23 極秘会議
「嘘つき、何で教えてくれなかったの。どうして、黙ってたの。」
「忙しかっただよ。でも、少しは教えたじゃないか。それに気づかない方が悪いのさ。」
おいおい何を話してるんですか。でも、面白いから少し痴話喧嘩を見てたいような気もするが、ここは仲裁に入るしかないようだ。
俺は、シュレとアースの間に入って落ち着くように促した。
喧嘩の発端は全く簡単である。アイドルシュレとなってアンドロポリタンで男神達にアイドルファンクラブイベントを開催して、収入となる神々の祝福をアースがマネジメント料という名目で搾取したからである。
アースの意見を単純にまとめると、どんな新人アイドルも売り出すには莫大な経費が掛かる。シルキーポリタンの星神であっても、アース自身がプロモーターとなり、マネージメントしているのだから、経費として天引きするのは当然であると言っていた。
それに、対してシュレ自身がどれほど収入を稼いでるかわからないまま、搾取しつづけるのが不満をもっており、なおかつ、男神からプレゼントされた至宝ともいえるアイテムの一部を売る計画がもちあがったことに腹をたてたらしい。
やれやれ、詳しい計画も聞かず契約書もないまま、プロデュースされているシュレの方が悪いと思ったが、何せ、ここはアンドロポリタン、アンドロポリタンの司法というものにまかせよう。
でも、あやがついたアイドルなんて神様でも今後見向きもされないぞシュレ。
俺たちは、しばらく泥仕合を見ていると、見かねたアンドリューが割って入った。
「あのー、アース叔父様、もし、アンドロポリタンで訴訟が起きたら、負けますよ。わかってますよね。」
皇子はかつて、アンドロポリタンで住んでいたアースがシュレに対して、騙しきるのは難しいと悟らせた。
「神々が審判するからには、着服が少しでもあれば・・・どうなるかわかりますよね。」
「シュレ・・・なんだ。星神の我は、式神から上位神にしたかったのじゃ。それに、今後お前の活躍の場を用意するために、このようなことをしていると理解してくれ。ごめんなさい。」
「おいおい、謝っちゃったよ。」
俺はぽろっと心の声が出てしまった。でも、それほど、神々の審判っていうのは恐ろしいものなのか理解に苦しんだ。
俺の顔色からその場にいた、イリヤも小声で囁いた。
「ケイスケ。アンドロポリタンは神々の審判は早いのよ。」
それには理由があった。神のやる事には基本的に悪気はない。しかし、神の唯一の弱点は感情の起伏が少ないことだ。
意味が分からないかもしれないが、悟りを得ている神々にとって、些細な物事の移り変わりなどは平常心を持つのは当たり前だが、大抵の喜びや悲しみでも感情の起伏がなくなっている。
しかし、通常の神々の日常にない、アイドルのファンサービスなどは、天界に住む神々に多少なりにも、感情を揺さぶられる出来事であった。
そして、そんな貴重な神々の心の変化をもたらした、アイドルシュレを仮に騙したり、搾取しようとしたら、完全にOUTになるのは目に見えている。
そして、ここはアンドロポリタンという3院制をとっている天界。物事の判断を司法を通さず意見をきこうものなら、あっという間に判断が下ると言っていた。
そんな話を聞いていると、エリザベート王女は謁見の間から、応接間に移るように促された。
広く大きな宮廷の廊下を通り、気品に満ち溢れた、アールデコ調の応接間に通された。
そこには、すでに、綺麗な花が活けてあり、席につくなり、茶菓子と紅茶が運ばれてきた。
柑橘系のさわやかな甘みのある香りに包まれた応接間は先ほどまでの口論はなかった。
すると、後から入ってきた御使いが小さな白い宝石箱を丁寧にお盆にのせて持ってきた。
「王女様、頼まれた指をお持ちいたしました。4神分でよろしいですか。」
「ありがとう。セバス。下がっていいわよ。」
「はい、王女様。」
足早に、セバスは一礼をして応接間から出て行った。
王女は指輪を俺とイリヤ、アース、シュレに渡した。
「アース様は既に持っていますよね。でも、新しくデザインした指輪に変えてみてはいかがですか。」
そういうと、アースは持っている指輪と新たに貰った指輪を重ねた。手の中で重ねた指輪からか、重ねた手の平から光が洩れでている。ほんの数秒で光が消えた。そして、指輪が一つになっていた。
シュレは悲しそうにつぶやいた。
「古い指輪は・・・」
「新しい指輪に吸収されてチリに消えたよ。」
アースはシュレの物がなしく、アイテムほしそうな顔を見つめ、失敗したと感じていたのであろう。直ぐに、シルキーポリタンで使われていた古い指輪をシュレにあげるのであった。
「ちょっと見た目は古いが以前、シルキーポリタンで神々が使っていた復刻モデルの指輪だ。ついでにシュレ、お前にやろう。今使っている指輪にはない味があるぞ。しかし、使うなよ。ビンテージものだからな。」
やれやれ、という顔でアースが紅茶を飲み茶菓子をつまんだ。
それを横目に、俺とシュレにエリザーべートは指輪の話しをしてくれた。
「この指輪はアンドロポリタン専用のお財布兼民分証明書よ。シルキーポリタンの指輪と大きく違うのは、GOD機能付きなのかしら。例えば、良くない法律や予算が組まれたときにNOといえるのよ。」
「凄いですね。リアルタイムで法案を廃案に出来るんですか?」
俺は目を開きながら王女に聞いてしまった。
「そんなことは、滅多にないわよ。あるとしたら、余程、神々の世論を揺さぶるような、物議を醸しだす話題の場合だけどね。でも、法案が執行していても悪法ならある一定の神々の審判となる啓示を示せば変えることは可能よ。」
「え、そんなことできるんですか。この指輪一つで革命できるんですか?」
エリザーベートは少し顔を引きつりながら答えた。
「え、まあ。そうね。でも、必ず、対案がないと無理なのよ。否定するだけじゃまずいのよ。だから、廃案にする理由とそれに代わる対案をあげて、神々に賛否を問うのよ。そうすれば、2院議会に了承を得るのよね。だから、議員や貴族にとっていい法案でも世論が納得できないことがあれば解散させられるのよ。」
俺はこの指輪の持つ本当の力を感じずにはいられなかった。
俺は指輪の機能を理解するべく、指輪に神力を少し与えると、頭の中に、モニターらしきものが浮かんだ。
モニターにはいくつの身分に関する項目があったが、とりあえず財布機能の項目を心の中で選択して映し出した。そして、それぞれがやはり、財布の中身を確認しているようだ。
勇神ケイスケ
現金 12,263,468,385,219A
総合預貯金 0A
総合投資 0A
総合ポイント 48G
婦神イリヤ
現金 858,364,226,753A
総合預貯金 1,001,945,319,805A
総合投資 0A
総合ポイント 6G
眷属神シュレ
現金 4,862,000,000,000A
総合預貯金 0A
総合投資 0A
総合ポイント 4862G
シルキーポリタン地球星神アース(元アンドロポリタン王室前第二皇子)
現金 1,288,985,536,216A
総合預貯金 50,000,025,346,298A
総合投資 8,721,058,267,203,056A
総合ポイント 156,238,757G
俺はさりげなく、アースに普通預金、総合投資、総合ポイントについて聞いた。
すると、アースは当たり前のように答えた。
「ケイスケはまだ、アンドロポリタンバンクに預けてないんだよな。詳しく教えてやろう。」
そういうと、普段パーティピープルをしているゆとり神とは思えないような博学な知識で俺たちに教えてくれた。
アンドロポリタンの通貨ともいえるAは基本的には神自身への信仰を表す単位であり、願いや祈りの総量ともいえる。
もし、ケイスケがある惑星の星神なら、そこに暮らす一人の人間が、「今日も星神様、いいことがありますように。」といのったら1Aという信仰を神は受けるんだ。
当然、信心深い人々が多く、祈りを捧げる回数が多ければ、それだけ神の恵みを与える機会も大きくなる。そして、信仰が根差した土地には様々な神も集うようになる。
しかし、無神論者が多くなると、そこに根差していた土地神やあらゆる神々がいなくなってしまう。そして、メリットを感じなくなった土地には、悪神が現れても対処できなくなる。
そんな話をしているとき、イリヤが口を挟んできた。
「サキも、ケイスケと一緒に勇者の一行だったから、このアンドロポリタンでは神のように信仰を集めているのよ。それに、前世では賢者として尊敬され拝められていたから、死んでも人気があって祀られているわ。もちろん勇者ミコトもね。だから、結構A貯まってるんじゃない。どのくらい持ってるか、教えなさい。」
「そういうイリヤも、俺が転生する前から女神として活躍してたんだろう。封印されていたとはいえ、前世では女神信仰は熱かったぞ!今でも根付いているんじゃないか?」
俺たちはお互いに見つめ合いながら、これ以上の腹の探り合いはやめた。
そのとき、シュレが無頓着に自身の財布の中身を洗いざらい話した。
すると、総合投資と借入が出来るかをエリザベートに聞き始めた。何しろ、アースを信用してないようだからだ。
「出来ないこともないよ、でも、基本的には神同士でやり取りは禁止されているのよ。返せないときがあるからね。いきなり、現世に降りられたら回収できないでしょう。それに、借入したAを返すために悪神になられても困るしね。」
「どうすればいいの?」
「Aがいりようなの?」
俺はなんとなくわかった。
「どうしても欲しい神聖アイテムがあるんだろう。このアイテムコレクターの悪い癖だぞ。シュレ。」
テヘペロしているシュレ。本当にわかりやすい痛い娘である。
「まったく、何がそんなに欲しいんだよ。」
「金庫が欲しいんです・・・実は私・・・あの夜・・・見つけちゃったんです。」
そう切り出したシュレは話し始めた。
「先日、時空のハザマの時海で徹夜で作業していたとき、夜目が凄く効くクロちゃんがアイテムを見つけちゃったんです。」
「どういうこと?クロが見つけたアイテムって?」
「時空魔法バックにアイテムをしまう場所ってわかります?」
「当然、時空間だよな。・・・まさか、時空のハザマを漂っている、よそ様の時空バックの中身を見つけちゃったのかシュレ?」
「ハイ。たまたまですが・・・多分ですが、粗悪品の時空魔法バックで中身を時空のハザマの空間に設定した職人がいたのだと思います。でも、私のアイテムも、心無い悪い奴がいたらと考えますと・・・」
「だから、バックの中に神聖金庫なのか・・・それより、見つけたアイテムは盗んでないよな。そっちの方がまず心配だよ。」
シュレ・・・目が泳いでいるぞ。急に無口になるな・・・刺されるなよ。シュレ!
そんな、空気の中ここぞとばかり、アンドリュー皇子が申し出た。
「シュレさん。よろしければ、僕が運営している投資信託から、出資しましょうか。」
すかさずアントワーズ王妃が横やりを入れる。
「アンドリュー!あんた、シュレの事を何も知らないで、投資するなんてどうかしたの?神事モデルプランや目論見書も何もないのよ?」
「だから、僕が提案して、神事を興してもらいたいのです。」
アンドリューはそういうと、悪い顔になっていくつかの調査報告書を出して話を始めた。
「時月という時空浮遊巡行型ダンジョンを所有している。現在の動力はハザマに漂っている隕石や浮遊物の類ですよね。たまたま、時月が貴重な貴金属を含有している大地を吸収した場合はダンジョンでドロップする可能性もありますよね。」
察しがいいシュレはそれに合わせるように話し返した。
「たまたま、時空のハザマに漂っているアイテムが時月に吸収しても、ダンジョンからドロップするケースも考えられますわ。」
それに乗じて、アントワーズも口を出す。
「ダンジョンなら時空のハザマに消えた肉体や魂を回収出来たらいいけど吸収されちゃうわね。でも、遺品だけでも回収できても、人々の信仰を集めることも出来そう。・・・私も一口出そうかしら。」
3神が悪い顔をしているぞ。ところで、時月は俺達の所有なんですが・・・・とつぶやきそうになると、顔を引きつらせながら笑った顔でエリザベート王女がゲンコツをかました。
「時空のハザマの広さを考えなさい。高精度に見つけることが出来なければ話しにならないでしょう。」
イリヤは同じように呆れながら呟いた。
「そんな便利なアイテムがあればいいけど、余程のことがないと無理よね。神様にでも頼む?」
突然エリザベートは立ち上がりガッツポーズをした。
「そんな、神様は居まーす。昔から、物が無くなったら神様にお願いするように、神にとって基本の能力だよ。それにそんなアイテムは腐るほどあるわ。でも、時空のハザマ用に改造しないと。あの鍛冶屋の神にたのべば可能ね!」
一人で納得しちゃったよ。王女様・・・あなたも一口、かもうとしてますね。
それと、裏腹にアースだけは反対しているようだ。
「シュレはアイドルシュレとして、シルキーポリタンを拠点にアイドル業を慢心させていくんだ。」
俺はがっくりしながらもアース様に突っ込んでしまった。
「まさか、本当に、アイドルシュレに投資しているんじゃないですよね。」
冷や汗をかいているアース。
「閻魔コウキと一緒に投資なんてしてないからな。ハハハ。」
ウソが下手すぎますアース様。それより、テラ様はサキをそういえば誘っていたな。
まさか・・・
「テラ様はサキに投資していますよね。」
「なんで知っている。あれほど、テラにはケイスケには内緒にしろって言ってたのに。」
ハイ!確定!かまを賭けたのにあっさり陥落してしまったよ。アース様、詐欺師はむいてません。それに、してもサキの才能って・・・よし、どんどん伸ばしてもらおう。
俺は内心喜んでなんかいない。ただ期待しているだけだ。
「主様。顔が緩んでますよ。何か言い事があったんですか。少し気持ち悪いですよ。」
シュレは汚物を見るような目で俺を見た。
しかし、いつもはその目をお前に向けているんだぞと、思いながら、うれしさを隠しきれなかった。
いかんいかん。話を戻さないといけないと俺は思い、頬をピシャリピシャリと叩きながら質問した。
「最後の項目にある、この総合ポイントっていうのは?」
エリザベート王女は俺を慈しむような眼差しで答えてくれた。
「ボーナスポイントよ。何か買うと、ポイントがついたりするのよ。ポイントをもらうにはいろんなケースがあるけど、言い事をすればポイントが多く貯まったりするのよ。それに、特殊な祝福やアイテムを得ることも可能だしね。福引もできたりするのよ。それに、なんといっても、第4階層に行ける資格も得られたりするんだから!!」
その後、いろいろな話を交えながらアンドロポリタンの情報を得ることになった。
それによって、シルキーポリタンでは考えられない制度が、俺自身、ときめきを隠せなくなっていることに気付くのだった。




