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転送装置の動作確認は問題なく終わった。有線式ロボットを送り込み転送先についても大きな問題がないことが確認できた。そして現在、転送装置を利用して箱庭の世界から踏み出したところだ。ちなみに、転送装置で転移する場合は、疲れなかった。装置が大型のため転送のエネルギーは電力を利用することが可能とのことだった。
周囲は見渡す限りの砂。かつての世界的には珍しい、砂砂漠だ。日差しがとても暑い。そして目の前でスタック(自力走行できない状態)している有線式ロボット。ロボットはバーナーやらアームやらを積み込んでおり、結構細かい工作ができる。ゆえにその重量はかなり重たい。履帯で動くようになっているがこの粒の小さい砂砂漠では履帯が埋まって腹が地面についてしまっている。
砂に足を取られながらロボットに近づいていく。手には先端にカラビナが付いたワイヤーを持っている。ロボットのもとにたどり着きカラビナをロボット後ろの留め具につける。後ろを振り返るとゲートが開きっぱなしになっていてその奥にこちらを見る京藤さんが見えた。手を大きく振る。
―ズズズ…
ロボットが引っ張られ動き出す。京藤さんがゲートの向こう側でウィンチ操作してをロボットを引っ張っている。
「さて、調査を始めっか」
タブレットを取り出し、正面にかざす。司令部テントを召喚しテントに駆け込む。
「あー・・・日差しがないだけでかなり楽になるな」
テント内の休憩場所の椅子に座り一息つく。タブレットを取り出しユニットを呼び出す。ちょうどパントムの出撃準備ができたところだった。ユニットをタップすると『出撃させますか?Y/N』と表示が出てきたので、Yesを選択する。そうすると京藤さんからタブレットに連絡が入った。
『司令。ついでだから僕の召喚も試してみてよ』
「へ?」
テントの入口からゲートを見ると、向こう側でこちらに手を振っていた。
「そのゲートを通るんじゃダメ?」
『・・・そうだね。でも召喚ってどんな感じなのか試してみたいし・・・それに・・・』
「あー・・・わかりました。召喚します」
タブレットからユニットを選択し召喚する。ゲートの向こう側で京藤さんの姿が揺らぎ消える。テントの中にはいない。どこに召喚されたのか分からないのでテントを出て周囲を探す。テントの周りをぐるっと回るが一向に姿が見えない。
(古井さんと同じようにテントから離れた位置に召喚されるのか?)
周囲を広く見渡すために近くにある高い砂山に上る。苦労して上ると体からすっと力が抜けて尻もちをついてしまった。わきに抱えていたタブレットに連絡が入った。
『こちら古井。現地に到着しました。これより地形調査を開始します』
空を見上げると小さな影がこちらに向かって飛行していた。眼鏡かけているとはいえ近眼のため断定はできないけど、きっとあれが古井さんとパントムなのだろう。空を眺めていると、わずかに力が抜ける感覚があった。
『こちら京藤。到着した』
「あれ?召喚したの結構前だよね?あと、今どこに?」
『ああ。召喚されると兵科と装備を選択するようになってて、選択に悩んで遅くなってしまった。今は天幕の中にいるよ』
「なるほど。そういうこと」
(いわゆるFPSのリスポーン選択みたいな?)
「ちなみに兵科は何にしたの?」
『偵察兵。周囲警戒のためV/SUAV(垂直離着陸型の小型無人機:*1)。双眼鏡の代わりにズーム機能の付いたSLSD(小型レーザー照準器*2)を装備しているよ』
「主兵装は?」
『汎用性を期待してカービンライフルにダットサイトつけて持ってきた』
「へー。なんかFPSモードのリスポーンみたいだな」
『・・・いや実際、僕たちは再召喚されることをリスポーンと呼んでるよ。まず任務地に初めて呼ばれることをスポーン。排除されるなどして、再び召喚されるとリスポーンって』
「へ?・・・殺害されたらリスポーンできるの?」
「殺害・・・ええとね、君の召喚魔法は召喚した対象を防御フィールドで覆う機能がついている。このフィールドが破壊されると僕たちは強制的に領地へと転送される。だから実際に殺害されるわけじゃないんだ。だから区別するために「排除された」って表現しているんだ」
「・・・」
(FPSゲームではチケットが残っている限り、キルされても一定の時間がたてば再出撃が可能だった。気にしなかったけどこういう原理か・・・。ん?)
「あぁ、それもあってゲートじゃなくて召喚で移動したかったとか?」
『うん。それもあるね。ゲートをくぐる場合はフィールドが付かないからね。そしてだから君がこちらで殺害されると僕たちはフィールドを失ってしまって、本当に命を落とすことになる。そう、だから一人でいるのは危ないから帰ってきてくれ』
「あっ・・・はい」
最後は少し強めの語調だった。足を取られながら苦労して上った砂山を下りて天幕へ向かう。天幕に向かって歩いているとV/SUAVが飛び立っていった。天幕に入ると京藤さんがPCの席に座り、V/SUAVの操作タブレットとPCを操作していた。
「よし。あ、おかえり」
「戻りました。なにしてんの?」
「マホロが集めてくれた地図データと無人機の地形データをリンクさせてた。今、完了したとこ」
「おぉ!すげー!」
「いまV/SUAVを使って一応周囲500mは索敵しているけど、そもそも生物っぽい反応はないね」
『こちら古井。司令、街を見つけました。ここへ行ってみれば何か情報が得られるかもしれません』
古井さんから連絡が入った。マップ上で飛行機がそれまでの針路を変え動き出した。少し待つと更新された地形図に街が描かれた。
「お、本当だ。ここからは距離にしてどれくらいだろう?」
「ちょっと待って。・・・ここからおよそ20kmってところだね」
「結構距離があるなぁ・・・っと、古井さん。可能な範囲でいいので街を詳細にスキャンして」
『了解。一見した感じ対空防御の類は見当たりませんね。高度を落としてより詳細に調べます?』
対空防御の装備はないという。接近しても撃ち落される危険はない。が、そもそも所属不明な航空機が低空で飛行するっていうのは相手を警戒させるには十分な情報だと思えた。
「いや。安全第一でお願い。あとあまり警戒されたくないしね」
『了解。オーバー』
「さて、今日のところはパントムを時間いっぱいまで飛ばして地図を広げるだけにして、街へは明日向かうってことでどうだろう?」
パントムの転移をすでに二回行っており、さらにあと一回行う必要がった。その疲労を考えると今日暑い中砂漠を歩くのは無理があるように思えた。
「そうだね。そうしよう」
「よし、じゃあ今日のところは装備のチェックや、使用感を確かめてくれ」
「了解」
「私は館で確認したいことがあるんだけど、帰っても大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ボクはこっちでもう少しいろいろ試してみるね」
「テントは片づけても?」
「OK」
テントを片付けゲートをくぐる。転送施設を出て館に向かって歩いていると体から力が抜ける感じがした。パントムのようにごっそりではなく、さらにテントよりも小さい力の抜け方だった。
「?」
なんなのかよくわからないままとりあえず歩くと館についた。館に入ろうとすると中から誰かが扉を開けた。
「・・・やぁ、お帰り」
館の中から現れたのは先ほど別れたはずの京藤さんだった。
「へっ?」
*1 V/SUAV
著作権的にどうなんだろうと思ってなんとなく造語です。垂直に離着陸する・小型な感じで「Vertical Small UAV」って感じです。B●4のMAV的な何か。
*2 SLSD
上に引き続き著作権的なことを考えた造語。小型レーザー照準指示器(Small Laser Sight Designator)な感じです。B●4のPLD的な何か。