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第39話 女騎士と男魔術師の話(下)

「白の門!『誇り高き英雄の騎士団』代表、グリューン・ヴェルトゥ!

 黒の門!『穢れ無き正義の騎士団』代表、アレン・レイアード!

 両者、所定の位置へ!」


 拡声魔術によって、闘技場へと新たな代表者たちの名が告げられる。

 ようやく戻って来た『継承の間』

 親善試合も終盤に差し掛かっているようで、案の定、チェスナットの試合はとっくの昔に終わってしまったようだ。


「はあ、ようやく戻ってこれた………。

 シロ様、ありがとうございました」


「礼には及びません。

 それに私も、怪我を治療して頂きましたしね!」


 クロの傍らで、ヴァイスがグッと親指を立ててみせる。

 クロはヴァイスへ控えめに微笑んで答えると、闘技場を見回す。

 あれから結構な時間が経った筈であるが、会場の熱気は相変わらずで、がやがやとした喧騒に包まれている。


「チェレンさん、あなたの言っていた先輩方たちは見つけられそうなのですか?」


「多分、大丈夫だと思います。

 良くも悪くも目を引く人たちですからね」


「それなら良いのですが………」


 クロの答えに対し、ヴァイスは少しだけ顔を顰める。

 クロと接している時は忘れかけていたが、自分は父に逆らって捨て台詞と共に飛び出してきてしまったのだ。

 正直、このまま帰るのは気が重い。


「も、もう少し王宮の中を案内しましょうか?

 英雄の後継記念館の他にも、王宮には色んな面白いものがありますよ!」


 それは、クロへの善意というより、ゾーラタからの逃避という面が強いものであったが、ヴァイスはそうクロへと誘いかける。

 しかし、クロは困ったように首を振るだけだった。


「お誘いはうれしいのですけれど………きっと先輩たちが心配していると思うんです。

 私はもう戻ります………その、ごめんなさい」


「そ、そうですか………そうですよね」


 クロの答えに、ヴァイスはシュンと項垂れてしまう。

 

(せっかく親切にしてもらったのに、何だか申し訳ないな)

 

 何かお礼は出来ないかとクロは思案し、思いついたように懐から、銀細工の首飾りを取り出した。


「シロ様。よろしければ、これを受け取って下さい」


「これは?」


「私の故郷に伝わるお守りです。

 故郷では少しですけど銀が取れまして、一応名産品という体でお守りを作っているんですよ」


 何の取り得も無い田舎町が、無理やり作った名産品ですけれど………とクロは頭を掻きつつ、ヴァイスへ銀の首飾りを渡す。


「シロ様のような方に持ってもらえれば、これにも少しは箔がつくというものです。

 どうか受け取って頂けますか?」


「よろしいのですか。これは高価なものなのでは?」


「はい。是非、受け取って下さい」


 クロの笑顔につられるように、ヴァイスも少しだけ微笑んで首飾りを受け取る。


「それでは、私はこれで失礼させて頂きます。

 シロ様、今日はどうもありがとうございました」


「こ、こちらこそ」


 ヴァイスが再び笑顔を浮かべたことに満足し、クロはゆっくりと背を向ける。

 クロにとって、ヴァイスは久しぶりに接した同性の少年であった。

 学舎に入って一年強。女性ばかりと接してきたクロにとって、ヴァイスとの会話はどこか安心感を得られるものであったのだ。


「チ、チェレンさん!」


 立ち去っていくクロの背へ、ヴァイスは最後に呼びかける。


「相棒の約束、忘れないでくださいね!

 7年後、きっと私は立派な騎士となっています!

 その時は一緒に轡を並べましょう!」


「ええ! それまでシロ様もお元気で!」


 クロは最後にそう答え、人ごみの中へと向かっていく。

 ネズミのように小さなクロの体は、あっという間に人々の影に隠れ見えなくなってしまった。


 それでも、ヴァイスは彼の去っていった方向へ目を向けたまま、手のひらの首飾りを強く握り締めた。


「立派な騎士になる、ですか………。

 約束してしまった以上、私も逃げ回っている訳にはいきませんね………」



「あの馬鹿者め………いつまで不貞腐れているつもりだ」


「ゴルトー公、少し落ち着かれてはどうですか?」


 観客席の一角で、ブラウンが呆れたように呟く。

 ヴァイスが去って小一時間。ゾーラタは落ち着かない様子でうろつきながら、ずっと何かをブツブツ呟いている。


「まさか、ヴァイスめ、賊に誘拐でも去れたのではなかろうか?」


「堅牢堅固を誇る王宮で、誘拐事件など早々起こりませんよ………。

 そんなに心配なら、探しにいったらよろしいかと」


「私は心配などしていない!」


 面倒臭えオッサンだな! と意固地なゾーラタに対しブラウンが心の中で毒づく。

 闘技台では、ゾーラタが顧問を務める『誇り高き英雄の騎士団』所属騎士が戦っているというのに、彼の目には入ってもいないようだ。


(ヴァイスちゃん、何でもいいから早く帰ってきてくれ。

 騎士団連合委員長などに居座られてしまっては、俺が落ち着かん)


 そんな風に、ブラウンがため息をついた時。

 彼らへ向けて小さな声が呟かれる。


「父上………」


 声の先では、ヴァイスがオズオズといった様子で佇んでいた。

 ゾーラタはキッと顔を険しくし、厳格な調子でヴァイスへ言葉を放つ。

 

「何をしに来たのだ、ヴァイス。

 お前にはどこへでも行ってしまえと言った筈だぞ?」


「まあまあ、ゴルトー公」


 まだ意地を張る気かこのオヤジ。とブラウンは取り成すようにゾーラタを宥め、ヴァイスの前にしゃがみ込んでみせた。


「よっ、ヴァイスちゃん。

 急にいなくなったんで、俺もお父さんも心配していたんだよ。

 よく帰ってきてくれたね」


 気安い調子で笑うブラウンに対し、ヴァイスは伏せていた顔を少しだけ上げて口を開く。


「カスタード団長………そ、その………先ほどは………」


 ヴァイスが何事かを呟くが、その言葉はボソボソと途切れ途切れで、はっきりしない。


「先ほどは何だと言うのだ! 言ってみろヴァイス!」


「ゴ、ゴルトー公………まあ、穏便に、穏便に」


 ゾーラタの怒鳴り声を受け、ヴァイスは体をビクリと震わせる。

 瞳からは勝手に涙が零れ始めていた。

 ヴァイスはガバリと腰を曲げ、泣き声を上げるように謝罪の言葉を叫ぶ。


「先ほどは! 非礼な態度を取り、申し訳ありませんでしたぁ!」


「い、いいんだ、いいんだ! おっさん、全然怒ってないからな!

 ヴァイスちゃん。良くちゃんと謝れたな。偉い! 偉いぞ!」


 ブラウンはヴァイスの頭をグシャグシャの撫で回す。

 正直、彼からすればさっきの言動などどうでも良かった。

 それよりも、この困った父親を早急に引き取ってもらいたいというのが本音である。

 

「うぅぅ………」


 ヴァイスはどうやら完全に泣き出してしまったようだ。

 体を小刻みに震わせながら、ヒクヒクと嗚咽を上げている。

 ゾーラタはあくまで厳しい眼差しでそんなヴァイスを見つめていたが、とうとう耐え切れなくなったように叫び声を上げた。   


「もぉ! 何でお前はそう、すぐに泣くのだ!?

 ほら、泣くな! 泣くな! 私は別に怒っておらん!」


 駆け寄って肩を抱く父に対し、ヴァイスは心配するように顔を上げる。


「父上は………私を許してくれるのですか………?」


「許すも何も、お前が無礼を働いたのはカスタード団長に対してではないか!

 彼がお前を許すのなら、私から言うことなど何も無い!」


 ゾーラタが何やら叫びながら、わしわしとヴァイスの頭を撫でる。

 

 そんな2人を、ブラウンはどこか鼻白んだ様子で眺めていた。


「何だこれ? 俺は娘への教育のダシに使われただけじゃないのか?」


 ゴルトー家の家庭の事情に巻き込まれてしまった。

 自分の家庭さえ築けていないのに、他所の家庭にまで関わるつもりはない。


 ブラウンが呆れ果ててゾーラタの背中を眺めていたところ、彼の背後でガヤガヤと騒ぎが起こり始めていた。


「おい、チェスナットさんよ。

 あの、喧しいおっさんは何者なんだ?」


「あの方は騎士団連合の主、ゾーラタ・ゴルトー様です!

 ブルー殿、仮にも騎士でありながら、そんなことも知らないのですか!?」


「はいはい、すいませんねぇ」


 先ほどブラウンからの誘いを承諾し、正式に『比類なき勇気の騎士団』の一員となったブルーが悪びれた様子もなく、チェスナットへ顔を顰める。

 そんなブルーに対し、チェスナットは口うるさく捲くし立てる。


「はい、は一回! というか、新入りの分際でその口の利き方は何です!?

 貴方には立ち振る舞いから、礼儀作法まで、人間性そのものを教育し直さなければいけないようですね!」


「ち、うるせーな。

 もっかい鼻を折ってやろうか?」


「貴方こそ、もう一度、地面を舐めさせてあげましょうか………」


「ほう………?」


 ブルーとチェスナットが何やら剣呑な雰囲気を醸し出す。放っておけば、今にも試合の続きを始めそうな様子だ。


「団長。貴方の軽はずみな思いつきのせいで、騎士団の和が乱れている。

 騎士団長として、この場の責任を取る必要があると、自分は考える」


 相変わらずの無表情でロッセがブラウンの肩へ手をかける。

 ブラウンはとうとう激昂したように、その手を振り払って怒鳴り声を上げた。


「ああもう、どいつもこいつもうるせぇ!

 何で俺の周りには面倒な奴ばかりが集まるんだ!?

 勝手にやってろ! もう知らん!」


「うわ、団長が逃げた」

 

 今日1日、気を使いっぱなしで、いい加減うんざりだ。

 ブラウンは怒鳴り声を上げたまま全てから逃避するように、その場を逃げ去っていくのだった。



「すいません、王宮の中で迷子になっていました………って、うわ!?」


 ようやくソラルたちの元へと戻ってきたクロが目にしたのは、青ざめて座席に寝転んでいるソラルと、それに冷やしたタオルを乗せるローゼの姿であった。


「ロ、ローゼさん。これはなにごとですか?」


「ああ、シルバー君。お帰りなさい!

 ソラル室長のお兄さん、試合で怪我をしてしまったんです。

 それで、ソラル室長が治癒魔術をかけていたんですけど………」


「ははは………やはり、魔術師は常に冷静でなければいけないね………。

 大慌てで施術をしたら、このザマだよ。

 うう………吐きそう………」


「ソラル室長! 吐くのでしたら、この袋の中に!」 


 魔力の使い過ぎによる消耗状態。それもかなりの重度である。

 ローゼが甲斐甲斐しく介抱するものの、ソラルの顔色は蒼白を越えて土気色にまで達しており、とても初等生の自分達が手に負える状況ではない。


「シ、シアン先輩はどうしたんです!?」


 こんな時、頼りになるのはシアンだ。

 クロがシアンについて尋ねるも、ローゼは首を振って座席の奥の方を指差してみせる。

 そこには心あらずといった様子で、シアンが座席に座ったまま空を眺めていた。


「ふふふ………捨てる神あれば、拾う神ありってか?

 ………世間も存外、捨てたものじゃないわけだ」


 シアンは呆けたように空へ目を向け、ブツブツと何かを呟いている。

 クロが戻って来たことにも、ソラルが倒れていることにさえも、気付いていないようだ。

 いったい、自分がいない間に何が起こったというのだろう?


「シアン先輩………どうしちゃったんです?」


「試合の途中で突然いなくなって………帰ってきてからはずっとあの様子なんです。

 私、もう何が何やら………」


 困り果てた様子でローゼが頭を振る。彼女自身、訳がわからない状況であった。


「シ、シルバー君は正気ですよね!?

 魔力も消耗したりしてないですよね!?」


「ぼ、僕は大丈夫です―――」


 クロはそう言いながらも、力尽きたように椅子へ座り込んでしまう。

 休んで多少は回復したものの、クロもまた魔力の消耗状態であった。


「だ、大丈夫じゃないかも………」


 ローゼはとうとう堪えきれなくように頭を抱え、叫び声を上げる。


「もう嫌ぁ! 何でみんなおかしくなってるの!?

 私、もう知らない!!」


「ま、待って、ローゼさん。

 貴女がいなくなったら、僕たちはもう全滅するしか………!」


 歴史と由緒ある闘技場『継承の間』

 その中心で、ローゼは空に向かって嘆きの叫びを上げるのだった。



 日暮れとなった『継承の間』

 吹き抜けとなった天井からは、夕陽の茜色の光が差し込み闘技台を幻想的に照らしている。

 精鋭騎士団同士の親善試合。その全てが終了し、観客席もまばらになった頃、ゾーラタとヴァイスもまた、屋敷に戻るため闘技場を後にしていた。


「ち、父上………」


 ゾーラタの隣を歩きながら、おずおずとヴァイスが口を開く。


「なんだ?」


「その………手を繋いでも、よろしいでしょうか?」


「………好きにするがいい」


 口調こそぶっきらぼうであるが、ゾーラタはヴァイスに向かって手を差し出す。

 ヴァイスはニコリと微笑み、その手を繋いで父と一緒に夕焼けの街道を進んで行った。


「ヴァイス。その首飾りはどうしたのだ?」


 ゾーラタがヴァイスの首にかけられた首飾りを目に、不思議そうに尋ねる。

 ヴァイスがここに来た時、こんなものは持っていなかったし、そもそも彼女は装飾品といった物に無頓着であった筈だ。


 ヴァイスは首飾りをゾーラタに示し、うれしそうに微笑む。

 

「これですか? これは今日、王宮の中で親切な女の子からもらいました」


「もらった? 安易に渡せるような物には見えんのだが………まあいい。

 ヴァイス。袖擦り合うも多少の縁、という言葉があるが………そういった縁は大切するのだぞ」


「縁………ですか?」


「うむ、どんなに力をつけても、どんなに権威を持っても、最後に物を言うのは人との縁、結びつきだ。

 お前がもらったそれは首飾りであると同時に、その少女との縁が形になったものである。

 決して粗雑に扱うようなことがあってはならんぞ。

 わかったな?」


「はい! 承知しました、父上!」


 父の言葉に応えつつ、ヴァイスは首飾りへ目を向ける。

 銀を加工して作られたそれは、夕陽を反射し表面を暖かな茜色に染めていた。


(袖擦り合うも多少の縁………ですか。

 あのチェレンという少女。

 彼女はいつか、とても立派な魔術師に成長するのでしょう。

 その時はきっと、私の相棒になって下さいね!)


 王宮で出会った少女の、漆黒の瞳を思い出しながら。

 ヴァイスはそんな思いを馳せるのだった。



「ふぃー、まいった、まいった………」 


 クロたち、アイボリー教室の面々が疲れ果てた様子で、王宮の出口へと向かっていく 


「まいったのは私ですよ………」


「いやぁ、ロサウム同士には申し訳なかったね。

 私とシルバー同志の体調も何とか回復したし、もう大丈夫だよ」


 げんなりとした表情でため息をつくローゼへ、ソラルが笑いかける。

 あれからしばらく闘技場で休み、クロとソラルはようやく歩けるまでに体調を取り戻していた。


「……………」


「おーい、コバルト同志。まだボーっとしているな。

 しっかりしたまえ、もう帰るよ?」


「あ、ああ………」


 シアンはまだ少し、心ここにあらずといった様子であるが、何とか正気は取り戻したらしい。

 こちらの言葉に、反応を返すようにはなっていた。


 ぐったりとしたローゼに、少しふらついているソラル、そして呆然としたシアン。

 試合の観戦に来ただけだというのに、彼女らは何故こんな満身創痍の体を醸しているというのだろう?

 まあ、自分も人のことは言えないのだが………と、クロは少しだけ笑う。


「ところで、シルバー君はどうして魔力を消耗していたんですか?

 王宮の中で何かあったのですか?」


「ええ、王宮の中で親切な騎士見習い………なのかな?

 とにかく、親切な男の子に出会って、闘技場まで案内してもらったんです。

 それで、彼が頭に少し怪我をしていたものですから、ちょっと治癒魔術を使ったんですよ。

 まあ、そのせいで衰弱してしまった訳ですけどね」


 頭を掻きながら説明するクロに対し、ローゼが桜色の瞳を輝かせる。


「王宮の中で騎士の少年とですか!?

 何だか、ロマンチックな出会いですね」


「ロ、ロマンチックって………」


 別に男同士の出会いである。

 確かに『シロ』は、少年にしては随分と美麗な面持ちをしていたが、だからと言って自分に同性を好むような趣味は無い。

 うん、無い筈だ。


「ふふふ、正にボーイ・ミーツ・ガールというやつだね。

 道に迷った魔術師の少女が騎士の少年と出会い、互いに助け合う。

 まるで恋愛小説の冒頭のようじゃないか」


「魔術師の少女って………僕は男ですよ!?」


「そんな格好で言っても説得力が無いぞ、クロちゃん?」


「貴女方が、僕にこんな格好をさせたんでしょうが!」


 からかうようなソラルとシアンに対し、クロはスカートを揺らしながら激昂する。


「ローゼさんからも、何とか言ってやってください!」


「そうですね………シルバー君、今度はワンピースなんてどうでしょう?

 きっとシルバー君に似合いますよ!」


「いやっ、そうじゃなくて………」

 

 駄目だ、会話にならない。

 ソラルたちにとって、自分は呈の良い着せ替え人形と認識されてしまったようだ。

 ドブネズミからハムスターへとランクアップだ。いや、これはランクアップと言っていいのだろうか………?


 クロが思案に暮れたまま空を仰ぐと、夕陽によって真紅に染まった闘技場が目に映る。

 

 継承の間。この国最大の闘技施設。

 今回は親善試合という名目で使われたものの、この施設の本来の用途は別の物。

 英雄の後継。この国に200年間、連綿と受け継がれてきた闘技大会のため用いられるものなのだ。


『そうだ! チェレンさん、貴女が私の相棒になって下さい!』


 クロの脳裏に、白金色の言葉が蘇る。

 

(騎士のシロ様、か。

 彼と、また再会する日は来るのだろうか?)


 7年後、一緒に『英雄の後継』へ出場しようという約束。

 そんな荒唐無稽な約束が叶うとはとても思えないが、それでも友として、またあの綺麗な瞳をした少年に会ってみたい。

 あの高貴な少年がどんな騎士に成長するのかを見てみたい。


 赤く燃えるような闘技場をその漆黒の瞳に捉え、クロはそんなことを独りごちるのだった。




 先に言ってしまえば、彼と彼女が友として再会することは、もう無い。


 約束したとは言え、所詮は子供同士の口約束。

 まして互いに偽名を用い、性別を勘違いしたままの別れである。


 騎士のシロと、魔術師のチェレン。


 この2人はこれから激動の運命に翻弄され、こんなおだやかな日に交わした些細な約束など、その出会いと共に忘却の彼方へ消し去ってしまうのだ。


 だから、彼らが友として再会することは、もう無かったのである。




「おーい、クロぉ!

 どこにいるんだよぅ!!」


 すっかり陽も落ち闇に包まれた王宮の中、コウはフラフラと無人の廊下を飛び回っていた。

 激昂したクロに追い回され死に物狂いで逃げ回っている内に、コウもまた王宮の中で迷子になってしまっていたのだ。


「クロぉ!

 妖精族は寂しいと死んじまうって言っただろうが!

 早く探しにきてくれぇ」


 永久に続くかのような王宮の廊下の中。

 コウは1人、さ迷い続けるのだった。 


 だいぶ横道に反れてしまいましたが、本章における騎士団の話はこれでお終いです。

 ここからはまた、本筋の方へ戻りたいと思います。



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