終わりと静寂
世界は、淡々とただ時を刻むのみだ。
ただ終焉の時を迎えるその日まで。
どの世界でも、おそらく同じだろう。
そして、この世界でも。
蒼い澄み渡るような瞳は、今や何も映していない。
薄紅色のふっくらとした唇からは、意味のなさない呻きのみ。
かつては白銀に輝いていたであろう鎧も、特別にあつらえられたのであろう剣もまた、濁りそして形容し難い色に染められている。
憐れなものだね、君はこうなってまで何を求める?
倒すべき敵は既に狩り尽くされいた。
生きている者、不死化しても尚蠢く者問わず、見える範囲にはもう誰もいない。
彷徨う少女と、目の前に降り立った男以外は。
・・・。
男の言葉に対する応えはない。
ただゆるゆると、少女も顔があげられた。
癖のないけれども伸びるに任せられた髪は、元の色が何色であったのか。
男は手を伸ばして、少女の髪をかきわける。
指先が額の辺りに触れても、少女からはこれといった反応はない。
ただ一瞬ではあるが剣を持つ手が上がりかけるも、結局はただそれだけであった。
この地方一帯の魔物は、もういない。
戦いに巻き込まれた人も、ね。
惨いものだ。
・・・・て。
それは無理だ。
いまの君は、強くなりすぎた。
それに自らの意思に背いて暴れられるわけだから、殺すのにも時間がかかる。
そうなると、今度こそこの辺り一帯はもうどうにもならなくなる。
・・・し・・・て。
あぁ、でも。
私なら君をどうにかできるだろうね。
御大将自ら赴いたのも、そういう事だ。
・・ろ・・・し・・・て。
君自身、もうわかっている筈だ。
老いる事も簡単に死ぬこともできないその呪いは、解く事は難しい。
魂そのものに刻み込まれているからね。
たとえ死んでもまた君は勇者として、この世界に囚われる。
本来生まれるべき無垢な赤子は、君の呪いを刻み込まれるんだ。
・・・こ・・・ろ・・・し・・・て。
もう何回も、君を殺したからねぇ。
なのに何度も生まれ変わるものだから、おかしいと思ったんだ。
だから今回は少し様子を見ていたんだけれども、ほんと難儀な呪いをかけられたものだ。
もう・・・いやだ。
だろうね。
でもね、私なら少なくとも今の状況から解放する事はできる。
一時的ではあるけれど束縛を解けばその間くらいは、自由に生きるなり好きにするといい。
私もそれに付き合おう、準備に少し時間がかかるかもしれないけれど。
死と絶望が支配するこの場所の空気が、揺らいだような気配。
どう・・・して・・・?
余興だよ。
それに、お互い知らぬ仲ではあるまい?
少し時間はかかるが、私も君の許に行こう。
だから・・・。
・・・。
その日より、勇者の気配は世界から消えた。
同時に、魔族の襲撃も止んだ。
世界は、安定の時代に入った。
恐らくは。