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天使の言の葉  作者: 鈴呂
10/15

10 栞音

 十五日。


 それは【Brigitte Bardot毎月恒例の行事】それは、皆で銭湯に行くというもの、勿論これも決まり。かれこれもう十年以上は続けている行事。慈雨 可憐 朱李と共に皆成長しているのであるが、この日ばかりは、誰も文句を言わない。 幼き頃からの決まり事というのは恐ろしいもの。

 その日、可憐だけは夕方まで仕事。

 現在朝七時、可憐起床。

 目を覚ますと、隣には朱李はいるものの藍唯の姿は橆い。


「藍唯ちゃん?」


 可憐は、起きて寝室から慌てて出て、リビングへと行く。するとテーブルの上には出来たての朝食。

 藍唯が、キッチンで朝食を作っている姿を見て可憐は壁に靠れ掛、一安心した。

『おはよ藍唯。いなくなったのかと思ったよ』そういって可憐は、藍唯の前に立ち手話で伝える。

 藍唯は、申し訳なさそうにあたふたと手話で返す。

『ご、ごめんなさい』可憐は、藍唯の頭を撫でて朝食の礼を言う。『朝食、有難う』

 藍唯は、嬉しくなり可憐に微笑みかける。実は藍唯は料理をするのが大好きで、毎日図書館に行って読んでいたのは八割がたは創作料理などの本、あとは小説や詩集など。

 なので、美味しいと言われるのは藍唯にとっては、これ以上の橆い歓喜。その二人を余所に、ちょうど素っ裸で眠そうにリビングに現れる朱李に、藍唯は目を逸らし立ち尽くしてしまった。顔を隠す藍唯を朱李は抱きしめて言う

「初めまして藍唯ちゃん。おはようね」勿論、朱李の言葉は伝わってはいない、しかし朱李の感情が恥ずかしがっていた藍唯にも伝わる、そっと目を閉じ心の中で『おはよう』と言った。

「…………」

 しかし、二人の横で顔を鬼にして近づく可憐。

「朱李ぃぃ いいから早く服きなさいよ! いつまでそんな格好でうろうろしてんのよ!」 

「あ、忘れてたね」と舌を出し朱李はクローゼットへ服を取に向かう。

 其の後ろ姿を藍唯はくすりと笑い、可憐は呆れたような顔をして溜息をつく。

 気を取り直し三人でテーブルを囲み藍唯の作った朝食を食す。其処の並んでいるのはホットドック用のパンにレタスの下にマヨネーズを入れ納豆を挟んでケチャップをかけたシンプルなサンドイッチ、そしてアイスコーヒーと簡単なごぼうスナックを入れたサラダ。


「ってこれ大丈夫? パンに納豆挟まってるけど……」

 そういって可憐は藍唯の顔を見ると、笑顔。

「可憐、これ上手いよ?」そう言って朱李は、もぐもぐと口に含み食べている。

 恐る恐る可憐も口に含み其の味を感じる。

「おいしい…… なにこれ……おいしい!」 

 藍唯は、可憐と朱李の表情を見ればわかる。 

『美味しい』と言ってくれていることが、無意識に出た手話。

 左手の甲を上に向け、右手で手刀で1回叩き、同時に頭をさげる。  

「可憐、今のは?」


「『ありがとう』って言ったの」


 さて、時刻は八時を過ぎ、朝食も済ませ可憐出勤時間迫る。

 メイク スーツと伊達眼鏡を掛け仕事モード。完璧

「朱李、これ」可憐は財布からお金を取り出し。 このお金で藍唯の洋服を買うようにと朱李に渡した。

「それと、『藍唯。 其の髪もしかして、自分で切ったの?』」と手話で聞く。

 藍唯は頷いた。

「やっぱり、朱李、藍唯ちゃんを美容院ESに連れて行って。 女の子はね、綺麗になる権利があるの」

「フフ 了解ね」

 可憐出勤、これから務め先の出版社へと向かう。

「いってきまーす」「いってら」


 其の頃、慈雨はというと自分で作った朝食を独り寂しく済ませ、服を着替えて出掛ける。

 薄暑に、其々の思いが【言わずもがな】少しづつ楚々に絆を深め変わりゆく。


 



 繊細な指の動きが紡ぐ ―言の葉―

 白くて細い指から伝わる 不思議

 

 そして時に 人の心を動かす

 

 僕の心は 僅かに揺れ始めた。

 

 伝えたい この 目に見えない ―言の葉― を

 

 この透明な糸は 可能性を通じて 

 君の心まで 伝っているだろうか

 

 首から腕へ

 腕から指先へ

 指先から人へ

 そして心へ届く。

 

 この目に見えない言の葉はきっと…

 

 ― 天使から 君への贈り物 ― 


                 詩 憂冴うさ


 



 八時、可憐出勤。大手出版社で上位から弐番目といういわゆる社長代行、それがこの出版社での可憐の肩書き。実力派のキャリアウーマンそれは何故かというと元々は弱小出版社を可憐の担当している。 

 小説家が、二年連続で世に送り出した作品全てがベストセラーとなり、今もその人気は衰え橆い。

 それをきっかけに大手出版社へと変貌した。 

 其の作家、ペンネームは【栞音しおん】投稿当初から今も変わらず少々風変わりな格好だが、若干十七歳と才能溢れる少年。その少年が弱小出版社に二年前に投稿したのがそもそもの始まりとなった、当時は、可憐も作家の担当は初めてだったが、可憐も元々の読解力や想像力に優れ、判断力と的確な【頂門の一針】、あと多大なる商品としての【人後に落ちない】栞音をベストセラー作家へと導き【所を得る】 言わずと知れた出版社の朝は遽しく、締切が迫っている担当者などは早朝から出払っているものの可憐は、一度オフィスへと朝は必、顔を出す。


「おはよう」


 社員は三十人といった小規模な方針は、可憐の要望 少なく優れた人材を育てるというのが目的。 

「可憐さん 栞音先生が原稿あがってるそうなので午前中に取りに来てくださいとの事です」 

「そう、わかったわ」

 社長代行で在りながら、肩書きで呼ばさない。 そして現在、今も栞音の担当をしているというのも其れもまた可憐の要望。 可憐の好きな言葉【人生意気に感ず】人は、金銭や名誉でなく、相手の心意気に感じて仕事をするということ。 

 そして、可憐は一通り今日のスケジュールに目を通すと、栞音の元へと連絡を入れる。


 プルルルル カチャ≪はい≫


「おはようございます、可憐です。今から栞音先生の処に伺ってもよろしいでしょうか?」 

≪ええ お願いします。僕、午後から少し出掛けるのでできるだけ早めでお願いします≫ 

「わかりました。十五分ほどで伺いますが宜しいですか?」 

≪はい、お待ちしております≫「それでは」通話終了。 

 そういって可憐は必、行く前に連絡を入れる。其れには勿論理由も有。


 


 出版社から車で十五分の処にマンションを借り、住居兼アトリエとして利用している栞音。 

 可憐は、既にその玄関先まで到着していた、其処には【小湊】という表札、インターホンを押し、中からは栞音の声でどうぞと言う返事が返ってくる。

「おはようございます。栞音先生」

 可憐が、書斎のドアをノックして開けると其処には、デスクに坐る小柄で髪の毛はピンク色のボブヘアーにうさ耳がついており、伊達眼鏡をかけ フリルやレースの付いたゴシック風のモノトーンワンピースを身に纏った人形の様な男の娘。

 とても年頃の男子とは思えぬ、麗しい唇に透き通った様な、きめ細かな肌をしてきちっとしたメイクに全く嫌味が橆、必連絡を入れるのはこの為。


「おはよう、可憐さん」


 そういって微笑む栞音、本名【小湊志穏こみなとしおん

「原稿は、其処に置いてあるから」といってテーブルを示唆する。可憐は、その原稿を受け取り志穏にいつものようにお疲れさまと告げる。 大事な原稿をそっと鞄に入れながら志穏に話しかける可憐。

「午後からどこか出掛けるの?」 

「うん、本屋さんに行って、少し知人に会うんだ」

「私にも、紹介してくれるのかしら?」

「うーん、可憐さんの好みではないかもだよ」そう言って笑顔で答える志穏。 

「そう、残念だわ。 栞音先生の知人なら逢ってみたいと思ったんだけど」

 あはっと無邪気な笑顔を作る志穏「先生っていうのやめてよ、普通に僕の事は志穏でいいからさ」


 プルルルル―― プルルルル――


 会話の途中で、可憐のスマホが鳴。スマホを鞄から取り出し画面を見ると朱李からの着信。

「あ、朱李から」「どうぞ、僕もそろそろ出掛けるから」

 可憐は、朱李からの電話を取 内容は朱李と藍唯二人で出ているのだけど早々にお金が橆くなってしまったという電話だった。

「はぁ? あれだけ渡して、もう橆くなったの? で、今何処? うん、わかったすぐ行くわよ!」 

 少し呆れ気味で通話終了。

「まったく朱李ったら! 志穏くん私も用事が出来たから途中まで車で乗って行く?」

「いや、本屋さんは近いから歩いて出掛けるよ。それよりも連れの人待ってるんじゃない?」


「まぁ……ごめんなさい」「うん」笑顔で手を振り見送る志穏を余所に。足早に朱李と藍唯の所に向かう可憐、それじゃ失礼しますといって玄関を出た。 其の時、時刻は十一時を回っていた。


 


 板金塗装小虎屋***



 結局、夢の続きは見れず慈雨も十五日は休みなので何も橆い、出掛ける準備も終り。 

 そして炎天下、慈雨は本屋へと手話の本を購入しに出掛けた。


 


 


 




でわでわ 次回までw



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