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(異)世界家族旅行  作者: 歩々
第一章 そして、誰もいなくなった(兄以外)
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1

 夏の日差しは、本当に熱い。

 暑いのではなく、熱いのだ。

 長袖の白いブラウス越しであってもジワジワと腕が焼かれていくのがわかる。

 母に似て色白の浅野葉月あさの はづきには、なかなか夏は厳しい季節なのだが、名前にある通り彼女は8月生まれだ。

 暑さに強いだろうと思われるが、実際は真逆で幼い頃は誕生月が来るたびに不機嫌オーラ全開であったらしい。


「あっつ・・・」


 正午過ぎ、学校主催の成績に問題ない者達は自由参加・・・実際は殆どの生徒が酸化している夏期講習を終えて帰宅する為に、自宅の最寄り駅から1人で歩いて家路に向かうのは、県内でもトップレベルとまではいかないが、それなりに偏差値も高い高校の制服に身を包んだ女子高校生だ。

 あまりの暑さにくせのない長い黒髪の頂点にハンドタオルをのせたまま歩いている。

 朝ここを通った時はまだ暑さはいくらかマシではあったが、強すぎる日差しに焼けたアスファルトの上は空気が揺らめいていた。



「暑すぎるし」


 先程から、暑いとしか言ってない。

 日傘を持ってくればよかったと思ったが、時既に遅し。

 とはいえ白いブラウスだけならともかく、ニットベストも着込んでいるともとなれば蒸し暑くて当然だ。

 実際汗だくになるのであるが、建物や電車内は思いのほか冷える。というか、寒い。それに汗まみれでシャツが張り付いて素肌が見えるという状況もできる限り避けたい。

 自ら男どもの視線の餌食になるつもりはないし、なによりも父がうるさい。

 普段からであるが、人前で肌を晒すようなみっともない真似するんじゃない。誘ってるわけではなくても、男の目が行くわけだから何かあった時に自衛もできないならそんな恰好するな。等々、一部の女性なんちゃらな団体が聞けば目くじら立てそうな言葉が立て板に水の如くぽんぽんと飛び出してくる。だが世の中の状況を考えれば、父親の言葉も一理ある。というよりも、間違っていない。間違っていなければ、何を言ってもよいのかと云われても良いのかというと、それは別として。

 結局のところは、自分の身は自分で守らなければならない。そこに行きつく。


「駅まで迎えに来て、って頼んだのに。なんで今日に限っていないのよ」


 葉月の父は、会社勤めをしているわけではない。

 物心ついた頃からすでに、自宅の一室を書斎としておりそこで仕事をしていたと思う。

 曖昧なのは仕事が多岐に亘っている為か、何が本業なのかいまだによくわからない事だ。

 中学や高校の家庭調査表にも【在宅勤務】としか、書かれていなかった。

 専業主婦である母と謎にいろいろやってるらしい父と、1年前にスーパーの駐車場で拾ったキジトラの雄猫と、この春社会人となり家を出た3歳年上の兄が、彼女の家族。

 そして自分はといえば、高校生になって初めての夏休み。

 葉月にとっては、何もかもが初めてづくしの夏休み。


 本当の意味で、それを思い知らされたのは、帰宅直後。

 今はただ、暑さにぼやきながらただひたすら家までの道のりの歩き続けていた。

 


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