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異質

「おかしい……本当におかしい」

 1月10日。まだメディアはアストのことで騒いでいる。

「おかしいよね?」

 アストに対する非難が、一つもないのだ。非難はただの一つもなく、疑問の声もまたないに等しい。つまり、アストは認められていた。世界中に、認められていた。そんなはずはないと頭を抱えるフィウだけが異質だと言うように、世間はまったくもって頭を抱えない。

「おかしいよ、アルモ!」

 赤みがかった白い髪を側頭部に上げ、紫色の目でフィウを眺める彼女は、首を捻る。

「うーん……そう? びっくりしたけど、ユサグスさんが譲るって言っちゃったんだから、認めないわけにはいかないだろうし。アストくん可愛いよ」

「可愛いとかいう問題じゃないでしょ……」

 フィウと同じく騎士団に属するアルモ=ウィラークは首を傾げてしまう。フィウはふるふると首を振り、立ち上がった。

 訳がわからない。

 城の廊下を早足に進み、ガタンと扉を開けた。

「水崎? どしたの」

「どしたのじゃないよ、アスト……」

 アストが名付けの次に下した命令は、年上に敬語を使われると気持ち悪いからタメ語で話せ、だ。この命は城に仕える全員に行き渡っている。面食らうような発言を二度……否、即位宣言を含めると三度したアストは、それからは特に目立つことはしていない。押し掛けるメディアには、国際新聞にのみ応じ、その他は全て弾いている。

「……まあ、まあ。そういうことなんだろ」

 言いたいことを察したらしいアストは緊張感のない声でそう言って、散らかった机上に視線を戻した。

「わけわからない……なんで……?」

「……俺からすると、水崎の言動が不思議でたまらないんだけど」

 なにかを呟いたアストの声は小さく、フィウには届かない。

「え」

「別に。……先王の奴もいい仕事したみたいだけど、俺はその上を行ける。その辺は安心してよ」

「…………」

 フィウは黙り込む。艶めく少し長めの青髪を適当に纏めているアストはやはり小さな子供であり、そこにいても違和感しかないのだ。ただのガキではない、少し異様な雰囲気を持ってはいるが、それだけだ。なぜ認められているのか、フィウには理解できなかった。

 が、仕事については確かに文句なかった。本当にアストは仕事が早く、質だけならユサグスも負けてはいないのだろうが、量が半端ではない。この10日でどれだけのことをこなしたろう。

「水崎、少なくとも数年はここで暮らしたんだろ?」

「? うん……」

「じゃあ、俺のことは気にしないのが得策だと思うよ。水崎みたいに思ってるの、水崎くらいだし」

「……それがなぜだかわからないんだけど」

 アストはまたフィウを見やり、双方が疑念を浮かべた表情を合わせて曖昧に答える。

「声がないのは俺だから。多分、わからないのはお前だからだと思う。後者は俺もよくわかんないね」

 彼は暗に、フィウは異質だと言った。同時に自分も異質だと。

 そんなことを言っているアストもまたあどけなく、それがまた異質でしかない。フィウは諦めて、部屋を去った。





「見てくださいよ! ゆーさん!」

「あー? 何……」

 とある飲食店の中らしき場所で、机に突っ伏して寝ていたユサグスは、明るく中性的なその声に顔を上げた。

 声の主は声と同じく中性的な顔つきをしており、男女の区別がうまくつかない。赤みがかった白い髪を短く切り揃えた髪型に、青紫色の瞳を細めて、絵に描いたような作り笑顔を貼り付けている。うきうきとユサグスに新聞を差し出したその人は、男である。

「アストですアスト! 西方になんか……なんでしたっけ? テロ組織いたでしょう! 沈静化したらしいですよ」

「……は、本当か! すげえ……つかエライス、ここに書いてあるだろ」

 ユサグスは慌てて新聞を覗き込み、感嘆の声を漏らした。エライスと呼ばれた青年は、作り笑顔を崩さずに言う。

「すごいですよね、ショタの癖によくやります」

「うあぁー、なんかお頭さん自首しちゃってるよ……? どーゆーこっちゃ」

「こんな感じのこと、あちこちで起こってるっぽいですね。アスト、何もしてないのに。まったく何者なんでしょう?」

「さーあ? 俺は知らないね。でも、あいつに国任せてよかったわ」

 眠気が覚めたようで、気の抜けた口調でエライスと談話するユサグス。見守るようでいて、諦めたような視線を新聞に落とし、上げた。

「ゆーさん負けてますねー。いいことです」

 そうだな、と投げやりに言って、ユサグスは大きく伸びをした。新聞に映るあどけない顔は幼いが、彼よりずっと頼もしいものなのである。10日前はさすがに驚いたが、まぁ結果が良ければ全てよしとしよう。

「……このまま、見つけてくれたらな」

 ユサグスは天井をぼうっと見つめ、そうこぼす。エライスは笑顔のまま、そんなユサグスの目前に置かれた新聞を手に取る。

「焦らないでくださいよ、ゆーさん。あの人達くらい、ゆーさんなら見つけられるでしょう」

「まあ、なぁ……王様やってるより、今の方が動きやすいよ」

 ユサグスはエライスを見やると、微かに笑って言った。

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