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第30話 晩餐会へ(下)

 マロン家の大広間。

 大きなテーブルには所狭しと豪華な食事が並べられ、王都の名士と思われる華洒な出で立ちの人々が行き交っている。

 晩餐会と言われたものの、それはもはや立食パーティと言って過言ない、大きな祝宴であった。

 そんな中、クロは所在無く、壁に背を預けて佇んでしまう。


『おい、クロ。あの豚の料理旨そうだぜ! 食いに行こう』


「お前は姿を見えなくしているんだろ?

 勝手に取りにいけばいいじゃないか」


『突然、料理が減ったりしたら怪奇現象じゃねーか』


 相変わらず呑気なコウの言葉にため息をつきつつ、クロは背を丸めて足元へ視線を送る。

 予想はしていたが、この上品な空間において粗末な出で立ちの自分は明らかに浮いている。

 他の参加者と違い、片田舎出身で貧しい自分がこんな場所に居てもいいのだろうか? と性根が卑屈なクロは考えてしまうのだ。


「少し、疲れてしまいましたか?」


 そんなクロへ、不意に声が掛けられる。

 顔を上げると、先ほどのチェスナットが上品な笑みを浮かべてクロへ視線を送っていた。


「あ………」


「先ほどは挨拶が中途半端になってしまいましたね。

 はじめまして、ソラルの兄のチェスナットといいます。

 いつも妹が世話になっているようで………」


 チェスナットがゆっくりとクロへ頭を下げる。

 ローゼが絵本の王子様のようだと言っていたが、まさしくその通りだ。

 端正な顔立ちも去ることながら、その所作、立ち振る舞いが洗練されていて優雅そのものである。

 何よりクロが羨むのはその体格。

 身長こそ、平均よりもやや高めといった程度だが、衣服の端から覗く手足は鍛え上げられていて、彼が品がいいだけの青年ではないことを感じさせられる。

 チビで痩せっぽちの自分にとって、恵まれた体躯を持ち、常に余裕を溢れさせるチェスナットは嫉妬さえ抱いてしまうほど、彼の理想そのものだった。


「?」


 黙りこんでいるクロに対し、チェスナットが少し首を傾げる。

 しまった。色々考えている内に返事することを忘れてしまっていた、とクロは慌てて口を開く。


「いえ………僕の方こそ、ソラル室長にはお世話になりっぱなしで………」


ぼく………?」


 しかし、クロの返事に対しチェスナットはますます首を傾げてしまう。


「お兄ちゃん。シルバーくんはね、こんな顔してるけど男の子なんだよ。

 世界で唯一人の男魔術師。騎士のお兄ちゃんでも、話くらいは聞いたことがあるでしょ?」


 どこから現われたのか、ソラルが姿を現しチェスナットに伝えると、彼は納得したような表情を浮かべた。


「ああ………なるほど。

 失礼。てっきり君を女の子だと思っていたものだから………」


「はは………」


 クロは乾いた愛想笑いで答える。

 そういえば、卑賤の民の町でも、見知らぬ男から女の子だと勘違いされたのだ。

 確かに、この世界において魔術師のローブを羽織っているということは女性であることと同義である。

 クロは常にローブを羽織っていたが、ある意味これは女装をしているのと同じことなのだ。


(今後は少し、ローブを控えるべきかもしれないな)


 クロがそんなことを考えていたところ、両手がギュッと握られる。

 何やら、チェスナットが自分の手を握っているのだ。


「史上、初めて魔力を持って生まれた少年。

 世界で唯一人の男魔術師………私も、貴方のことを聞いたことがあります。

 シルバーさん、貴方は大変な立場にいるのですね」


「大変なんてそんな………。

 男なのに魔力を持っていたから、僕のような凡人でも学舎に入学することが出来たんです。

 むしろ、楽な立場ですよ」


 上辺だけ笑みを浮かべてクロはそう答えるが、チェスナットは真剣な表情のまま、クロの手を更に強く握り締める。


「そんなことはありません」


「え………?」


「人と異なる才能を持つ者は、周囲から異端の念を持たれる物です。

 君は特別な力を持っている。でも、だからこそ人々と同じように生きることが出来ない。

 それはきっと、とても辛いことでしょう」


「…………」


 チェスナットの言葉に、クロは思わず俯いてしまう。

 こんな言葉を言われたのは初めてだ。どう答えていいのかわからない。


 黙ってしまったクロへ、チェスナットは柔らかい笑みを送ってみせた。


「シルバーさん。苦しくなったらソラルに頼りなさい。

 自分の妹ではありますが、彼女は決して色眼鏡越しに君を見るようなことはしない。

 きっと、貴方の力となるでしょう」


 握った手に力を込めて、チェスナットが真っ直ぐにクロを見つめる。

 ソラルと同じ亜麻色の瞳は澄んでいて、彼の言葉が心からの物であることが感じられる。

 

 対して、クロは顔を赤面させ、照れてしまっていた。


(ローゼさんが、うっとりしていた理由がわかったよ。

 何と言うか………この人は本当に絵本の王子様みたいだ)


 眼前で膝をつき、手を握るチェスナットを前にすると、彼の優美な容貌も合わさって、自分が物語のお姫様にでもなったような錯覚を感じてしまう。


 チェスナットの少し伏せた瞳は、美しさと凛々しさを備えており、何故かクロの胸はドキドキと高鳴っていく。


 いけない………これは本当にいけない。

 このままでは、彼を好きになってしまいかねない。

 

「おーい、チェスナット! チェスナットぉ!!」


 クロがそんな脅威を胸に抱いていたところ、遠くからチェスナットを呼ぶ声がする。

 見れば、茶色の髪をした男が大仰な仕草で、チェスナットへと手を振っていた。


 チェスナットはため息をつくと、クロから手を放して頭を下げる。


「団長から呼ばれてしまいました。

 申し訳ないけれど、私はこれで失礼しますね」


 最後にそう言葉を残し、チェスナットは男の方へ向かっていく。


「待って、お兄ちゃん! ………シルバー同志、すまないが私も少し失敬させてもらう。

 また後で………。

 ねえ、お兄ちゃんってばあ!」


 ソラルもまた、方向性が定まらないキャラクターを演じつつ、チェスナットの後を追っていく。

 どうやら彼女は片時も兄を離すつもりは無いらしい。


 2人が去っていった後、クロは少しホッとして、再び屋敷の壁に寄りかかった。

 

『いやぁ、いい男だったな。

 奴には90点をくれてやろう』


「………お前、女性だけではなく、男性にも点数をつけるのか?」


 相変わらずの俗物ぶりを発揮するコウへ、呆れたようにクロが言い放つとコウは胸を張って―――姿は見えないが、多分張っている―――答える。


『妖精族であるオレに、性別なんてモンは無いからな。

 イケメンもかわいこちゃんも、何でもござれって奴だ。性の壁を乗り越えれば2倍の愛を楽しめるんだぜ!?

 クロも壁を越えてみる気はないか?』


「逆にまた一つ、お前との壁が生まれたよ………」


 正直に言えば、さきほどクロは壁を乗り越えかけていたのだが、アレは一種の気の迷いだ。忘れた方がいい。


「ところで………男にも点数をつけるんだったら、僕は何点くらいなんだ?」


 何となく気になり、クロがコウへ問いかける。


『お前か? んー………28点ってところだな』


「流石に酷すぎるだろ!?」


『人間の魅力ってのは外面だけじゃなく、その精神性も含まれるんだぜ?

 お前みたいなヒネたガキは28点で十分だ』


「………今に見てろよ」


 悪びれないコウに対し、何だか腹の立ったクロは呻くのだった。



「ソラル」


「なに? お兄ちゃん」


 隣を歩く兄に対し、ソラルは目を向ける。


「クロ・シルバー君は、ソラルの後輩なんだろう?」


「うん。シルバー君は、あまり才能がある訳ではないけれど………とっても頑張りやなんだ!

 ソラルはね。シルバー君なら、きっと立派な魔術師になれると思うんだよ」


 うれしそうな笑顔を浮かべるソラルに対し、チェスナットもまた笑みを浮かべる。

 彼女は魔術の話をしているとき、とてもいい笑顔を見せるのだ。

 チェスナットはそっとソラルの頭へ手を被せる。


「それなら、彼の力になってあげるんだ。

 その性別、その身分、立場において彼のいる環境は、お世辞にも恵まれたものとはいえないだろう?」


「………それは、シルバー君が男の子だから? それとも、庶民の出身だから?」


「その両方さ。だけど、ソラルはそんなことを気にしないだろう?

 生まれがどうとか、男の子だからどうとか、そういったモノに頓着はしないね?」


「………うん。ソラルが友達になるのは、魔術が好きな人。

 だから、シルバー君は大切な仲間だよ?」


 ソラルの返事に、チェスナットはうんうんと満足気に頷く。


「人は1人では歩き続けられないものだから………だから、ソラルは彼と一緒に歩いてあげるんだ。

 先輩として、彼が間違いそうな時はその道を正し、

 仲間として、彼が迷った時は支えてあげるんだ。

 ソラルなら、出来るだろう?」


「うん………」


「それでこそ、私の妹だ。

 お兄ちゃんはソラルのことを誇りに思っているよ」


「もう、何言ってるの? お兄ちゃん!」


 ソラルは照れたように顔を赤らめる。彼女にとって兄は指標とも言うべき人間であったのだ。


「おい、チェスナット! このキザ野郎!

 ずっと呼んでるんだから、来てくれー!」


 そんな2人の間へ割ってはいるように、1人の男がフラフラと近寄ってくる。

 チェスナットはその男に対し、顔を顰めてみせた。


「誰がキザ野郎ですか? 団長」


「だーって、お前。呼んでるのに全然来てくれないじゃないか。

 おじさん、拗ねちゃうよ?」


「あー………もう!」


 馴れ馴れしく肩に手を回してくる男の手を、チェスナットが鬱陶しげに払いのける。

 男はなおもチェスナットへ絡みつつ、傍らのソラルへと目を向け、驚いたような声を上げた。


「おお、誰かと思えばソラルちゃんか。

 いやあ、綺麗になったなぁ。

 おじさん、あと10歳若かったら、思わず求婚してる所だよ」


「ブラウンさん………ひょっとして、酔ってる?」


 男は見て分かるほど千鳥足のままフラフラとしながらも、大仰に手を振ってみせる。


「まさか!? おじさん、全然酔ってないよー。

 ぜっんぜん、素面しらふだよー。

 へへへへへ………」


「これで素面だと言うのなら、私は退団を考えますよ………」


 ブラウン・カスタード。

 チェスナットが所属する騎士団の団長を務める男である。

 彼は代々騎士団長を務めるカスタード家の長男であり、つい先日、父から家督を継いだばかりであった。


 今回、チェスナットたちが向かっていた遠征。

 それは、王都から逃走し、海岸都市で勢力を蓄えていた政治犯の捕縛であり、ブラウンが団長として初めて行った任務であったのだ。

 任務自体はさしたる問題もなく、予定通り無事に終えたのであるが、初任務ということもあって、ブラウンはずっと重圧に苛まされていたのだろう。

 そして、凱旋した本日。任務を無事に終えた開放感も相まって、ブラウンは大いに祝杯をあげていたらしい。


 しかし、これはあまりにも酷すぎる。


「ソラルちゃん………あと、もう5歳くらい年を取ったら、おじさんと付き合わない?

 オッサンの魅力を教えてあげるよ?」


「団長………妹にちょっかいをかけるのなら、この場でぶっ殺しますよ?」


「………すいませんでした」


 上機嫌に酔っていたブラウンであるが、チェスナットから本気の殺意を向けられ、萎縮してしまう。

 チェスナットは心の底から呆れたようにため息をついてしまった。


「団長はそんなだから………奥方に見捨てられたのですよ」


「元嫁の話はするな!!」


 ギャーギャーと騒ぎ続けるチェスナット達を尻目に、ソラルが不貞腐れたように問いかける。


「ねえ、ブラウンさん。

 せっかく遠征が終わったのに、何でお兄ちゃんはまた仕事をしないといけないの?

 他にも騎士さんはいるんでしょう?」


 長い遠征からようやく帰ってきたというのに、兄はまた別任務のため騎士団宿舎へ泊り込みになるらしい。

 それが、ソラルには納得出来なかったのだ。


 ソラルの言葉に、ブラウンは少し酔いが醒めたような様子で答える。


「あ、あー………ごめんな、ソラルちゃん。

 今度は別に危険な仕事ではないから、心配しなくても大丈夫だよ」


「でも………」


「いい加減にしなさい、ソラル」


 まだ何か言いたげなソラルに対し、チェスナットが少し厳しい調子で咎める。

 彼とて家族と共に過ごしたい気持ちはあるが、次の『仕事』に自分が出ない訳にはいかないだろう。

 何より、チェスナット自身が強く『出たい』と考えているのだ。


「うー………」


 チェスナットに叱られたソラルが落ち込んだように視線を落とす。

 ブラウンはふっと柔らかな笑みを浮かべると、ソラルへ安心させるように優しく言葉を伝える。


「すまないな、ソラルちゃん。

 だが、次の仕事にはどうしてもお兄さんの力が必要なんだ。

 どうか、理解して欲しい」


「次の仕事って何なの?」


 まだ少し納得がいかない様子でソラルが問いかける。

 ブラウンは少し逡巡を見せるが、仕方ないといった様子で答える。


「まだ公表されてないことだから、あまり人に言わないでくれよ?

 次の俺たちの仕事は騎士団同士の『親善試合』

 お兄さんには、その代表として出てもらいたいと考えているんだ」

 

◇ 


「何か申し開きはあるか? ブルー」


 『不屈たる忍耐の騎士団』騎士団宿舎。

 その団長室で、ブルーは同騎士団長から尋問するように言葉を受けていた。


 先日、シアンと別れたブルーは、喧嘩となった先輩騎士たちへ土下座と共に謝罪を申し向けたのであるが、騎士達は薄ら笑いを浮かべるだけで、彼と取り合ってはくれなかった。

 そして本日、ブルーは騎士団長から召還され、この部屋へとやってきたのである。


「…………」


「カエルラ達は、お前が一方的に暴行に及んだと言っている。

 何でも、居酒屋で酒を飲んでいたら、突然お前が激昂し、有無とも言わせず殴りかかってきたとな。

 それに異論はあるか?」


「………ありません」  


 何やら先輩たちは、随分と自分達の都合のいいように、団長へ報告したようだ。

 もっとも、それはブルーにとっても僥倖である。

 本来、無碍に立ち入ることさえ禁じられている『卑賤の民の町』。

 そこへ女を買いにいった挙句、その娼婦に暴行を振るった等ということがばれれば、ブルーを含む4人まとめて、騎士団から追放されるだろう。

 それなら、酒の席で自分が暴れたと言われた方が、まだ騎士団に留まられる可能性がある。


「奴らは、打撲、捻挫、骨折となかなか手酷い傷を負っている。

 ブルー、どうしてお前はそんなことをした?

 酒乱の気でもあるのか?」


「まあ………そんなところです」


 ブルーがそんな風に答えた瞬間、団長から殴りつけられ、そのまま床に倒れこむ。

 頬にビリビリとした痛みを感じながらブルーが顔を上げると、団長が厳しい表情を浮かべたまま拳を握り締めていた。


「ブルー………お前、ふざけているのか?」


「ふざけては、ないです」


 口の端から滲む血を、拳で拭い。再びブルーが団長の前に立つ。

 その蒼い瞳には、周りを拒絶するように鈍い光が浮いている。

 騎士団長はそんなブルーに対し、深くため息をついた。


 ドゥンケル・ブラオ

 『不屈たる忍耐の騎士団』の団長を務める、初老の男である。

 彼は、王都に数多く存在する騎士団長の中でも、特に厳格なことで名を知られており、本人自身も節度と誠実を旨とした男であった。


「ブルー………私とて、奴らの言葉をそのまま信じるほどお人よしではない。

 お前が理由も無く、暴力を振るった等とは思っていない。

 だがな、お前は騎士団の規則を破ってしまった。

 我々は王国へ忠誠を捧げた、誇り高き騎士である。

 そんな我らが、無頼の如き喧嘩騒ぎなど、言語道断だ」


「……………」


「我らが力を振るう時。それは王国のため、臣民のため、正義のためだ。

 己の怒りのまま力を振るうなど、無法者のすることよ。

 ………元が冒険者のお前には、わからんか?」


「………あ?」


 ドゥンケルの言葉に対し、ギリギリとブルーが歯を食いしばる。


(何が『正義のため』だ。お前らは礼節だの儀礼だのと口ばっかりの、貴族のなり損ないじゃねえか!)


 以前はあれほど憧れ、夢見ていた騎士団。

 しかし、今のブルーにとって、騎士団とは鼻持ちならない連中の集まりに過ぎない物へ成り果てていた。

 最早、彼が騎士団へ留まりたいと願うのは、金のため。

 それだけなのである。


 見てわかるほど反抗的な目で、ブルーはドゥンケルを睨みつける。 

 ドゥンケルはそんなブルーに対し、逆な静かな眼差しを持って見つめ返した。


「私がお前をこの騎士団に入れたのは、お前の腕を見込んでのことだ。

 しかし、今回のような無法を続けるようでは、お前を騎士団へ置いて置くことなど出来ん。

 そこでだ、お前に機会をやろう」


「機会?」


「近く、王都騎士団連合が主催する騎士団同士の親善試合が開かれる。

 親善試合と言っても、参加するのはこの王都を代表する『王国の剣』………精鋭騎士団たちだ。

 言わば、これは我々精鋭騎士団への格付け試合と言うべきものだろう。

 決して負ける訳にはいかん」


 ドゥンケルは真っ直ぐにブルーを見つめたまま、厳かに言葉を続ける。


「ブルー。

 お前はこの親善試合に出場し………そして勝利しろ。

 我々の代表として、騎士団へ勝利を齎すのだ」


「俺が………代表?」


「お前は家柄も縁故も無く、己の腕だけで騎士団へ招かれた男だ。

 ならば、この逆境さえも、己の腕で越えてみせろ。

 この試合で腕前を見せることが出来たなら、お前に対し、とやかく言う輩も減るだろう」


「俺の腕で………」


 驚いたような表情を浮かべるブルーへ、ドゥンケルは笑みを浮かべる。

 仲間たちとの衝突や、騎士団の在り方を受けて、ブルーは失望を抱いてしまったようだ。

 ならば、騎士団の代表として戦うことで、騎士団へ帰属の意識を持たせることが出来るのではないかと考えたのだ。

 それに………実際問題、ブルーは戦士として優秀な男であるし、彼が活躍すれば、他の騎士たちも彼を受け入れざる得なくなるだろう。


 ドゥンケルの言葉に、ブルーは己の胸が高揚するのを感じていた。

 それは久しく忘れていた、心が燃えるような昂ぶり。

 眠りかけていた、ブルーの戦士としての矜持である。


「団長、相手はどこだ? どこの騎士団だ!?」


 ブルーは礼を欠いた言葉でドゥンケルへ問いかけるが、彼はそれを気にした様子もなく、英気を取り戻したブルーへ答える。


「相手………お前の相手は―――」


 ドゥンケルは、その騎士団の名を口にする。

 その騎士団は精鋭騎士団の中では多少、格が落ちるものの、門戸が広く、王都の隠れたつわものたちが集っていると噂されていた。


「あの若造―――ブラウン・カスタードが率いる精鋭騎士団………。

 『比類なき勇気の騎士団』だ」

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