アイツが俺で俺はオレ(夜)
「プラナリアっていうのに近いと思う」
「何ソレ。ドッペルゲンガ―の仲間?」「何ソレ。ドッペルゲンガーの仲間?」
あれから色々考えて、アイツはドッペルゲンガーではないかと思いついた。自分そっくりの何かで、見ると死ぬとかなんとか。オカルトだけどさ、クローンじゃないならコレしかないだろう。
俺たちはその考えも含め、大学から帰ってきた叔父さんに今日あった出来事を話した。なんだかんだ言って、相談できる大人が母さんと叔父さんだけっていうのは心持たないんだけど仕方ない。
叔父さんは俺らの意見を聞いた後、重々しくそのプラナリアについて話し出した。
「プラナリアっつーのは、まぁ…サナダムシと同じような生き物でな、すっごく再生能力が高いんだよ。切れば切るほど増える、どこを切っても平気で再生する。頭部分を切られても頭を再生できるからヤマタノオロチみたいな状態にすることもできるし、再生医療に応用できるかもって期待されているんだ」
「へぇ、おじさん物知りだなー」「へぇ、おじさん物知りだなー」
「まぁな~一応調べたんだぜ」
叔父さんは得意げに胸をそらせた。褒められて気をよくしたのか、カラー写真まで見せてくれる。ふぅん、意外と憎めない顔をしているな。
ふ ぅ ん 。
「・・・で、誰がムシだって?」「・・・で、誰がムシだって?」
「ん?いや虫じゃないって。虫っていうのは昆虫やクモ・ムカデとかあってムシの名前は分類学上の・・・」
「ごまかすなよ、今ムシに近いって言ったろ」「ごまかすなよ、今ムシに近いって言ったろ」
「え、いや、え」
急に責められて、ソロソロと叔父さんは俺たちとの距離を取った(殴られるのを警戒しているのだ・・・ヘタレめ!)その逃げの姿勢が俺らの神経を一層逆なでする。一触即発な状況を見るに見かねて母さんが割って入った。
「まぁまぁ、3人とも落ち着いて・・・それで、雄一。どうしてそのプラナタリナと似てると思ったの?」
「プラナリア。
分割されて再生する時にな、元のとほぼ同じDNAを構築するんだって・・・いや、あまりその辺細かく読んでないんだけど、そんなようなことが書いてあってさ。見間違いでなければ。とにかく、同じのが2つ。今の太一と同じじゃないか」
「別に分割された覚えはないけどな」「別に分割された覚えはないけどな」
「原因はまぁ置いておこう。わからないんだから」
とりあえず暴力行為がなさそうなので安心したのだろう、叔父さんはオドオドした態度を止め、俺たちに視線を合わせる。
「とにかく、いつからかわからないから今日の0時とすると・・・その時点までの記憶や思考方法が全く同じなんだな、多分原子構造とか神経細胞とかもそうなんじゃないか?だから、お前たちの行動も必然的に同じになる。1人の時の太一がやるであろう行動を2人でとっているということだ。な?いい線いってるだろ?」
「つまり、マジでアイツ、俺なの?」「つまりマジでアイツ、俺なの?」
そういうつもりで見ると、頷ける部分もある、かも。
いくら宇宙人やドッペルが俺をまねたとしても、ここまでシンクロした行動ができるわけないからだ。
「何をするか何を考えるか全部同じなんだろう。同じ人間なんだからそりゃ仕方ないさ。これからずらしていくしかない。
トイレの時、違う動きをしてたんだろう?置かれた環境の違いからそうなった、とも言える。それはお互い座ったとき、同じ状態になった時には同時行動になったということからも裏付けられる」
わかるような分からないような・・・
「で、どうすりゃいいんだよ」「で、どうすりゃいいんだよ」
「これは俺の考えなんだけど、状況を変えるっていう一時しのぎじゃなくて、これからの経験や考え方を変えていくしかないなぁ。ほら、いわゆる双子だって外見は同じでも性格や行動は違うじゃないか、それと一緒だ。」
話しているうちに調子が戻ってきたのか、叔父さんの顔が生き生きとしてきた。
「とはいえ急に別々な事をするのも何があるかわからないしな、戻れた時に影響あるかもしれないし。ゆっくり違うものをやったり見たりしていくしかないんじゃないかな」
うむ。と一区切りつけると、偉そうに鼻を上に向けて俺たちの反応を待つ。その仕草も妙にムカつく。どこか他人事なのが透けて見えるからだ(実際そうだけども)
俺はもう一人の俺と顔を見合わせた。・・・うん、ヤツも同じ心境のようだ。どこかイラついているのがわかる。
「ふ~ん・・・こうして聞くと、雄一も偉い学者さんみたいねぇ」
「だろだろ」
居候は母さんのお世辞に、たちまち調子に乗ってポーズをとった。めったに褒められることなんてないから図に乗ってんだ。でも反論したいのに言葉が出てこねぇ。
俺たちがギリギリと叔父さんに言うセリフを考えていると、彼は何を思ったかいけしゃあしゃあと纏めに入った。
「というわけで、2人とも『太一』じゃややこしいから・・・お前は今日から『右』お前は『左』と呼ぶことにする」
「はぁあ?!右とか、なんだよソレ」「はぁあ?!左とか、なんだよソレ」
「だ~って、お前ら両方太一なんだろ?そこは譲れないんだろ?じゃあ2人とも呼び名を変えるしかないじゃん」
この野郎、黙って聞いてれば・・・犬の名前だってもっと立派だぞ!
「じゃあ、早速今日からはじめるか・・・おい左、今日から日記でもつけろ」
「はぁ?なんで俺が!」
ヤツ・・・いや『左』が喚いた。アイツが俺なら面倒くさいことが嫌いなのも同じはずだ。変な命令を受けたもんだな。ご愁傷様。
「ははは、ざまぁ」
「右は・・・そうだな、その間Wiifitでもやってろ。スマブラ参戦するし今が旬だろ」
「はぁ?なんで俺が!」
まさかこっちにまで降りかかるとは思わなかった。そんなもん、正月に起動したきり一回もやってねーよ!
「ははは、ざまぁ」
『左』がお返しとばかり鼻で笑う。うぐぐ・・・
「毎日少しずつやっていけば、2人で口げんかなり殴り合いなりできるぞ。あはは」
「おっさんは笑うな!」「おっさんは笑うな!」
さすが俺。オッサンの腹への一撃は息ぴったりだった。
※※左日記※※
日記をつける習慣はないけど、おじさんが付けろというのでつけることにする。
朝起きたら、俺が増えていた。間抜け面に腹が立つ。
一卵性双生児ってこんな感じなのか?なわけねーだろ!何するにも真似しやがって、しかも譲らないし、めったに会話できないのがもっとイラつく。 ま、でもそこでフラフラポーズ取っているのは笑えるな。
プラナントカとかの話も聞いた。よくわからん。つまり記憶を引き継いだ偽物ができたって話だろ?なんでそんなことになったんだ?ていうか、原本俺だし。絶対俺だし。あのおっさんも調子に乗りやがって。アイツ超ムカつく。
でも、まぁいう事は聞いてやるさ。日記ぐらいで解決できるもんならな。
明日は学校に行く。多分『右』も来るんだろう。とりあえず寝る。