第1話 マグカップ
「コレ」で何かを飲んでいるとき、私はいつも思う。
「ほんとうに良いよなあ、このマグカップ」
このマグカップは、すごく良いのだ。東北を旅したときに、自分へのお土産がてらに購入した陶製の凡庸なものだが、使い始めてもう十年になるか。
カップのイラストがとても良い。わずかに光沢のある土気色の下地に、群青色のペンギンが2羽描かれている。単純な筆致なのだが、絶妙に良い。
中の色も良い。コーヒーはカップの中が見えなくなるから、私はコレで紅茶やスープを飲むのが好きだ。仄暗くなったカップの底と、満たされた液体の煌めきにうっとりする。
カップの縁の分厚さがまた良いのだ。思い切って分厚くて、すするときになんだかキスしているような気持ちになる。
そして、重さにも良さがある。普通のマグカップとしての重さよりわずかに重く感じて、その確かな存在感が私の腕に、全身に伝わるのだ。
「ほんとうに、ほんとうに良いよなあ、このマグカップ」