表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(異)世界家族旅行  作者: 歩々
序章
1/12

終わりと静寂

 

 世界は、淡々とただ時を刻むのみだ。

 ただ終焉の時を迎えるその日まで。

 どの世界でも、おそらく同じだろう。

 そして、この世界でも。



 蒼い澄み渡るような瞳は、今や何も映していない。

 薄紅色のふっくらとした唇からは、意味のなさない呻きのみ。

 かつては白銀に輝いていたであろう鎧も、特別にあつらえられたのであろう剣もまた、濁りそして形容し難い色に染められている。



  憐れなものだね、君はこうなってまで何を求める?



 倒すべき敵は既に狩り尽くされいた。

 生きている者、不死化しても尚蠢く者問わず、見える範囲にはもう誰もいない。

 彷徨う少女と、目の前に降り立った男以外は。


 

  ・・・。


 

 男の言葉に対する応えはない。

 ただゆるゆると、少女も顔があげられた。

 癖のないけれども伸びるに任せられた髪は、元の色が何色であったのか。

 男は手を伸ばして、少女の髪をかきわける。

 指先が額の辺りに触れても、少女からはこれといった反応はない。

 ただ一瞬ではあるが剣を持つ手が上がりかけるも、結局はただそれだけであった。



  この地方一帯の魔物は、もういない。

  戦いに巻き込まれた人も、ね。

  惨いものだ。



  ・・・・て。



  それは無理だ。

  いまの君は、強くなりすぎた。

  それに自らの意思に背いて暴れられるわけだから、殺すのにも時間がかかる。

  そうなると、今度こそこの辺り一帯はもうどうにもならなくなる。



  ・・・し・・・て。



  あぁ、でも。

  私なら君をどうにかできるだろうね。

  御大将自ら赴いたのも、そういう事だ。




  ・・ろ・・・し・・・て。



  君自身、もうわかっている筈だ。

  老いる事も簡単に死ぬこともできないその呪いは、解く事は難しい。

  魂そのものに刻み込まれているからね。

  たとえ死んでもまた君は勇者として、この世界に囚われる。

  本来生まれるべき無垢な赤子は、君の呪いを刻み込まれるんだ。


 

  ・・・こ・・・ろ・・・し・・・て。



  もう何回も、君を殺したからねぇ。

  なのに何度も生まれ変わるものだから、おかしいと思ったんだ。

  だから今回は少し様子を見ていたんだけれども、ほんと難儀な呪いをかけられたものだ。

 


  もう・・・いやだ。



  だろうね。

  でもね、私なら少なくとも今の状況から解放する事はできる。

  一時的ではあるけれど束縛を解けばその間くらいは、自由に生きるなり好きにするといい。

  私もそれに付き合おう、準備に少し時間がかかるかもしれないけれど。



 死と絶望が支配するこの場所の空気が、揺らいだような気配。



  どう・・・して・・・?



  余興だよ。

  それに、お互い知らぬ仲ではあるまい?

  少し時間はかかるが、私も君の許に行こう。

  だから・・・。



  ・・・。



  

 その日より、勇者の気配は世界から消えた。

 同時に、魔族の襲撃も止んだ。

 世界は、安定の時代に入った。

 恐らくは。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ