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いつもい読みいただきありがとうございます!
間があいてしまいましたが、続きです。
もう少しテンポよく書けたらいいなぁ。
馬に揺られるという経験も、なかなか悪くない。
と、思っていたのは昨日までだった。
山を下り、平野部に入って途中で野宿をし、今は森の中をひたすら進んでいた。
「お父さん」
「なんだ?」
「お尻痛い」
「だろうなぁ」
「腰痛い」
「後ちょっとだし」
「休みたい」
「お前、ほんっとにうるさいな!」
「だって、ずっと座りっぱなしだもん!」
「少しくらい我慢しろよ!俺だって、貧乳にしがみつかれたままなんだぞ!」
「セクハラ!最低!貧乳関係ないじゃん!」
「事実だし~」
「お母さんに、絶対言いつけるからね!」
「あいつも、ひんn いてぇ?!」
「ほんっと、お父さん最低!」
誰も、この親子の会話に口が挟めない。
いや、挟んでこない。
異世界で別人生活を満喫しながら自分の国も治めている魔王エドゥアルト。
急遽戻ってくるという連絡を受けて直属の近衛騎士達で迎えに行った。
聞いてはいたが娘が一緒だったのだ。
互いに自己紹介はとうに済ませてはいるが、騎士団長であるクニバートをはじめとしたほぼ全員が、戸惑いを隠しきれずにいる。
魔王と勇者との娘。
エドゥアルトが娘が戸惑うからという理由で、異世界での姿のままでいる事にも驚いていたが、娘だという少女の魔王に対する遠慮がなさすぎる会話と傍若無人にしか見えない振る舞い。
本来であれば、あの少女は王の娘としての教育を受けていたのではないのか。正妃はおろか妾妃すら傍に置こうとはせず、幼き頃より魔王に仕える老師が盛大に溜息をつくであろうと、誰しも想像を逞しくさせ波乱の予感に密かに溜息をつく。
ただ2人を除いては。
「姫、この森を抜けた先に泉がございます。そこで休めます」
「ほんと!?」
ローブを身に纏った葉月より少し年上と見受けられる青年が、口喧嘩をしてる魔王とその娘を乗せた馬に自分の馬を寄せて穏やかに仲裁をしてくる。
「はい。初めての長旅でお疲れでしょう?」
「高速の渋滞よりは、全然マシだったよぉ」
「なら、お前文句いうなよ。コンラート、こいつを甘やかさなくていいからな」
「ひっど!あ、それとコンラート君、私の事は姫って呼ばないで」
「そもそも姫って柄じゃねぇよ」
「お父さん、うるさい!」
「では、なんと・・・」
「葉月でいいから。くすぐったいし」
コンラートと呼ばれた青年は、穏やかに笑むと静かに頷く。そこへ先行していた少女が、クニバートに状況を簡単に報告を終えると同じように馬を寄せてきた。
「ほら、疲れたんだろ?」
「え?あ、なにこれ?」
「様子見に行った先で見つけたんだ。甘いし元気になるぜ」
「ありがとう」
渡されたのは、小指の先くらいの大きさの小さな赤い実を数粒。
男勝りな口調であるが、気さくな性格なのだろうか。異性という事もあり周囲は気を使ってあまり話しかけてこない状況で、彼女の存在はありがたい。
「悪いな、エルミナ」
「いいってことよ。それにお袋も早く会いたがってたし俺も楽しみにしてたんだ」
「エルミナ、陛下に対してなんという口の利き方・・・」
「だって、今は陛下じゃなくハヅキの親父として接しろって言われたんだぜ?」
ニカっと笑って見せるエルミナの後ろで、クニバートは溜息をついている。
馬を操りながら、大雅も頷いて笑ってみせる。
「そういう事だ。急な事で悪いとは思ってはいるが・・・今回は、風花を見つけて連れ帰る事が目的なんだ」
「承知しております。表立っては我々も動いて事を荒立てるわけにはいきません。何より・・・」
「わかってるよ。お前たちには本当にすまないと思っている」
「なら、この一件は貸しとしておきましょう。事が落ち着いたら、政務にもう少し関わっていただきますよ、タイガ」
「てめっ!取引材料にするつもりかよ、クニバート!」
「個人的に動きたいって言いだしたのは、そっちでしょう?」
言っている内容はともかく、彼等2人は楽しそうだ。
父の後ろでそれを眺めながら、葉月は少し心細さを覚える。
ここは、父の生まれ故郷であって、自分はなにひとつ知らないという事を、思い知らされる。
今度は、魔王と近衛騎士団長の舌戦がはじまり、誰もが笑いながらそれを見ている。
ただ一人を除いては。