15 絆
『藍唯を自由にする』
その無責任な言葉に考え考え、【混濁】する。
何をすればいいか、自分に出来る事が頭の中で纏まらない。
最終地点だけ……その道程が、頭の悪い俺には全くわからない。
俺はいつの間にか、長湯をしてしまっていた。―――
―――おい。
―――慈雨……慈雨……おーい。 死んでんのか?―――
其の朱李の言葉に、慈雨は気が付き瞼を開。
何故か脱衣場の外にある休憩室の長椅子に横になって、朱李と藍唯が慈雨の事を心配そうに覗き込んでいた。二人と目があった慈雨は、状況が呑み込めず、とりあえずは裸にタオル一枚で寝ている事に、恥ずかしくなり身の置き所のない羞恥に駆られ、慌てて体を起こす。
「な、なんで俺こんな格好してんだ?」
起き上った慈雨の元へ着替えが終わったbebe姉が、苦笑しながら浴槽の中でのぼせたせいで意識が飛び、溺れかけていたのをここまで連れてきたということだった。
「柄にもなく、考え事してっからそうなんだよ」
『……誰のせいだよ』
当然、慈雨は情けない表情で、藍唯の顔を見るが、それに意とし藍唯は安心した面持ちで慈雨に微笑みかける。 其の表情に慈雨の混濁していた心の整理が付いた気がした。
そして、口から自然と出た言葉。
「藍唯、俺はお前の気持ちが知りたい」
横目で藍唯を見る慈雨、顔を合わせ真剣な面持ちで訊いているが、言葉の聞えない藍唯は首を傾げた。
「お前は、馬 鹿なのか? 慈雨。 聞えないに決まってるだろ」
其処へ煙草を吸い終わった可憐が、やって来て慈雨の台詞を藍唯に手話で伝えた。
「…………」
藍唯は、沈黙する。
しかし、暫くして今の気持ちを藍唯は手話で慈雨、可憐、朱李、bebe姉に伝える。
それは――両腕を胸の前で交差させ、親指と人差し指で作った輪をつけたり離したりし右手の人差し指で左胸をさし、両手握り拳を左右から中央に寄せ親指側でつける。
そして、その手話を終えた時、藍唯はあえかな表情をみせた。
その手話で、可憐は手の平で顔を隠しすぐさま泪し、それを見た朱李が可憐に問いかける。
「可憐? 藍唯ちゃんはなんて?」
絆―――――
「【互いに】、【心】、【つなぐ】……手話に”絆”は橆の、それを藍唯は表現した」
可憐の言うとおり手話には絆という単語はなく、藍唯は慈雨と出会いみんなに本当の絆を貰った事を伝えた、そして朱李の目からも涙が零れ落ちる。
bebe姉は涙を堪え、俯き微笑む。
そして、慈雨は何も言わず、その場を離れ一歩二歩、歩いた処で立ち止まった。
幸せと言う言葉は、絆と言う言葉の元に成り立っていることを慈雨は知った。
其の日の夜が、深々とふけてゆく……
慈雨の心は仮初ではなく、ましてやすずろな心でもなく、ただ藍唯の未来を萌す。
藍唯も、身体の痣を隠す事なく微笑む。
決別――
迷路世界の夢を観た。
震える背中を
野菜の匂いが包み込む
暖かいのに
何故、こんなにも冷たいの
あの時の痛みを思い出す
貴方の瞳は赤かった
もう青には戻らないのなら
―――さようなら。
もう囚われたりはしない
迷路の中で自分を見つけに行くのだ。
詩 憂冴。