井。石田・・・司令の名前を初めて聞きました』
「あれ?・・・知らなかったの?」
『えぇ。配備以来、待機任務が主任務でしたので♪』
「・・・なんか、すんません」
『いえ、それでどうしました?』
「ええと、転移地点周辺の生体反応を調査してほしいんです」
『司令・・・生体調査は低空で行う必要があります。もしかしたら街の人たちを刺激してしまうかもしれませんが?』
「あー・・・いえ。それでもやってほしい。先ほど転移地点で京藤さんが排除されたらしい」
『・・・え?』
「至急調査をお願いしたい」
『承知しました』
サンドワームといえば普段地中にもぐっているはずなので、空から調査しても映らない・・・はずだ。しかしゲーム時代、UAVなどを飛ばして監視すると建物があろうと地下であろうとなぜか相手の位置情報をつかむことができたのだ。現実的に考えてそんなことは不可能なのだが・・・
(いや、まぁ、できんじゃね?それにできなければまた別の方法を考えるだけだし)
実際その予想は的中した。
『司令・・・生体の・・・コヒュー・・・反応多数・・・です』
タブレットの地図情報を呼び出し確認すると、転移地点周辺で赤い点が動き回っていた。ちなみに飛行機のアイコンが小さな円を描いて結構な速度で旋回していた。
(っておーい、旋回半径小さい&高速って結構旋回Gがやばいだろ・・・。実際苦しそうな声だし)
「旋回半径を広げてもう少し広く調査してみてくれないか?」
『コピー』
旋回半径が大きくなる。そのかわり中央(転移地点)での調査ができなくなったのだろうマップ上から赤い点が消えた。
「おや?表示が消えた。転移地点周辺にしかいないのか?」
『そのようですね』
(おっ。苦しそうではなくなったな・・・)
「さらに捜索範囲を広げてみてくれ」
『了解です』
その後の調査で広い範囲に点々としか分布しないことが分かった。唯一転移地点の周辺のみ高い密度で集まっていることが分かった。
『司令、そろそろ燃料が危なくなってきましたので・・・』
「了解。長時間の調査おつかれ。帰還してくれ」
『了解。RTB(帰還する)』
体からフッと力が抜け、膝が耐えられず崩れ落ちる。領主としてのLvが足らず魔力切れを起こしたのだ。
(あぁ、やばい。こんなことならFPSばっかりやらず領地経営も鍛えとくべきだった・・・)
領主の館の玄関で、そのまま意識はブラックアウトしたのだった。
~~~~~~~~~~
(ああぁ・・・ボクはなんてことを・・・・)
転送施設内の管理室。京藤はPCモニター正面の席に座り、頭を抱えていた。悩みの原因は領主の館で石田に抱きついてしまったことだ。
彼女が取り乱してしまった原因はゲームだった頃の石田の行動だった。着任以来仕事を任されていなかった。これは単純に石田が領地経営を簡単に(課金して)済ませ、FPSに集中していただけなのだが、彼女らから見るとそうではなかった。
通常なら領地を拡張・開発する工程は次のようになる。領地経営で税収を得てその金(ゲーム内通貨)でもって開発を行う。そうして軍とその装備を整えてから、領地戦というゲームモード(RTSまたは、FPSのモード選択が可能)で勝利すると多額のお金(ゲーム内通貨)or領地が手に入る。(一応効率が悪いが、領地戦の戦利品として領地を得る以外にも、ゲーム内通貨を利用して購入し領地を拡張することができた)
しかし石田は、これらの工程をを課金することですっ飛ばしてしまったのだ。どこから得たかわからない莫大な資金(課金)でもって領地を拡張し、他領ではあまり見ない(課金でしか買えない)先進的な設備が設置されたのだった。
そしてこの課金について勘違いが存在した。京藤達は「莫大な資金」について石田がFPSゲームモードにおいて稼いだものだと考えたのだ。ゲームにおいて領地経営をほとんどせず、もっぱら他領の領地戦ばかりやっていた石田が稼ぐ方法はそれしかないように思えたのだ。さらにその勘違いを助長したのが石田の3.0を超えているK/D比(キル数をデス数で割ったもの。一回の出撃で平均何人キルできるかをあらわした値)だ。数値的には非常に優秀な兵士に見えており、その戦績にふさわしい額の報酬を得ていたのだと思っていた。(実際はただのヘタレプレイでKもDも少なかったのだが・・・)
さらに加えて、石田は特に気にしなかったが友軍登録数で比較する場合、石田の領は国内でも10番以内に入る有名な領であった(ただ友軍登録数ランキングなどは公表されていないため知られてないが)。それに伴いプレイヤーの移籍願い(お友達システム:1話参照)もそれなりにあった。ゲームにおける移籍はプレイヤーが持つ領地を移籍先の領主に譲渡することで同じ領に所属し、共同で領を経営する(or苦手分野を人に丸投げする・・・)プレイであった。当然この際、領の最高決定権は領の譲渡を受けた領主のものとなる(いわゆるクランマスター)。入る側としては所属する領の装備がフルスペックで利用可能となり、受け入れた側は領の拡張と領民の増加が望める、お互いにメリットがあるシステムであった。
しかしそんな事情を知らない彼女は、領を譲渡するということは信じられない行動に思えていた。仮にの話だが、あなたの国が他国にその政治決定権を譲渡することを想像してほしい。まずありえない話だろう。しかしそれをしてほしいという依頼が、秘書業務をしていた彼女のもとに届いていたのだ。
そもそもNPCにとってプレイヤーは箱庭空間を維持し、NPC達に加護を与え、NPC達を召喚する能力を持つ神のような存在である。加えて石田は他領で圧倒的な戦績を上げ(勘違い)、多くのプレイヤーが移籍を希望した領を持つ存在である。石田の領で活動するNPCにとって石田はすごい存在に思えたのだ。
そんな石田が珍しく領に顔を出し、活動を始めたのだ。領の経営にほとんど関与してこなかったことはわかっていた。だからそれが下手であることも知っていた(そもそも武官ユニットの京藤を秘書に据えるのは間違っている)。そうだから、教導隊である彼女の血が騒いでいたのだ。兵士として優秀なこの人物を、「司令官」として・・・いや「領主」として育てられる・・・立派にして見せる、と。でも・・・
(初めての戦闘で、何もできずに排除された・・・)
新人教育という活動は指導対象から下に見られた途端効果が望めなくなる。長い付き合いの相手なら多少悪いところを見られても、信頼関係があるおかげで教育効果が大きく薄れることはない。しかし新人教育ではそもそも信頼関係がない状況からのスタートなのだ。ゆえに新兵訓練において教官は高圧的な態度をとらざるを得ない。
このこともあり京藤は石田に見下されることがないよう注意しながら行動していた。そのおかげか飛行場においても、砂漠においても石田は京藤の話に耳を傾けてくれていた。このまま少しずつ信頼関係を醸成していければと思っていた矢先に、この失態だったのだ。尊敬する相手の前で無力をさらすだけでなく、今後の関係についても絶望的になってしまった(と彼女は思っていた)ためどうしていいのかわからず頭の中がパニックになってしまっていたのだ。
(でも彼は受け止めてくれて、慰めてくれた・・・しかも、次の機会(護衛任務)もくれるって・・・)
彼女が心配した事態は起こらなかった。心配事がなくなったその瞬間、彼女は別の問題に直面したのだ。
(なんでボクは抱き着いちゃってたんだーっ!・・・そりゃ、彼は優秀な兵士だ。だから戦闘するってことになったらボクは足手まといになることだろう。だから彼がボクをあちらの世界に連れて行かなくなるかも・・・とは思ったさ!でも!そこでなんで抱き着いちゃったんだよーっ!!)
そう、落ち着いた瞬間自身の行動に気づき慌ててあの場を逃げ出したのだった。この管理室にきて何度目になるかわからない悶絶をしていると通信機に連絡が入った。
『イクちゃんッ!大変!司令が倒れてる!』