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無敵勇者と異世界転送


 無敵勇者と異世界転送



 あるところに、一人の勇者がいた。


 その勇者は、神の加護を受けた最強の異能力者だった。

 その勇者には、相手の魔力を問答無用で浄化する光の矢を放つことで、相手を一瞬で無力化することが出来る力があった。勇者に叶うものは誰もいない。勇者は無敵だった。

 当然、そんな無敵な力を持つ勇者だったから、世界を救うことも楽々と出来た。

 レベルアップも冒険もほとんどせずに、勇者は裸一貫で魔王城に臨み、そしてほとんど一瞬にして魔王を滅して世界を救った。異様な早さでのゲームクリアだった。

 魔王が消滅し、まがまがしい雰囲気の消えた魔王城の中で、美しい少女の形をした精霊や女神たちがこぞって勇者のもとに集い、口々にお礼を述べ始める。

 「本当に、本当にありがとうございました。勇者さま。我らの世界は、あなたさまによって救われました。人間技とは思えない早さでの魔王城の攻略。素晴らしいの一言です」

 「我々の長年の苦しみが、これほどの早さで救われるとは」

 「あぁ。やはり、あなたの力を見込んだ、我々の目に狂いはなかった……」

 「そうだな。良かったな。これで、この世界での俺の勇者としての使命は、終わりなわけだ」

 勇者は、そんな精霊たちの称賛を、さして嬉しくもなさそうに聞き流していた。

 「ありがとうございました勇者さま。我々、言葉を尽くしてもあなたには感謝しきれません」

 「うん。そうか。良かったな。じゃあ、そろそろ俺を――――」

 勇者が二の句を継ごうとしたとき、ふっと勇者の姿がその場から消えた。

 「えっ?勇者さま?」

 精霊たちが、困惑したように辺りを見回す。

 しかし、勇者の姿は、もうこの世界のどこにも見当たらなかった。


 勇者は、異世界に飛ばされていた。

 突然飛ばされた勇者が目を覚ますと、もうそこはさっきまでいた魔王城ではなく、青々とした草原が広がる大地だったのだ。

 勇者は頭を掻いてつぶやく。

 「やれやれ……。ここは、どこだ……?」

 勇者はあまり驚きもせずに、首をコキコキと鳴らしながら立ち上がった。

 「ようこそいらっしゃいました。異世界の勇者さま……」

 すると、勇者の目の前に、幻のようにはかなく発光する、黒髪の美しい少女が現れた。

 「失礼とは存じながらも、あなたのご活躍は、この水晶で拝見させていただきました」

 「俺の活躍?」

 「はい。この水晶には、異世界の強力な魔力を探知して映し出す働きがあるのです」

 勇者がけげんそうな表情を浮かべると、少女はゆっくりと姿勢を正して説明を始めた。

 「あなたさまの異世界での強力なお力。素晴らしいものでございましたわ。どうかその力、私たちにお貸し願えませんか。勇者さま」

 「……ふぅん。何だ?要するにこの世界にも、俺が前いた世界みたいに魔王でもいるのか?」

 「へ?」

 勇者の、すましきった表情と口調に、少女は少し面食らったような顔をした。

 何故この人は、異世界に突然飛ばされてきたにも関わらず、これほど冷静なのだろう。

 どんな人でも、もう少しは驚くくらいが普通だとは思うのだが……。

 少女が不思議そうにして言葉をとぎると、勇者がじれったそうにして声を上げた。

 「いや、だからさぁ、つまり、この世界にも、世界を支配だか滅ぼすだか、そういうことを企んでいる魔王がいるってことなんだろ」

 「え?あ、い、いや、えーっとですね……」

 「で、お前らはそいつに非常に迷惑している。だから退治したい。退治するために、最強の異能力を持った俺を異世界から呼び出した。そういうことだろう」

 勇者のよどみない口調に、その場にいた少女は目を丸くした。

 まさしくその通りだったのだ。

 「い、いや。ず、ずいぶんとご理解が早いことで……」

 少女が驚きを隠せないままでぎこちなく首を振ると、勇者がよっこいしょと呑気に声を出して立ち上がった。

 「……まぁ、俺ほどの最強の力があったら、それを借りたいと思うやつはそこらじゅうにいて当然だろうからな。仕方ない。じゃあ、行こうぜ」

 「え?い、行くとは?」

 「魔王を倒して、世界を救いに行くんだよ。他に何があるんだ?」

 勇者はそう言って、少女の話もろくに聞かず、すたすたと歩き出した。

 まるで最初から自分の役割を全て熟知しているかのような、迷いない歩み。

 少女は戸惑い、不思議に思いつつも、急いで勇者の後を追った。


 勇者はその世界でも、素晴らしい早さで魔王城までたどりついた。

 何しろ最初からほとんど無敵に近い能力を持っているのだから、苦戦するということはなかった。

 ほぼ初期装備のまま、金も持たず仲間も集めず、一人だけで次から次へとクエストをクリアして先に進んでいくのだ。

 謎解きや、必要なアイテムの収集なども要領よくこなし、ほとんど突っかかるということなしにサクサクと進んでいった。

 そのあまりの手際の良さには、サポート役として勇者にくっついていった少女ですらも呆然としてしまうほどだった。

 ……最強の能力があるから戦闘はいいにしても、頭を使わなくてはいけないはずの謎解きやアイテム収集まで、何故これほどに苦労なく進められるのだろうか?

 少女は、そんな疑問を胸に抱きながらも、勇者の旅につとつとと同行していった。

 そして勇者は、全ての必要なクエストをこなして、最終決戦の地である魔王城まですさまじいスピードでたどりついた。

 もちろん魔王相手にも、勇者は苦戦するなどということは一切なかった。

 光の矢を放ち、無力化し、近づいて初期装備のひのきのぼうでひたすら殴りつける。ただそれだけで良かった。

 あっけなく魔王は死に、この世界にも平和が戻った。

 少女は喜びつつも、あまりにも事を上手く進めすぎる勇者に困惑しながら、勇者に感謝の言葉を述べ始めた。

 「本当にありがとうございました。勇者さま。おかげで、我らの世界にも平和が戻りました」

 少女の心からの感謝にも、勇者は、大した反応を示さずにうなずいた。

 「うん。そうか。良かったな。じゃあ、そろそろ俺を元の世界に戻してくれよ」

 「あ、はい。それはそうなのですが、あの――……」

 「何だ。まだ何かあるのか?」

 「そういうわけではないのですが、その、しかし……」

 勇者のうんざりしたような顔に、少女は思わず目を伏せた。

 どうしてこの勇者は、これほどまでに手際よく我々の世界を救えたのだろうか。

 そしてどうしてこの勇者は、これほどまでにつまらなそうな表情で我々の世界を救うのか。

 疑問が抑えきれなくなった少女は、思い切ってその疑問を口に出してみることにした。

 「しかし勇者さま、あなたは何故かようなまでに効率よく迅速に、我々の世界を救うことが出来たのです。我らの世界のいかなる試練も、あなたはまるで飽き飽きしたような動作で何の苦もなくクリアしていった。私には、不思議でならないのですが」

 「どうしてかだって。冗談じゃないぞ」

 少女のその発言を聞いた勇者が、急に発奮した口調になって顔を赤らめた。

 「俺がこんな最強の力を持ったばっかりに、今まで何回お前らみたいな連中に呼び出されて、異世界を救うクエストの周回プレイをやらされていたと思ってるんだ。どいつもこいつも、俺を勝手に異世界に呼び出して、俺に世界を救わせようとしやがる。この前のやつらもそうだった。その前のやつらも。その前もだ。異世界に呼び出されるのは、これでもう七回目だ……」


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