夜が明けるとき
少年は着実に歩を進めていた。ただ一歩一歩を、下降するために踏み出している。先ほどはもう少し上にいた少年は、恐れることなく歩き続けている。
上から少年を蔑む声がした。少年を嘲笑い、憐れみすら込められた、呪いのような声が。
少年はそれを気にも留めず、なにを言うでもなく、足元ばかりを見つめてそこを降り続ける。その表情は、何かに嫌気が差したようでいて、精悍でもあった。
さらに蔑む声が少年へ降り注ぐ。少年はピタリと歩みを止め、今度は速さを増して、また下へ向けて駆け出す。
いっそ一番下まで飛んでしまえたらな、と少年は思う。下まで降りたくとも、この決して道になり得ない道を歩まなければならないのが、やたらに鬱陶しい。
降りきれば、蔑む声は聞こえなくなるだろう。もしかすると、同時に声の主たちとは何の繋がりもなくなって、少年は二度と帰れなくなるのかもしれない。或いは、そうはならないのかもしれない。
どちらにせよ、構わなかった。ただ、上にいる奴らから、離れたくて。けれど、離れるだけというのも癪なのだ。あいつらは、少年が離れたところで変わりはしないだろう。
だから、なにかどんでん返しをしてやろうと。
「……間違ってるのはお前らだ」
空の中で空を見上げ、ポツリと呟く。
唐突に、疾駆していた足をふわりと浮かせて、少年はふぅと息をついた。
それから落下する。