最後のふたりたち(温泉にて)
「お前、どした?」
左が訝しげに話しかけてきたのは、もう寝ようとベッドに上った時だった。
ちなみに、母さんや叔父さんはリッチに一人部屋をとっている(…いや、温泉旅館の一人部屋はそんなに立派でもないか…)
温泉大浴場!おいしい夕飯!レトロに卓球なんかやったりして、楽しい家族旅行といっても過言じゃなかった。みんな笑っていたし、本当に楽しかった……そう思っているってことは、俺は少々はしゃぎすぎだったかもしれない。
「何も?」
「んじゃ、何か企んでるんだろ…さっきから醒めたツラしてるぞ。どうした、悟りでも開いたか」
「カラスの声は聞いてない」
「一休ほど賢くないだろ。いいから話せよ」
企んでるっていう訳じゃないけれど…仕方ないな。俺は考えていたことの一部を話すことにした。
「あいつら言ってたこと、な?左はどう思う」
「あのな、俺が聞いてるのに……そうだな……結構頑張った方じゃね?生活保障だっけ、一人分だけどな。それに籍も大丈夫で居場所まで用意してる。一人に戻るのが一番いいけど、戻れないっていうんならまぁ、最善って感じかな」
「そうだよな。でさ、奴らなんで『2人ここに残る』って選択を言わなかったか、わかるか?」
「そりゃ、同じ人間2人のまま生活するのは大変だから……いや、でも叔父さんが突っ込んで、できるようにするって言ってたじゃん」
「検討ってだけな」
みるみるうちに左の眉間に皺が寄っていくが、俺は構わず続ける。
「一人、もしくは二人とも別の場所に行ってしまえば、この町はやがて今まで通りの生活に戻る。今回の騒動がなかったかのように毎日がすぎていくんだ。それが狙いなんだよ。
だから……だから2人ともこの町に残るっていうのはダメだと思う。その時は、左は残れ」
「何でだよ!何言ってんだお前!」
「なんも変なこと言ってないだろ!保証は『被害者』じゃなく『1人分』、分裂したんだからどっちも同じ被害者だろ?それを『元々の人間』と『新しく増えた人間』に区別してる。これはなぜか?わかるだろ?奴ら最初からそのつもりなんだよ!白い奴らが動いたせいで大事になったから好条件が出てきただけで、ホントだったら……」
「だから、なんでお前が行くんだ?!」
「俺は、本当の太一じゃない、から」
「はあぁ?!待て、それはおかしいだろ。お前は俺じゃないのかよ?」
【その俺って?『重岡太一』が分かれたんだから、『重岡太一』だって?】
心底あきれたような左の声に交じって、あの時の田中の声が響く。俺はそれに負けないように声を張り上げた。
「今の俺らで、同じだって言えるのか?!外見以外で?もう考え方だって違ってるだろ!」
左は俺の言葉に衝撃を受けて固まった。
【君は誰なのかって事さ】
うるさい、田中。でもそうだ。俺は確かに俺だけど、今までの「太一」かどうかと言われるとそれは違う。もちろん、それは左だって同じにしても俺ほどブレはないはずだ。成長とやらが経験に左右するのであれば……。
「客観的に見れば『重岡太一』はお前が一番近い。母さん達も柿崎達も一番違和感がないだろう。だから俺が……いたいいたいいた、髪ひっぱんな!いてーって!離せよ、ハゲ!!」
「ハゲはお前だノーミソハゲ!皺までツルツルか?」
ようやく左の手から逃れると、奴は怒りと寂しさと呆れが絶妙に混ざった表情をして、俺を睨みつけている。
「右さぁ、もうちょっと周りを信用してもいいんじゃないか?誰か、一度でも邪魔扱いしたことがあったか?母さんも叔父さんも、俺達両方ともここで暮らすのは当然って考えてるし、その線で交渉するつもりだぞ。だから『検討する』って言葉を引き出したんだろうが。
それなのに、ああ?なんだお前は。確かにお前は俺じゃねーな、こんな情けなくねーもんな」
そのセリフが俺の反省を促そうとしているんなら、大失敗である。こちらは生半可な気持ちで決めたわけではないのだから。俺が何も言わないのを悟ったのだろう。不機嫌に立ち上がると自分のベッドへ倒れこむ。
「アホくさ。俺はもう寝るわ」
その背中に、USBメモリを一個投げつけてやる。左は顔にしかめっ面を残したまま振り返った。
「なんだよコレ」
「資料。もっとけ」
左は訝しげにメモリを眺めていたが、ポンとカバンへ放り込むと何も言わずに布団の中へ潜っていった。
部屋はしんと静まり返り、遠くの方でかすかにボイラーの重低音が響いてくる。俺も音をたてないように自分の寝床へ入った。
奴らに身を任せるなんて一言も言ってないぞ。
できる限り動いて、一片の悔いなしにしてから最終的な結末迎えた方が、なんぼかマシっつっただろ。
お読みくださりありがとうございます。
消えたやつと違う話になってしまいました…PC…
けどやっとケリがつけられそうです。次で終わり!長々やってたしなぁ
読んでる方いないでしょうけど、もしいたらありがとうです




