4 すずろの心
言葉がでない。
聞こえないとわかってしまった以上慈雨には言葉を伝える手段がない。
意思の疎通が断たれ悩。
少年は、首を傾げ慈雨を見る、そっと慈雨の手を取り持っている本を開。
少年は開いたページの文字を示唆し、その文字を慈雨は読んでいく
「あ」 「お」 「い?」 「【藍唯】これはお前の名前か?」
藍唯は、小さく頷く。
続けて慈雨も自分の名前を示唆する。
すると慈雨の顔をみて藍唯の唇が揺れる。
『じう?』
「ああ そうだ慈雨だ」すると藍唯の指が、本の文字の上を綴る。
其の文字は【旱天慈雨】 「かんてんじう?」
藍唯の指が綴った文字、慈雨にとって初耳の言葉に硬直してしまった。
慈雨に目をやると藍唯はまた本を開き文字を示唆する。
『困った時、手を差し伸べると言う意味。 素敵な名前だね慈雨』
愁う……
誰が付けたのかもわからない名前に、慈雨の心は痛く悲しみそして【怨み骨髄に入る】
その言の葉を享け慈雨は泪した。
「俺は、この名前を付けた奴が誰だか知らない。でも……きっといい奴だったんだろうな」
慈雨は、藍唯の持っている開いた本の文字を示唆した。
それは「有難う」という文字、其の言葉に藍唯は、ニコリと微笑む。
静寂された館内に、静かな二人の会話、久々に気持ちがいいと互いは感じた。
慈雨の心はそう想っていた、少しづつ進んでいく言の葉の時間の流れ。そして、会話の中で慈雨は、藍唯の年を訊いた。
『17歳』
「……えええええええ」
館内に響き亘る慈雨の驚きの声と共に、藍唯も吃驚した表情をする。
「あ、藍唯、お前タメかよ!」
【藍唯十七歳】【慈雨十七歳】二人は顔を見合わせ再度確認し、慈雨は、藍唯の持っている本を奪い、また文字を指で綴る。
『お前、もっとガキかと思った』
藍唯も、少し怒った顔で、慈雨から本奪い取!
『そっちこそ、もっとおっさんかと思った』
【案に違い】二人は顔を見合せ可笑しくなる。
※館内はお静かに御願い致します。
そして、慈雨は立上り藍唯の腕を掴み引っ張る「出るぞ藍唯。お前が何故、連日図書館にいるかは訊かない」慈雨は、藍唯の方を振り向き顔を見合す。
「でも、その痣は俺が消してやる」
意思の疎通が、藍唯に伝わる。
藍唯はその場に立ち止まり俯く、それは藍唯にとっての恐怖。
身体が震え硬直し【暇乞い】動かない。
慈雨は、藍唯の手首を強く握り、もう片方の手を自分の胸に手を置き藍唯の顔をじっと見る。
「俺を信じろ」
その言葉に藍唯は、目を閉じ唇を動かす。
『そういうのをすずろの心って言うんだよ慈雨』
歪んだ世界で
何色にも染まらない黒色を纏う自分の姿
それはもう白に戻ることを許されない鎖のような黒
罪悪感、戸惑い、恐怖、妬み、憎しみ
それらを通り越して最後に残ったものは
空虚 そして 孤独という名の針が心臓に突き刺さっている
色彩の景色は探しても見えてこない 永久に続く闇
失くした欠片を探し始めようとしたと同時に
脆く崩れ去ってしまったものは一体何だったのだろうか
記憶なんてものは、消えてと願っても消えるはずがない
瞳に映る自分の姿は醜く
存在を否定しているように見えた
きっとわたしは神様の失敗作
【詩 憂冴】
館内の正面玄関***
扉で慈雨は、藍唯の腕を強引に引っ張り外へと出ると正面玄関を出てすぐ、藍唯は慈雨の腕を振り払い、掴まれていた手首を痛そうに、もう片方の手で押さえその場に立ち止まる。
一歩前に出た慈雨は、藍唯の方へ振り返り、目の前にした藍唯は【あえか】な表情をしていた。
「それ、親にやられたんだろ?」
音が聞こえない。言葉が伝わらない事を慈雨は一時忘れていた。
それでも……
「虐めなら、顔やそんな見えるとこに痣なんて作らねえし、こんな朝早くから図書館にいるのだって
家にいたくないからだろ! だったら! そんな親ぶっ飛ばしてやりゃいいだろ!」
藍唯は、一度も瞬きをせず慈雨の顔を視る。
左手の甲を上に向け、右手の手刀で1回叩き、同時に頭を下げる。
『ありがとう』
その表現がなにか慈雨にはわからない。
でも、藍唯が慈雨に何かを伝えようとした事、それは慈雨の心に響き【贖う】
「すまん、信じろなんて言いながら、コレじゃ駄目だな」
藍唯は、唇の揺れで、ある程度の言葉を読み取り、贖う慈雨の手をそっと掴む。
「藍唯」
藍唯は、慈雨の顔を見て両手のひらを内側に5指を広げて、嬉しそうな表情をしながら胸の前で
上下に互いに動かす。
『わたしは、嬉しい』
何故、微笑むだけで俺は嬉しい……
「お前に、逢わせたい人がいる、俺に付いて来てくれるか? っと言ってもわかんねぇか」
慈雨は、藍唯から一歩下がり頭を下げ手を差し伸べる。
藍唯は藹々(あいあい)と、其の手に暈ね合わす。
『うん』有卦に入る慈雨と藍唯。
時は、十二時を回り【別れさせ屋】の時間が近づいていた。
今回、途中に【歪んだ世界で】という詩が入っているのですが
私の友達憂冴ちゃんが、書いてくれました。
ありがとうぉぉぉぉ
この、小説は詩が主なので読んで頂いたら嬉しいです。