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第20話 アイボリー教室

 本日の講義が全て終わった放課後。

 いつもであれば脇目も振らずに資料室へ向かうクロであったが、今日は勝手が違う。

 彼が向かうのは『聡明な賢者の学舎』第2校舎、研究棟。

 まだ初等生であるクロにとっては、初めて訪れる校舎である。


「シルバーくん、来てくれたんだね!」


 研究棟の入口には、クロを待っていたのだろう。ベージュが嬉しそうな表情を浮かべてパタパタと手を振っていた。


「え、ええ………」


『おいおい、何て顔してんだよ?

 ほら、スマイル、スマイル』


 緊張に引きつった笑顔を浮かべるクロに対し、姿を消したコウが呆れたように小声で声掛ける。

 ベージュはそんなクロの表情を特に気にする様子もなく、うれしそうな表情のままクロの手を取って、研究棟の中へと入っていった。


「『アイボリー教室』はね、研究棟の3階にあるの。

 他の会員はもう教室に集まっているわ」


「は、はい………」


 ギクシャクとした動きのまま、相変わらず引きつった表情のクロに対し、ベージュが少しだけ笑いかける。


「シルバーくん………やっぱり、緊張する?」


「そ、そりゃあ、まあ………」


「大丈夫よ。他の子たちはちょっと変わっているけど、みんないい子たちだから」


 ベージュは安心させるように、クロの右手を両手でギュッと握りしめると「着いたよ」と声を掛け、とある部屋の前で歩みを止める。

 部屋の扉には「アイボリー教室 使用中」と書かれた板がかけてあった。


「この扉の先が、アイボリー教室。

 扉はシルバーくんが開けてくれるかしら?」


「はい………」


 この扉の先に、アイボリー教室の室員たち、3名が待機しているらしい。

 クロはドキドキとした不安を胸に、ドアノブへと手を触れた。


(この先に、僕の………言わば『先輩たち』がいるのか。

 くそ、覚悟を決めろ! クロ・シルバー!)


 腹を括るようにそう渇を入れ、クロがドアを開き教室へと入っていく。


 ―――。


 扉の先は真っ暗だった。

 それは暗いというより、暗黒に飲み込まれてしまったような黒色。

 自分の指先さえ見えない、完全な闇に染まっている。

 

(おかしいぞ? 夕方とはいえ、まだ陽は暮れていなかったはず。何でこんなに暗いんだ?)


 訝しく思ったクロが部屋の中に一歩、足を踏み入れた時―――


「よくぞ、この場所へ足を踏み入れたな。少年。

 さあ、奥へと進むがいい………」


 暗闇の先から、不気味な声がクロへと響き渡る。

 そして、声と同時にクロの前方で小さな青い炎が灯った。


「!?」


 それは異様な光景であった。

 青い炎、それは机に置かれた人間の頭骨を模した水晶に灯されているようだ。

 頭骨の眼窩、その中に魔力によって生成されたと思慮される青い炎がメラメラと不気味な光をたたえている。

 そしてその光によって、クロへ声を掛けたらしき学生? の姿が照らし出されていた。

 その学生はローブのフードをすっぽりと被り、口元しか捉えることが出来ない。

 しかし、その口元には、何とも言い難い、不気味な笑みが浮いている。

 そして、その左右に2人、同じようにフードで顔面を覆った人影が見える。

 こちらは暗く、どのような表情をしているのか判然としなかった。


「あの………」


「少年」


「は、はい!?」


 最初にクロへ声かけた人影が、更に言葉を続ける。


「少年は魔術が好きかね?」 


「ええ、まあ………」


「愛しているかね?」


「え、えーっと………そこまでは………」


「あ゛ぁ!!?」


「ひぃ!?」


 人影が剣呑な声を上げ立ち上がる。

 同時に部屋を照らしていた青い炎がギラギラとその輝きを増していた。

 

「ソ、ソラル室長!」


 左側にいた人影が、慌てた様子で立ち上がった人影の裾を引っ張ると、人影は一拍置いてから再び椅子へと座り込む。

 そして、先ほどと比べ、低くなった声音で再びクロへと問いかけた。


「少年、これが最後のチャンスだ。

 キミは魔術が愛おしくて、愛おしくて仕方無い、魔術狂いだ。

 それで間違いが無いね?」


「は、はい!!」


「よろしい!!」


 身の危険を感じたクロが、叫ぶように人影の問いを肯定すると、人影は感極まったように再び立ち上がる。

 人影が立ち上がった勢いで、前の机が倒れ、青い光を灯した頭骨がクロの足元へと転がってきた。


「ひ、ヒィ!?」


「ならば少年も、今日から我々の同志である!!

 我々とキミはその性別、その身分、その立場、あらゆるモノが違っているが、魔術を愛する者―――この1点において我々は同志なのだ!!」


 人影は両手を天に掲げ、叫び声を上げる。


「魔術とは! 深淵を探求する冒涜的な学問である!!

 しかし、その探究心こそが! 今日こんにちにおける我々の礎となっているのだ!

 そして、その魔術を共に培う仲間こそ、魂の朋友!

 我々は思索という名の鎖で繋がれた、一対の葦である!

 世俗を越え、因習を超越した一塊の思想連団なのだ!!」


(何を言っているのか、全然わからない!!)


 感極まったように―――もしくは何かがキマッているかのよう意味不明な叫び声を上げる人影に対して、クロは恐怖を超えたモノを感じる。

 困惑したまま背後のベージュに目を向けると、どういう訳か彼女はクロから目を反らしているようだ。


「ア、アイボリー先生………?」


「その………ちょっと変わっているけれど、いい子たちだから………。

 シルバーくん。みんなと仲良くしてね?」


「じょ、冗談じゃ………」


「さあ、同志諸君! 

 本日は我々が新たな同志を迎えた記念すべき日である!

 盛大に歓迎のサバトを開こうではないか!

 贄をここへ! これを媒体として電波信号の波長を合わせ、我々4人は4つの固体エーテルから一つの郡体アストラルへと解脱を遂げるのだ!!」


「???」


 ひたすら心に疑問符を浮かべるクロへ、人影がその手を差し伸べる。


「少年………いや、クロ・シルバー同志!

 アイボリー教室へようこそ!!」



「そこまでにしとけ」


「あいたっ!?」


 先ほどから妄言めいた雄叫びを上げていた人影の頭を、右隣に座っていた別の人影が小突く。

 そして、深くため息をつくと、周囲に張り巡らして魔術式を解除させた。 

 同時に、部屋を覆っていた暗闇が霧散し、窓から差し込む夕陽の茜色が部屋を染めていった。


「まったく、何で私がこんな茶番の為に魔術なんて使わないきゃいけないんだ………」


 可視光遮断ブライト・カット


 魔術によって光を操作する魔術の一つである。

 どうやら、先ほどの暗闇は彼女の魔術によるものであったらしい。  

 右隣に座っていた学生は、やれやれといったように肩を竦めると、煩わしそうな仕草で深く被っていたフードをどけた。

 

「コバルト同志! 闇の眷属たる我々が安易に素顔を晒す訳には………!」


「やかましい!」


「おぅふ!!」


 コバルトと呼ばれたその学生は、さきほど雄叫びを上げていた学生の額を弾くと、疲れた表情でクロへ目を向ける。


「おい、一応言っとくが、さっきの茶番はこのバカが1人でやってただけだからな?

 私まで同類だと思うなよ?」


「は、はぁ………」


「一応、名前だけは言っておく。私の名前はシアン・コバルト、高等生だ。

 いきなりこのバカから洗礼を受けてドン引き中かもしれないが………まあ、よろしく頼む」


「高等生?」


 自分に向かって自己紹介をするシアンに向かって、クロが困惑の目を向ける。

 シアンは空色の長い髪を後ろで無造作に縛った、妙に目元がキツイ印象の少女であるが、その顔はせいぜい14、5歳と言ったところだ。

 高等生というには、些か幼いように感じる。

 

「コ、コバルト同志………室長である私を差し置いて、先に自己紹介するとは………。

 ひょっとして、私の地位を簒奪するつもりなのか!?

 まさか、鋼の結束を誇る我々同志諸兄に裏切り者がいるとは………獅子身中に虫ありとはこのことだ―――」


「おら!」


「ふぉぉぉぉ!!?」

 

 シアンの目つぶしを受け、アイボリー教室の室長と思しき学生が目を押さえながら転がりまわる。

 シアンは学生のフードを掴むと、引きずり上げるようにクロへ彼女の顔を示してみせた。


「で………こいつが、このアイボリー教室の室長―――ソラル・マロン高等生だ。

 一見するとバカのように見えるかもしれないが………実際の所は正真正銘のバカだ。

 こいつの言葉は全部、話半分で聞いておけ」


「目………目が、焼けるように痛い………」


 シアンによって晒されたソラルの素顔は、意外なことに整った美しいモノで、綺麗に整えられた栗色の髪が淡い光彩を放っている。

 そして、彼女が持つ亜麻色の美しい双眸は、シアンから受けた容赦の無い目潰しによって真っ赤に充血していた。


「シ、シアン先輩! ソラル室長の目が真っ赤になっちゃってますよ!

 は、離してあげて下さい!」


 片手でソラルを掴みあげるシアンの前に、左隣に座っていた人影がパタパタと駆け寄っていく。


「ロ、ロサウム同志よ! 私の味方になってくれるのはキミだけだ!

 さあ、この裏切り者の青色女に正義という名の制裁を―――」


「うおらぁ!!」


「げほぁ!!?」


「ソラル室長!!?」


 シアンが掴みあげていたソラルの鳩尾へ拳を叩きつけると、彼女はクロが過去に聞いたことのないような呻き声を上げ、その場へ崩れ落ちていく。


「ソ、ソラル室長………生きてますか?」


「ふふふ………内臓がバウンドしているかのようだ………。

 あ、やばい。吐きそう………」


「し、しっかりして下さい!」


 そんな彼女の側に座り込み、ロサウムと呼ばれた学生が治癒魔術の術式を展開しはじめた。


「……………」


 クロがどこか蚊帳の外に置かれたような心境で、目の前で繰り広げられるグダグダの光景を眺めていると、治癒魔術を使っていた少女が慌てたようにフードは外し、恥ずかしそうな表情でクロへ声掛ける。


「あ………ごめんなさい。

 クロ・シルバーくん………ですよね?

 私のことがわかりますか? 同じ初等生のローゼ・ロサウムです。

 担当の先生が違うので、講義は一緒じゃないですけれど………合同演習の時に何度かご一緒したと思うのですが………」


「あ………」


 ローゼの流れるような淡紅色の髪をその目に捉え、クロは彼女に見覚えがあることに気付く。

 確かに、魔術の実施訓練などで別のクラスと合同で演習を行ったとき、ローゼのことは何度が見たことがあるのだ。


「シルバーくんが、このアイボリー教室へ入ってくれるなんて、ちょっと驚きました。

 ここは今までソラル室長とシアン先輩の2人。私以外は高等生の先輩しかいなかったものですから、同じ初等生のシルバーくんが来てくれてうれしいです。

 よろしくお願いしますね」


「あ、こちらこそ………」


 ローゼが手を合わせて、クロへと微笑みかける。

 ローゼは薄紅色の髪を上品に整え、桜色の瞳を持った、確か同い年の少女だ。

 屈託なく微笑みを浮かべるローゼに、クロはなぜか気恥ずかしくなって目を反らしてしまった。


「ところで、シルバー同志!」


「は、はい!」


 ローゼの治癒魔術によって復活したらしいソラルが、再び亜麻色の瞳に力を宿し、クロへと問いかける。


「キミのことはある程度、アイボリー指導者から伺っている!

 何やらキミは人体魔術師になることを志しているらしいね」


「は、はい」


 クロの肯定を受け、ソラルは腕を組むと、満足そうな様子でかぶりを振る。


「ふむ………数ある魔術師の分野において、あえてマイナーな人体魔術師を志すというその心意気。

 私の琴線に触れるものがある!

 うん、いいぞ、実にイイ!」


「おい、確かシルバーっていったな?

 お前はどの程度、魔術が使えるんだ?」


 ソラルの背後から、シアンがクロへと問いかける。


「えっと………発火魔術、治癒魔術、練成魔術を初歩過程までと、天変魔術を触りだけ………あと、正式に使える訳ではないですが、人体魔術も筋力強化だけなら………」


「話にならんな」


「ええっ?」


 かぶりを振ってため息をついてみせるシアンに対し、クロが困惑の表情を浮かべる。

 確かに抜きん出たモノでは無いものの、クロは初等生の中では成績がいい方で、彼が習得した魔術の量は同期たちに比べて決して少ないものではない筈だ。


「お前さ………ひょっとして周りの連中と比べて、自分が優秀な成績を持っていると思っていたか?

 はっきり言ってやろう。この『聡明な賢者の学舎』にいる学生どもは、魔術を行使するという面において下の下だ。

 お前も1年間はここで魔術を学んできたんだろうが………王都にあるほかの魔術学校と比べてみろ。

 連中はもう、治癒、発火なんて初歩の魔術はとっくに習得してその上位、修道魔術や天変魔術、練成魔術なんかに手を出し始めている頃だ」


「そ、そうなんですか?」


「ああ、この『聡明な賢者の学舎』にいる学生どもは他校の学生に比べて、明らかに遅れているんだ。

 何せ連中、魔術なんぞより人脈作りに御執心のようだからな。

 自分を周りの学生と比べていたのだったらご愁傷さまだ。

 今のお前の習得速度では、人体魔術師どころか下級魔術師にだってなれるかどうかわからんぞ?」


「……………」


 シアンの無愛想な言葉に、クロは俯いてしまう。

 確かに、自分はこれまで他の生徒に比べて優秀な成績を納めていたが、聡明な賢者の学舎以外………他魔術学校の学生たちと、自分を比べたことなどなかった。

 

「そんな顔をするな、シルバー同志!」


 黙りこんでしまったクロを見かねたようにソラルが、彼の肩に手を当てる。


「シルバー同志は本日より、我々アイボリー教室の一員だ。

 心配せずとも、ここの会員たちは学舎から選りすぐられた精鋭魔術師候補生なのだよ?

 この1年間で取ってしまった遅れは、我々が駆け足で取り戻させてあげよう。

 もっとも―――」


 ソラルが亜麻色の瞳に剣呑な光をたたえ、ジワリとした視線でクロをねめつける。


「これまでぬるま湯につかっていたシルバー同志にとって、我々の魔術研鑽はなかなか過酷なものになるかもしれんがね」


「え………?」

 

「正式な自己紹介がまだだったね、シルバー初等生」


 困惑するクロに対し、ゆっくりとソラルが礼をしてみせる。

 その瞳には、初めの陶酔したような光も、シアンとじゃれていた時のふざけた光も浮かんでおらず、優秀な魔術師が持つ、聡明な光のみが浮いていた。


「私の名はソラル・マロン。17歳の高等生だ。

 このアイボリー教室において、室長を任されている。

 実家は王都でもそれなりに名の通った商家でね。まあ、金を積んで学舎に入学したクチなのだが………私はここで学んだ魔術という学問に心酔してしまったのだよ。

 シルバー初等生、キミが魔術に対し真摯に向き合おうとしているのかどうか、その真偽はまだわからないが………もし、キミが本気で魔術を学びたいと望んでいるならうれしく思う」


 ソラルは次に右手を広げ、シアンの方を指し示す。


「彼女の名はシアン・コバルト。同じく高等生だが、年齢はまだ15歳だ。

 シアンは年齢的にはまだ中等生であるべきなのだが、飛び級で高等生となっている。

 彼女は私と違い、魔術師としての才能を買われ学舎へ招かれた口でね。

 いわゆる『特別入学生』という奴さ。

 もっとも、シアンは『10年に1人の逸材』と言われていてね、特別入学生という枠の中でも飛びぬけた才能を持っているらしい。

 小癪なことに魔術の腕前は私より上………学舎の学生ではトップクラスの技術を持っていると言えるね。

 性格は見ての通り粗暴なものだが、特異魔術師であるキミにとっても学べるところがあるだろう」


 ソラルは更に左手を広げ、ローゼの方を指し示す。


「そして、顔見知りであったらしいが、彼女の名前はローゼ・ロサウム。キミと同じ13歳の初等生だ。

 彼女がこのアイボリー教室に入室したのはまだ半年ほど前のことでね。

 魔術の習熟については、キミと同程度といったところだろう。

 ローゼは王都の南西にある森林地帯を領土とする中級貴族『ロサウム家』の娘で、私と同じく金を積んで学舎へ入学した類の学生だ。

 もっとも、彼女は生真面目な性質タチのようでね。この腑抜けた『聡明な賢者の学舎』において、誰よりも真摯に魔術と向き合っていると言えるだろう。

 お互いに切磋琢磨することが出来れば、うれしく思う」


 ソラルは2人の紹介を済ませると、手をクロへと向ける。


「それで………シルバー初等生。

 キミのことを教えてもらえるかい?」


「ぼ、僕の………?」


「ああ、キミは今日から、私たちの新たな仲間となるんだ。

 知りたいと思うのが当然だろう?」


 ソラル、シアン、ローゼの3名が、言葉を待つようにクロへ目を向ける。

 わずか3名とはいえ、生来人見知りなクロにとってそれは緊張を与えるものであったが、クロは覚悟を決めるように拳を握ると、ぽつぽつと自らのことを語り始める。


「ぼ、僕の名前はクロ・シルバー。13歳の初等生です。

 この教室の顧問であるアイボリー先生が受け持つクラスの学生で、先生の薦めもあって、このアイボリー教室へと来ました。

 見てわかると思いますが、僕がこの学舎へ入学を許されたのは、男でありながら魔力を持っていた為です。

 『特異魔術師』。それが僕の、学舎へ招かれた理由です。

 もっとも、僕は男なのに魔術が使える、というだけで他の特異魔術師たちのように特別な魔術を使える訳ではないし、特別入学生のように、魔力の才能に恵まれている訳でもありません。

 だけど―――」


「だけど?」


「だけど………それでも僕は魔術師に―――人体魔術師になりたい。

 それが如何に困難な道でも、僕は魔術師になってみせたい………理由はちょっと恥ずかしくて言えませんけど………」


 極度の緊張とプレッシャーから顔を青ざめさせながらも、クロは必死になって言葉を紡ぐ。

 いつから自分はこんなに上がり症になってしまったのだろう? たったの3人相手に話しているだけなのに、心臓を鷲づかみにされたような切迫感を胸に感じてしまう。

 

 最後には消え入りそうな声で話し終えたクロが、やれやれとため息をつくと、ソラルがそんなクロの肩をがしりと掴む。


「感動した!」


「はい?」


「感動したぞ、シルバー同志!

 心配は無用だ! 君は私が責任を持って一人前の魔術師にしてあげよう!

 血反吐を吐く準備はいいかね!?」


「ち、血反吐!?」


 尚も感極まったように、何事かを叫び続けるソラルを尻目にシアンとローゼの2人が呆れたような笑い声を上げるのだった。


 ようやく主要人物が揃ったので、設定なども含めて簡単にまとめておきます。


『聡明な賢者の学舎』


 王都において、最高峰と謳われる魔術学校にして魔術の研究機関。

 その歴史は古く、ゴルトー叙事詩における英雄の片割れシエル・アルコバレーノによって創設され、代々アルコバレーノの末裔達が学長を務める由緒正しい魔術学舎。

 この学舎を卒業することで、学生たちは才女の名を得ることが出来る。

 しかし、現在は学長による極端な拝金主義によって、資金があれば誰でも入学出来るようになってしまい、学生の質が酷く低下してしまっている。


『特異魔術師』


 特異的な魔術を持った者たちの名称。

 この世界では、一定の確率で特異的な魔術の才能を持った者たちが生まれ、それらについては聡明な賢者の学舎が保護し、研究対象としている。

 クロは『男性でありながら、魔力を持っている』ということから、この特異魔術師として認定を受けた。


(主要人物)


1 クロ・シルバー 13歳 男性


 本編の主人公

 黒髪、黒目を持った、この世界でただ1人の男魔術師。あだ名はドブネズミ。

 痩せっぽちのチビで、同世代の女の子よりも背が低い。左頬に火傷痕有り。

 中性的な顔立ちをしており、華奢な体格も相まって女の子と勘違いされることがある。

 生真面目を拗らせた捻くれ者で偏屈。そして極度の卑屈症。

 『夜明けの勇者』クリュートス・ゴルトーに憧れを抱いており、身体能力を強化する『人体魔術師』という魔術師になることを夢としている。

 被害妄想、人間不信、女性嫌悪の3重苦から、学舎にある資料室に引き篭もるのを唯一の癒しとしていた。


2 ヴィオレ・ヴァイオレット 18歳 女性


 青紫色の右目と、赤紫色の左目(義眼)を持った、学舎へ通う高等生。

 名門貴族ヴァイオレット家の娘で、才女の名を求めて学舎へ通う学生の1人だと、クロは思っている。

 資料室でクロと出会い、なし崩し的に彼と行動を共にしている。

 性格は気分屋で気まぐれ。そして嘘つき。


3 コウ 年齢不明 性別なし


 純白の長い髪に真紅の瞳を持った、妖精族。

 ヴィオレによって召還された『幸福の妖精』。もっとも本人にその自覚は無い。

 本来の主人であるヴィオレから放棄されてしまったため、例によってなし崩し的にクロと行動を共にしている。

 少女のような外見をしているが、少年のような態度と口調をしている。

 他者から知覚出来ないように存在感を消すなど、妖精としての異能を持っている。


4 ベージュ・アイボリー 33歳 女性


 聡明な賢者の学舎に講師として籍を置く上級魔術師。クロの担任教師。

 薄茶色の髪と胡桃色の瞳を持ったおだやかな佇まいの魔術師。

 孤立しているクロを心配し、彼を自分が顧問する魔術研究会『アイボリー教室』へと誘い入れた。


5 ソラル・マロン 17歳 女性


 栗色の髪に亜麻色の瞳を持った高等生。アイボリー教室の室長。

 大きな商家の娘であり、多額の入学金と共に入学した類の学生であるが、魔術という学問に心酔し、その研究を生きがいとする魔術オタク。

 外見は深層の令嬢だが、口を開くと唯の変人になる残念な人。


6 シアン・コバルト 15歳 女性


 空色の髪を無造作に縛り、目元がキツい印象の高等生。アイボリー教室の室員。

 『10年に1人の逸材』と呼ばれ、飛び級で高等生になった「特別入学生」の学生。

 魔術の実力は学舎の学生でトップクラスの実力者。

 言動がガサツで乱暴。超体育会系。


7 ローゼ・ロサウム 13歳 女性


 鮮やかな薄紅色の髪に、桜色の瞳を持った初等生。アイボリー教室の室員。

 王都のはるか南西に領土を持つ中級貴族ロサウム家の娘。

 クロとクラスは違うものの、入学年を同じくする同期。

 クロと違って、いい意味で真面目な性格。


8 ラードゥガ・アルコバレーノ 45歳 女性


 7代目アルコバレーノ家当主。王都魔術師結盟の盟主にして、聡明な賢者の学舎の学長を務める超上級貴族。王都において1、2を争う発言力を持っている。

 極度の拝金主義者として知られており、学舎が腐敗した原因とも言える人物。

 普段からフードを深く被り、彼女の素顔を見た者はいない。

 常に他者を威圧するようなプレッシャーを放ち、騎士や戦士といった者たちを蛇蝎の如く嫌っている。

 魔術師としては最高位である「賢者」の称号を持ち、王都随一の実力を持った大魔術師。


(その他の人物)


1 カナリー・エッグシェル 13歳 女性


 カナリア色の髪に檸檬色の瞳を持った学舎の元学生。退学済み。

 クロの左頬に火傷痕をつけた人物。

 最下級貴族エッグシェル家の娘で、魔術師としては非凡な才能を持っていた。


2 クローム・イエロー 24歳 男性


 「卑賤の民の町」を根城とする冒険者ギルド『バンディッド』のギルド長。

 最下級身分の劣等民であるが、王都の貴族や騎士団から様々な仕事を請け負い、その信頼は厚い。


3 ブルー・アスール 17歳 男性


 青髪の燃えるような闘志を滾らせたバンディッドの冒険者。

 やたらと喧嘩が強く「卑賤の民の町」において最強の冒険者と謳われている。

 クロームと同じく最下級身分の劣等民であるが、これまで冒険者として積み上げてきた功績が認められ、騎士として招かれることになった。


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