2
お読みいただき、ありがとうございます!
もう少し更新頻度あげられるといいなぁ・・・。
完全な道なき道を車でひた走るのかと思っていたが、実際はそうでもなかった。
流石に整備されてはいなかったが、あの遺跡からずっと古い石畳がなんとか残っていたのだ。それでもアスファルトとは違って車の座席越しに身体に伝わる衝撃はかなり大きく、葉月の腕の中でゴン太も時折抗議の鳴き声をあげていたが最終的には諦めたのか丸くなったままとなってしまう。
いろいろと話を聞きたくはあったのが、長話となるとなかなか難しい。なんの予告もなくやってくる舌を噛んでしまいそうな衝撃に喋るどころではないのだが、それでも僅かな平坦な道の合間に言葉をかわす。
「お父さん、たまに出張とか言って帰ってこない時あったけど、もしかしてここに来てたわけ?」
「全部が全部じゃないけどな。以前は身体が小さかったからどうしようもなくて伝言だけでなんとかしてたが、流石に難しくなってきてな」
「それって子どもの頃? キャッ?!」
ガタンッという揺れに合わせて体も跳ねるが、大雅は慣れているのか平然と運転を続けている。
「そうそう。流石に山奥に1人で入る事ができなかったんだが、ちょっとこっちでゴタゴタもあってそうもいかなくなって、それから少なくとも1年に1回は来てるかもなぁ」
「なにそれ。お母さん、それ知ってるの?」
「あー、一応な。あいつはあんまりいい顔しないけどな」
それはそうだろうと、思う。自分の夫と前世で殺しあった世界だし、と。葉月の表情に大雅も何かを察したのだろう。向けてきた視線は困ったような笑みを浮かべており。
「風花は、あー・・・ラミウムって言ったほうがややこしくないか?」
「どっちもでいいよ。お母さんはお母さんだもん」
「そりゃそうだな。とにかくこの世界では確かに勇者だったんだ。選ばれし者という事で人間どもにもてはやされていたわけなんだが」
「・・・」
「とはいっても正義を貫くとかそんな良い存在じゃなかったんだよ」
忌々し気な口ぶりに、改めて父のほうを見る。視線を前に向けて運転に徹してはいるが、苦虫を嚙み潰したようという表現がまさにそのままあてはまっている。嫌っているというよりも、嫌悪しているというほうがあてはまっているかもしれない。
何故か自分の父が魔王と言われても、妙にそれがすんなりと受け入れられたが、だいたいにおいて人と魔族は敵同士といった感じが多い。そんな事を考えているうちに、今更ながら気づく。
「え?あれ?もしかして・・・私ってもしかしてお父さんと一緒の魔族?」
「はあ?」
「え?だって、お父さんってほんとは魔族なんでしょ?」
「魔族じゃねぇよ、おまえにもわかりやすいように魔王って言ったけどな。まぁ・・・魔族といっちゃ魔族なんだが」
「じゃあ、なんなの?」
葉月には、この世界そのもの自体よくわからない存在である事に、今更であるが大雅も気付く。自分にとって当たり前でも、他人はそうではない。
どうやら根本的な部分から話をしなければいけないという事に、漸く理解した。
「この世界じゃな、人間っていうか人に分類される種族が幾つかあるんだよ。そのなかでラミウムは人間だな。基本は地球の人間とさほど変わりない。とはいっても訓練なんかでだいぶ変わってくるし、一番違うのは魔法が使えるって事か」
「じゃあ、お父さんは?」
「俺?俺は・・・1番的確なのは古代種か。大昔に滅んだっていう具合に伝わってたけど、どっこいこれが生きてたんだよなぁ」
「氷河期とか隕石が落ちてきたとかそんな感じ?」
「おそらくな。神の怒りに触れたとかで滅びて魂を悪魔に売り渡して蘇った魔族。とかいう立ち位置らしいが、実際は違うらしいぞ?」
どうやらこの世界の成り立ちもかなり複雑らしい。無神論者というわけではないが、平均的な日本人的思考の持ち主である葉月には一神教の教えに馴染みが薄い。様々なものに魂と神が宿っているというほうがまだ信じられる。
「残ってた文献によれば大災害で地下の奥深くに逃げ込んで長い間そこで身を潜めて生き延びていたんだが、その間に当時は下位種と呼ばれる魔法の使えない人間が増えていったらしい。で、もう大丈夫だって出てきて地上で生きようとしてたんだが・・・よくあるその後は土地争いだな。本来の自分達の居場所を主張する古代種と今ここに生きてんのは俺等だっていう人間達の争いは、まぁ飽きる事なくずっと続いていたわけだ。無論協力し合って生きていこうとした者達もいる。そういった連中の間に子供もできて仲介役として境界線で生きてくようになったわけ」
「じゃあ、私と兄さんって混血なの?」
「あぁ・・・まぁなぁ。一応そうなるかもだが、葉月はどっちかといえば風花に似て人間かもなぁ。炎景は俺に似たのか血筋的には古代種寄りっぽいが、というかこっちには本当は一生連れてくるつもりはなかったのにな」
「じゃあ、私もしかして魔法使える?魔剣が持てるとか?」
「無理無理。魔法はこの世界ではそれなりにレアだから使えるのはわりと限られているし、人間だと使えないほうが多いんじゃねぇか?大昔の古代種の血が蘇って使えるようになったのもいるっぽいけど、だいたいは異端児扱いだしな。それに剣術自体まともに習ってねぇだろうが」
「なんだぁ・・・残念」
いきなりできるような事じゃないのは理解しているようだがどことなく残念そうな娘の様子に、大雅の口から思わず笑いが漏れてしまう。
「でさ、お母さんなんでこっちにいるっていうのはわかったけど、なんで?お母さんはもうこっちの人じゃないんでしょ?」
「正直、わからん。居場所はだいたい察しはつくけど今すぐどうこうできるような場所じゃない」
どうしたもんだか、と口の中で呟く父の姿に娘もまたどうしたものだか、と考える。
なんとなくお互い黙り込んだまま、進み続けていたがやがて遠目にも遺跡が目に入ってきた。
「あそこに車を隠して、迎えを待つぞ」
「え?車じゃ行けないとこなの?」
「車なんか見せたら、それこそ騒ぎどころじゃねぇぞ。それに通りでガキ共に触られまくって傷つけられたらどうすんだよ」
「野外走る車なのに、傷がどうとかおかしくない?それにこんな大きな車なのに洗車機じゃなく手洗いとかすごい面倒だし!」
「洗車機なんかかけたら、それこそ傷つくだろ!」
「毎回手伝わされる方の身にもなってよ!」
「もういい、俺一人でやるし。小遣いもやらん!」
「拗ねないでよ、もう!」
ギャーギャーと騒ぐ大雅と、そしてやり返す葉月の腕の中で、ゴン太は呆れたように2人を見上げていた。