2 Brigitte Bardot
周りを見ても充たされない。
倦怠に駆られ生きる意味を問われたときある程度までたどり着くと人はきっとこう言うの。
『生きてるだけで幸せ。』
それは、冒涜の基準が人それぞれに違うからこそ、何も無くなった時に言えること。
『慈雨は、なんの為に生きているの?』
きっと、今の俺には答える事ができない。 答える言葉は……納得のいく言の葉を俺は知らない。
『世間からの【擯斥】』
その時、藍唯は俺の為に涙を零す。
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新宿――。
街のネオンが灯り始め、擦れ違う人其々に香水の匀が鼻につく、その匂いを搔き分けながら慈雨は、雇われ先のBARへと向う。 楽しく微笑んでいる者、泣き叫んでいる者、血を流し倒れている者に一切、目も刳れず。 歩む足を止めた時、そこは地下へと十段ほど階段を降りるBAR。
其のBARの名前は、【BrigitteBardot】
慈雨は、煙草を銜えたまま階段を降りて入口を開ける。
「あら、お帰り慈雨」
そう言って野太い声でカウンターから、慈雨を出迎えてくれたのはBrigitte Bardotのbebe姉さん。
ビジュアルの説明など誰も聞きたくはないだろうけども、魅惑のケツ顎。 偽りのデカ乳。
女の要素がどこにも見当たらない。 このオカマがこの店のママをしている。
どういう経緯か知らないが、今は女性をやっているbebe姉。
しかし、他、二人のホステスは女性なのでオカマBARというわけでもない。
慈雨は、bebe姉の目の前のカウンター席に座りライダースジャケットのポケットから徐に、現金四萬五千円を取り出しカウンターに置いた。
「今日は、三人」
一人あたり壱萬五千円という報酬で別れさせ屋を請け負っていた。
「ごくろうさま。何か飲む?」
灰皿で煙草の火を消しながら慈雨が答える。
「じゃあ、ジンリッキー頼む」
――おい。 慈雨。今日の客はどうだったよ?
そこへ他の席に着いている常連客の中年が、慈雨に話しかけヘラヘラトシタ表情で、仕事の内容を聞いてきた。 それに対し慈雨は少し微笑、カウンターの席から立ち上がり常連客の許へ行く。 置いてあるグラスを手に取り常連客の頭上で傾け、グラスの酒は当然中年男の頭へと流れ、頭の上でバシャバシャと飛沫を散らす。 そして、慈雨はグラスを置いた。
「なんなら、おっさんも別れさせてやろうか? その隣の”アバズレ女”と」
中年男は、激怒し、座っていた椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がった。
「てめえ 殺されたいか糞餓鬼!」
―――ジャケットの中から、拳銃を取り出し慈雨の頭へと突き付ける。
しかし、銃口を睨み脅えることのない慈雨。 そして、音もなく、気配もなく、銃口を突き付けている中年男の首元にナイフが現れる。
「その指、動かしたら首がなくなっちゃうよ うふ」(中国人風に読んでください)
そういってホステスの一人、朱李が中年男の首元にナイフを後ろから喉元に刃を向け
附き当てる。
「……っちぃ うるせぇなあ……俺は、ただうまい酒を飲みにきただけなんだよ。
慈雨、大人を舐めてると痛い目みるぞ。 特にてめぇは恨みをたくさんかってるからな」
―別れさせ屋なんて汚ねぇことしてるんだ―
中年男は懐に銃を納め、店内は静寂に包まれジャズが微かに耳に付く。 慈雨と中年男が向き合うのを余所にbebe姉がコースターを置きジンリッキーをカウンターに置いた。
「心配しないで慈雨。 その時は、私たちがあなたを守るから大丈夫よ」