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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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 失われた足が再生した。一体何が起こったのだろう?

 ゲーム時代、ファーストエイドは治療キットと並んで体力を回復させるアイテムだった。この二つの違いは、その効果が及ぶ人数と回復速度にあった。まずファーストエイドは回復速度が大きいが、その効果は一人に限定されていた。治療キットは回復速度が小さいかわりに、効果はその周辺半径50cm以内にいる人物全員に及んだ。

 ファーストエイドのほうが回復力が高い。でも、そもそもFPSゲーム内の話だ。FPSゲームに部位破壊のようなっステムはない。


(じゃあこれはなんだって話だよなぁ・・・)


 負傷者の再生した足を触って確認するが何も問題はない。


「司令。そのファーストエイドをもう一人にも試してみよう」


(そうだな。確かに何がどうなって再生したのかわからないが、再生できるならした方がいい・・・)


「了解」


 古井さんに足が再生した人物を見ておいてもらって、二人でもう一人の負傷者のもとへ。今度はファーストエイドをその人物めがけて投げてみる。体に当たったかと思うとそのまま吸い込まれていった。そして先ほど同様失われた部分に光が集まり、光が消えるとそこには足があった。


「同じことが起こったね・・・」

「あぁ・・・。ファーストエイドにこういった効果があるなんて初めて知った・・・」

「・・・はぁ・・・これじゃあ、手当てする意味がなかったね・・・」

「・・・あ・・・でも、もしかして手当てが・・・?」

「?」

「いや、知ってる限りファーストエイドにはそんな効果はなかったから。京藤さんたちの処置にファーストエイドの効果が加わってこれほどの治癒を可能にしたんじゃないのかなって」

「そっか。そういう可能性もあるんだね。いつか検証してみるよ」

「よし。じゃあ交渉に戻ります」


 負傷者の二人は状態が安定した。処置をするため放り出してきていた交渉に戻る。

 再び話をするために戻ると、彼らは何やら話し込んでいるようだった。歩いて近づく。こちらに気づき、先ほど話した女性と壮年の男性がこちらに歩いてきた。壮年の男性は筋骨隆々というほどではないがしっかりと筋肉がついている。いわゆる細マッチョというやつで、顔も渋い感じの顔をしていた。こんな風に年を取りたいものだと思う。ただ、その頭についている耳がなんかいろいろ台無しにしていた・・・。


「どうも。先ほどは話を中断してしまい申し訳ありませんでした」


 一方的に話を中断するというのはやはり無礼な行動だろう。そういった思いから、普通に出た言葉だった。二人は少し驚いた顔をした。男性が前に出て対応する。


「これはどうもご丁寧にありがとうございます。私はこのフォックス族をまとめているガパティと申します。そして後ろのこれは・・・」


 そういってガパティは後ろの女性が見えやすいように半身を引いて、自己紹介を促した。


「あ・・・どうも。・・・その、先ほどは失礼しました。フェーネと申します」


 ガパティの後ろにいた女性が挨拶をする。どうも、先ほどの対応を申し訳なく思っているようだった。少し気まずそうな雰囲気を醸し出している。


(その件は気にしてないし、触れないのが吉かな?)


 石田はそう考えガパティに向かって話す。


「私は石田と申します。近くを通っていると、たまたま吹き上がった砂煙に気づき応援に駆け付けました」

「近くを・・・ですか?」

「はい」

「そうですか。私たちフォックス族はこの砂砂漠の南側で生活しておりました。この砂砂漠は先に襲ってきたサンドワームがどこから襲ってくるかわからないため非常に危険です。無暗に入ることはしないのですが、北部のほうでは普通に入るのですか?」


(フォックス族やっぱり狐なんだ・・・)


「あ・・・いえ・・・えーと・・・なんと説明したらいいか・・・」


 どうもこの人たちは石田たちが砂砂漠北部で活動する人間だと勘違いしているようであった。石田は最初から全部を説明すると大変なのでそれっぽい話をしてそこは濁すことにした。


「まず、勘違いをしておられます。私たちはこの辺の住人ではないんです。東の遠方から来た行商人です。このあたりのことは詳しくなく、砂漠に迷い込んでしまっていたのです」

「なるほど」

「えぇ。ですから、私たちとしてはこの砂漠の出口を知っていないかなぁ・・・とか期待して助けに入ったという事情があったりします」

「そうだったのですか」

「ええ。ところで、あなた方はなぜそんな危険な場所を横断されているのですか?」

「・・・情けないお話です。部族の抗争に負け住む土地を追われたのです」

「それは・・・大変でしたね」

「はい。・・・あの・・・話は変わるのですが、食料と水を分けてもらうことは・・・できませんか?」

「え・・・う、う~ん・・・」


 食料がないわけではない。水も食料もトラックに積み込まれている。問題は戦闘糧食Ⅰ型は食事する前にボイルする必要があることだ。Ⅰ型は缶詰に入っていて一度ボイルすると3日間は食べられるのだが、冷えるとコメがカチカチの状態になり食べられる状態でなくなってしまう。このため食事時にその都度ボイルして食べる。しかし、砂漠において水は貴重品なのだ。領では水に困っていない。そのため衛生に配慮して缶を温めた水はそのまま捨てていた。


(ここで、あれ(Ⅰ型)を温めてその湯を捨てたら奇異の目で見られそうだなぁ・・・)


 などと考えてためらっていると、事情を知らないガパティらは別の意味で受け取った。


「ご懸念の通り、いま私たちには支払えるものがありません。しかし、時間はかかってもいつか必ずお支払いします!どうか、水と食料を分けてください!」

「えっと、それがですね・・・」


 言い淀んだのはどう説明しようか考えているためであった。しかし、そうは受け取られなかった。ガパティの後ろで話を聞いていたフェーネがまっすぐ石田を見つめ必死な声で訴えた。


「私を売ります!どこかの街で奴隷商に出してくだされば、少しはお金になります。どうか・・・どうか水と食料を分けてください!」

「・・・!」


 フェーネが頭を下げる。


(奴隷・・・この世界には奴隷制が残ってるんだな・・・。いやじゃなくて、これ以上話がややこしくなると困る。この人たちを領に連れて行こう。そこで少し休息をとらせて・・・いや、システム上の問題があってはいけないし、京藤さんに確認をとるか?)


「・・・このフェーネには妹がおります。フィルと申します」

「?」


 ガパティが話し始めた。


「あそこにいる、赤子を抱えているのがそのフィルです」


 そういって赤子を抱えている女性へ目線をやる。その女性は赤ちゃんを縦に抱えている(赤子と向き合うような抱え方)。赤子は力なく手足が伸びきっている。


「村を出てすでに5日目。村を追い出される形で出てきたのでろくな準備ができませんでした。わずかな食料はありましたが、それも尽きここ2日食べておりません。水は昨晩飲み切ってしまいました。そんな状態ですからフィルの乳も日に日に出なくなり、ついに昨日でなくなってしまったようです」

「・・・」

「昨日はまだ泣くだけの元気があったのですが今朝からあの通りぐったりとしています」

「フィルの・・・妹の夫は抗争の際に討ち死にしました。・・・仲のいい夫婦でした。あの子は・・・先月フィル・・・妹が2日間おなかを痛めて生んだんです。・・・・・・私たちの両親はすでに他界しています。ですから・・・私にとってもあの子は同じ血を分けた、たった三人の家族なんです。・・・・妹にとって夫の形見です・・・あの子だけはどうにか助けたいんです!お願いします!」


 思いが強くて話をうまくまとめられなかったのだろう。所々詰まりながら必死に訴える。


「えと、安心してください。食料も水もあります。・・・あと、奴隷云々の話は結構です。ただ、少し仲間に確認することがあるので少しお待ちください」


 そういって経過観察している二人の場所に戻る。


「あら。話し合いはまとまりましたか?」

「あぁ。食料と水を分けてほしいって話になってね。個人的には分けてあげてもいいと思うんだけど、二人の意見と領のシステムについて確認に来た」

「ボクも食料と水は分けてあげてもいいと思うよ」

「同じく賛成です」

「そっか了解。ただ、彼らには払えるものがなくてそのことを気にしていた」

「あー・・・そうなんだ。どうしようか?」


 日本国において遭難救助の費用は、その救助を行う組織によって変わる。行政の場合、被救助者に請求はいかない。しかし民間企業の場合は請求される。

 では今回の件はどう扱うべきか?


「領ではこういうときどうするみたいな方針あったりした?」

「いや、ないよ。だからどうするかは君が決めればいいよ」


 それはそうだ。そもそもそんなことするようなゲームではなかったのだから。


「彼らが領民だったなら・・・無料で援助することに否はないんだ」

「そっか、うん」

「でも彼らは領民ではない・・・ですね」

「そうなんだよなぁ。加えて彼らはこの砂漠の南側の地域から北部に向かって逃避行の最中だ」

「つまり?」

「この周辺の情報はあまり持ってないみたいだ。あの怪物については少し知っている感じだったけどね」

「じゃ、諜報組織よろしく重要情報でその支払いに充てる・・・ってわけにいかないか・・・」

「・・・!いや、そのアイディアいいんじゃないですか?」

「「?」」

「いえ、諜報組織のように現地協力員として彼らを雇用するというのはどうでしょう?」

「「あぁ!」」


 現地協力員それは読んで字のごとく、現地人の協力者を指す。


「じゃ、あの街に着いたらそこでいろいろ働いてもらうことで対価としようか」

「「了解」」

「で、あと確認したいんだけど、ほかの領では奴隷とかって一般的だったの?」


 若干二人が身構えた。


「・・・」

「きみは突然何を言い出すんだい?」

「え・・・えーと・・・さっき支払いの話になった時に奴隷として売ってくれ。そのお金を支払いに充ててくれって言われてしまって・・・」

「なんだ。そっか」

「てっきり誰か奴隷として買い取ってあれやこれ・・・コホン」

「いやいやいや、そんなことしないって!」

「ゴホン。それはそうとボクが知る範囲の領では奴隷の話は聞かないね」


(ということはやっぱり奴隷はシステムとして存在しなかったか。なら奴隷として領に連れていくことは無理か)


「ただ、領土戦で勝った領が負けた地域を併合する際に一等国民、二等国民なんてぐあいに分けるってことはあったようだけどね」

「へー」

「あと、たとえ使いつぶさずとも奴隷なんていう立身出世が望めない地位を作ると、領として発展が鈍ってしまうよ」

「へ?・・・安直な考えだけど、安く使える労働力って発展に寄与しそうだけど?」

「あぁ。それは奴隷が持続的に確保できる・・・つまり奴隷の供給が安定しているのならって前提があるんだよ。領と領の間のやり取りで奴隷はやりとりできないからね」

「へーなるほど」

「あと教導隊として言わせてもらえれば、訓練兵はやる気がある方がよく成長する。最初からやる気を奪い、伸びしろをつぶすその制度は領として使えない人材を量産することになるよ」


(なるほど。そういえば昔、海外で働いたサラリーマンの愚痴を聞いたことがあるぞ。ある国ではカースト制度(階級制度)があった影響が残っていて、労働意欲が最悪だって。仕事をしてもよくなることが信じられないからか、仕事は雑で時間は守らない。作業効率は上がらないし、技能も身に着けてくれないからいつも隣で指導してなくちゃいけない。って愚痴ってたな。そういうことだろうか?)


「わかった。で、話を戻すけど彼らに食料と水を用意しようと思うんだけど彼らを転移させて領の食堂に呼ぶのは大丈夫?」

「それは無理。領の転移システムで移動できる人物は登録されている人材に限られている。ゲートをくぐっても彼女らは転移できないよ」


(Oh・・・転移機能はハイテクすぎるな・・・)


「ちなみに登録は『自領の領民登録』か『友好的な交流のある領の領民登録』に限られるから、彼らの場合必然的に領民として受け入れる以外に方法がないね」

「・・・そういえば研究・教育施設が『新たな領民を迎えろ』だったけど・・・」

「そうしたいんだけどね・・・。新しく領民を受け入れるのには医療関係者が必要だよ」

「ん?なんで医療関係者?」

「防疫の必要があるからね」


(えぇぇ・・・なにそのチョー現実的な話は・・・)


「うちの領だと民間の医療施設はないから衛生兵を開放する必要があるね・・・解放条件は・・・マホロなんだっけ?」

「ごめんなさい。そこまでは覚えてません」

「・・・まぁ、そういうわけだよ」

「了解。そうか・・・」


(なかなかままならないもんだなぁ・・・)


「あ・・・そうだ。赤ちゃん用のミルクってある?」

「?なんで?」

「いや、あの人たちの中に一人乳児がいてね。ぐったりして元気がないんだ・・・」


 と赤ちゃんのことに言及すると目の前の女性二人は突然顔つきを変えた。


「えっ!?それはまずい!急がないと!とりあえず天幕を呼び出して休憩区画を利用してもらおう。あそこなら体力を回復させることができる。時間稼ぎにはなるよ」

「へ?」


(天幕のその機能、知らなかった・・・知らないことだらけだな・・・勉強しないとな)


「赤ちゃん用のミルクはありませんから、白湯を用意しますね。ミルクが必要ということは、母乳が出てないってことですよね?一刻も早くお母さんに栄養のあるものを取らせて授乳できるように戻さないと・・・」

「君は彼らと話をつけて、天幕で休ませておいて。その間にボク達が館まで食料を取りに行ってくるよ」

「りょ・・・了解」

「お願い。あ、天幕をここに展開しておいて。見られたり、触られたりしてまずいものを隠しておくから。それが終わったら連絡するよ。そしたら退却命令で館に強制転移させて」

「・・・リョッカイ!」


 天幕を設置して、再びガパティたちのもとへ戻る。駆け足でだ。彼らのもとに着くと、ガパティとフェーネは驚いた顔をしていた。


「あの、先ほど突然あのテントが現れましたが・・・あれはいったい・・・?」

「はぁ、はぁ・・・うちのテントです。皆さん直射日光に当たられては疲れてしまいますよね。・・・だからあそこで一度休んでいただこうかと思いまして」

「はぁ・・・」

「ふー・・・で、先ほどの食料と水の対価の件に話を戻していいですか?」

「!・・・はいっ!」

「まず、食料と水はお分けします。そのうえで私たちは対価として皆さんを雇いたい」

「雇う・・・ですか?」

「はい。街に着いたときにその街の人口や文化などいろいろと調べてもらいたいんです」

「はぁ・・・」


 ガパティもフェーネもいまいちピンと来ていない顔をしている。


「まぁ、その調査活動を手伝ってもらうことを対価として食料と水を支援するということで」

「はぁ・・・つまり、あなたの仕事を手伝えばいいってことですか?」

「そうです」

「分かりました。それでお願いします」


 そこまで話をすると連絡が入った


『こちら京藤。準備完了した』

「あ、ちょっと失礼します。」


 そういってガパティ達に背を向けタブレットを取り出す。通信コマンドを選択し通信する。


「・・・了解。転移させます」


 タブレットで撤退指示を二人に出し、強制的に転移させた。


「よし」

「あの・・・その板はなんですか?」

「?タブレット端末ですが・・・ってそうじゃない。あの天幕に皆さんを移動させてください」

「あ・・・はい」


 フォックス族の人たちはみな疲れた顔をしていた。しかしきちんと指示に従い天幕に移動していった。

著者は自衛官ではありません。

戦闘糧食Ⅰ型を登場させるにあたりいろいろ調べてみたんですが売ってないんですね。

サンヨー堂というメーカーから缶飯が販売されていて、このメーカーさんが自衛隊にも納品しているとかしていないとか・・・。興味があるので通販でポチっとしてしまいました。

なお、自衛隊で出される食事に戦闘糧食が登場することはあまりないとか。演習や災害派遣など以外ではあまり食べないそうですね・・・。(知らなかった・・・orz)

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