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遅い時間のサービスエリアの食事は、微妙に味気ない気がしたのは気のせいか。
いや、気のせいではないだろう。
テーブルを挟んで向き合う父と娘は、とりあえずとばかりにラーメンをすする。
「チャーシューやる」
「いらない」
実際微妙に美味しくないのだ。出来合いを温めて出しているだけであるわけだから、まぁしょうがない。
葉月にあっさりと断られ、むぅっと眉が寄った大雅は、仕方なく自分の口の中に無理矢理うすっぺらいを丸い肉片を押し込む。
なんとも気まずいままに、閑散とはしているが誰もいないというわけではないサービスエリアでは確かに話しにくい。
娘がが食べ終わるのを見届けると、父は器用にトレーを二つ手にして立ち上がれば誰もいない返却口にそれを押し込む。
誰もいないのに、「ごちそうさま」という言葉が聞こえてくるのは、父らしいなと思う。
そういった礼儀には、両親はごくごく幼い頃から口うるさかった。
「葉月、トイレ行ったらここ出るぞ」
「少し寝るんじゃなかったの?」
「いや、もうちょっと後にする」
やや眠たげに生欠伸しながら、トイレに向かう父の姿に娘は何とも言えない顔で見送る。
先程の答えをはぐらかされた事もあるが、どうにも先程から態度が煮え切らないように見えて仕方ない。
ただ、必要な情報は隠すような父ではないし、あまりにしつこく問い掛けても意味がないのは経験済みだ。
仕方がないので自分も、身支度なり済ませてから外に出る。
「あれ?お父さん・・・?」
男女別のエリアの境目辺りで待っていると思っていたのに、そこには夏休みを利用して旅行でもしているのであろう数人の若者達のみで。彼等がチラチラとこちらを見る視線を感じたが、気にしないようにしながら周囲を見回し、そして見つけた。
大雅は誰も車を停めていない、駐車場の片隅でフェンス越しに外を見ていた。
声を掛けて駆け寄ろうとして、どういうわけか違和感を覚える。父が父でないような気がしたのだ。
何事にも根回しと下調べを欠かさず、気に入らない相手を徹底的に追い込み(性格が悪いと母にいつも叱られているが)、自分の父親だが人生にも何もかもに余裕なのかと思わざる得ない男が、薄闇の中で苦虫を嚙み潰したような顔をしていたのだ。
だが、同時に気づいた。口元が動いていた。何か呟いているというわけではなく。誰かと話しているらしい。フェンス越しの誰かに。
そして、父の後ろ姿に一瞬何かを垣間見る。黒い翼のような、影のような何かに。
得体の知れない恐怖に、葉月は咄嗟に父に声を掛ける。
「お父さん、何してるの!早く行こうよ!」
娘の声に大雅は顔を上げれば、フェンス越しのソレはすっと山の繁みの中へとゆっくりと引きさがっていく。
「野良猫がいたのに。逃げただろ?」
「え?嘘!仔猫?」
「違う。ほら、行くぞ」
猫という言葉に目を輝かせてこちらに駆け寄ろうとする葉月を手で制しながら、大雅は踵を返して娘の許に向かう。
「先に行け」
短くソレに伝えれば大雅はその場を立ち去る。そして全てを承知したかのようにソレもまた夜の闇に同化していく。ふわふわと闇の中を漂いながらも、車の動きを暫く見ている様子を見せていたが、そのまま気配も消え元の静寂と遠くからの喧騒のみが聞こえていた。
リアル事情で、遅筆ですが。読んでいただき本当にありがとうございます!!