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すわんぷまん  作者: SAME
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俺がふたりいた話(4)

 このプレハブは他のよりも大きいようだ。それに気づいたのは内装を見てからだった。事務用机が対面で2つ並んでいて、奥の方にややどっしりした机が置いてある。壁には書類入れや本棚が並び、この街の地図がデカデカと貼り付けてあった。無機質な室内にうるおいを期待しているのか、観葉植物まで飾ってある。

 気が付けは外はすっかり夕暮れ時で、窓からは薄ぼんやりとしたオレンジの光が部屋を照らしていた。


事務所か…ここには何かありそうだ。


 …といっても、追手がすぐに来るはずで、のんびり引出しを漁っている暇はない。俺は机の上に開きっぱなしで置いてあるPCからUSBメモリを次々引っこ抜いて、ポケットへ入れていった。奥の偉そうな机にあるPCのも…突如、乱暴にドアが開いた。


 「追い詰めたぞ、ふざけやがって!!」


 追いついたか!バカ力だけでなく他の白服職員も2人、部屋へなだれ込んでくる。急いで奥の机へ駆け寄ってメモリを確保すると、そのまま適当な引出しを開けて中身を奴らへ投げつけた。

 「よるな、よるな、このっ」

 「いい加減観念しろ!」

 文房具なんかいくら投げたってダメージにならない。男たちはもう目と鼻の先だ。一か八かハサミをかざして特攻しようかと思い始めたとき…。


 窓の向こうで何かが強く瞬いた。


 俺も白服達も一旦手を止めて窓の外を見る。2つの丸い明かりが見えて、少しずつ黒い輪郭が浮き上がって…ものすごい勢いで大きくなっていく!!



 轟音。



 「なんだ?!」

 反射的に手で頭をかばって、白衣の男達と一緒に隅で縮こまった。


 黒いクラウンが、ひしゃげた大きな穴から半分顔を出していた。壁はメキメキと嫌な音を響かせている。


 あっけにとられている俺達の前で、車の中から黒づくめの男が4人飛び出してきた。白衣たちも我に返り、俺を放っておいて、侵入達ともみ合いを始めた。


 何だかわからないが助かった。この隙に…!


 一歩外に出ると、空き地ではさらに大混戦になっていた。


 「一人も逃がすな!全員確保しろ!!」

 黒服ボスがワゴンの屋根の上にのっかってメガホンで怒鳴っている。だが果して全員に聞こえているかどうか…。


 あの白衣のボスが戻ってくるよう連絡したのだろう、先ほどとは比べ物にならないくらいの白服が、これまた大人数でやってきた黒服達と戦っていた。完全に日が暮れてグレースケールとなった世界に何事か喚きながら攻防している様は、人数が人数なだけに、白黒映画の撮影現場のようだ。


 …どうみても黒服と一緒に一般人が混じっている気がするんだけど…あれ、町内会長じゃね?…まぁ、それはいいや。この状況なら、俺がウロウロしてても気づかれないだろう。次はこの上の階に行くか。


 半分ほど階段を上がったところで、大きなクラクションの音が響いた。


 一台のバイクがライトをこっちに向けている。青に白のライン…柿崎のだ。横で左が手を振っている。何か口を動かしているが、あまりにも周囲の騒音が大きすぎて聞き取れない。しゃーない、いったん降りてあいつ等のとこ行くか。あんまりモタモタしてられないんだけどな。


 と、左が片手をあげて止まるように合図を送ると、何やらジェスチャーをした。何だ?…俺?…そこ…何やってる…?


 『お前、そこで何やってんの?切り札見つからないのか?』


おお、すげえ。大体意味が分かるぞ!

そうか、こういう連想ゲームみたいなもんなら思いつくものも同じだから…。俺は急いで手を動かした。


 『動物も捕まってるんだってよ。ついでに助けようと思って』

 『手伝うか?』

 『俺はこの上探すから、お前らはあっちの2階頼む』


 左は大きく頷くと、柿崎と一緒に先ほど諦めたプレハブへ走って行った。それを見届けて、俺も階段を登りきる。

いや、すげーわ。これは面白い。超能力者にでもなったかのようだ。もっと早く気付けば何かに活用できたかもしれないのになぁ…。さっさと終わらせて、もっと他に何かできないか考えようかな。


 …あれ、ドア開かない。


 今までがおかしかったのかもしれないが、これまでの戸とは違い、押しても引いてもびくともしなかった。窓から窺おうとしても本棚の様な物でふさがれていて、内部がどうなっているのか見当もつけられない。

ノブに鍵穴はない…ということは、中から鍵をかけていてそこに人間がいるってことだ。


ドラマみたいにカッコよく蹴破ってやろうと一歩下がった時、何かの気配を感じて振り返った。丁度、黒服のボスが階段を上り切って、俺の横に立ったところだった。


 「どうも見たことある格好の奴がいると思ったら…これで3回目の再会だな。何が全部話すだ、まんまと騙されたぞ」

 車の上で叫んでるだけかと思ったら、意外と周囲の状況も把握していたらしい。黒服は怪訝な顔で、扉をかるく叩いた。

 「…ここに首謀者がいるのか?」

 「いや、知らんけど。けど鍵がかかってるんだよ、怪しいだろ」

 「少しどいていろ。力づくで開ける」

 「わかった」


 突如!


 戸が勢いよく開き、丁度足を上げていた黒ボスにぶち当たった!


 突然の衝撃にボスはバランスを崩して柵に倒れ掛かる。駆け寄る俺の目の前に飛び込んできたのは白衣のオッサンだった。

 「ははは、そう簡単に捕まるか!」


 彼の上着のポケットには何やらずっしり詰め込まれていて、動くたびにカチャカチャ音を立てている。オッサンは尻餅をついている黒服を嘲笑うと、階段の降口を塞いでいる俺の腕をつかんだ。

 「丁度いいところに居ましたね、泥人間。君だけでも来てもらいますよ」


 返事も聞かずにそのまま階段を降りはじめる。

おいおい、逃げ切れると思ってんのか?!と言いかけて、俺は口をつぐんだ。白衣のオッサンの目が半端なく殺気立っていた!黒服も、相手が階段の上という不安定な状況のせいか、手を出しかねているようだ。


 くそ、どうする。

突き飛ばしてもいいが、俺の腕を抱えている以上、コイツと一緒に転落する羽目になる。何か気をそらせられるもの…もしくは、腕を離させるようななにか…。


 さっき拾った小瓶!


 中身は何だかわからない。けれど瓶が円柱型の不透明でシャレた感じで、あの乱雑な休憩室の中でちょっと浮いていた。それでつい持ってきちゃったんだけど…ええい、この際何でもいい!自由な片手で瓶を取り、口でフタを取ってオッサンの顔目がけ振り投げた。


 こんなのでもくらっとけ!


 ぶわっと密度の濃い細かな粒子が空中を覆う。


 「うわっ」

 「ぅげっ」

 

 イタイイタィテテテテ!!


 コショウか!


 白集団の中に家庭的な奴でもいたのか?なんでわざわざ無関係な瓶に詰め替えるんだよ!!ほんのちょっと目に入っただけで、ものすごい痛さだ。涙で前が見えない。


 ズルリ…と白衣が足を滑らせた。


 急に下方向に力が加えられてこちらの重心もずれる。何か支えを探して伸ばした手を、黒服が掴んだ。

 「うわあっ!!」

 2~3段滑り落ちて、黒服の腕を支えになんとか止まる。一方、白衣のオッサンは喚きながら転がり落ち、したたかに体を打ち付けたようだ。逃げる気配も見せず、手で顔を覆って咳き込み呻いている。


 「思いつきで行動のは止めた方がいいな。特に階段の上では」

 やや唖然と段に腰かけている俺の横を通って、黒ボスは白衣のオッサンを確保しに降りて行った。



 …目がまだ痛い…


 絶え間なく流れる涙をぬぐいつつ、ふと2段下に小さく折りたたまれた封書が落ちているのに気が付いた。白服オヤジのポケットから落ちたのだろうか?

開いてみると表に朱印が押してある。


 『成分分析結果 在中』

 成分分析…ひょっとして、これは有益な切り札が手に入ったんじゃ。


 ―と、手の中から分析表が引き抜かれた。顔をあげれば、いつの間にか戻ってきた黒ボスが渋い顔をして、俺から奪った封書をポケットにしまっている。

 「あー、何すんだよ」

 「お前の片割れが動物を見つけたようだぞ」


 黒ボスが顎で指示した方を見ると、向こうの階段で左達が黒服に何かを説明している姿があった。その2階の部屋からケースを運び出す男達。小さいのはハムスターのだろう、中くらいのは…吠える声が聞こえる。犬か。

 いつの間にか大乱闘は終わっていて、しぶとく抵抗を続けていた数人の白服が大人しく連行されていった。あんなに騒々しかった現場が、いつの間にか静まり返っている。


 「時間がかかった割にはあっけない幕切れだな。ところで…」

 黒ボスは声の調子をがらりと変え、俺を威圧するように睨んだ。

 「お前、他には何も持ち出していないだろうな?」

 「ないよ?」

 「どうだか。信用できん。まあいい、今日はもうお開きだ。解散。

明日、お前の家でこの先どうするかの話合いをすることになっている。それには出てもらわないと困るからな」


 ああ、そうだ。これで終わりじゃないよなそりゃ…まだ最大の難問がある訳だ。それはともかく、進行方向は同じなのだから車に乗せてってくれてもいいのに。

 「…解散とか言わないで、送ってくれよ。ついでだろ?」

 「白服連中、以外と人数がいてね。うちの手持ちの車かき集めてもギリギリ満員なんだ。人質も送らないといけないし…お前たちは友人達に送ってもらえ」


 黒服は俺の要望を冷たくあしらうと、さっさと車へ歩いて行ってしまった。


 やっぱだめか。…友人ったって、柿崎のバイクにゃ3人も乗れないだろう。仕方ない、俺は歩いて帰るしかないかな。


 「うえぇ?!マジで?!」


 素っ頓狂な大声が聞こえて、俺はそちらを見やった。

柿崎のバイクの隣にもう一つ、大きなバイクが増えている。柿崎はすっかり興奮して、その周りをぐるぐる回っていた。

 「バリオスじゃん?!すっげ、なにコレお前の?こんな古いのよくあったな。店ドコ?買ったの?キャッシュ?ローン?」

 バイクの主、丹野は呆れたように肩をすくめる。

 「オマエ相変わらず口が回るな。親戚のオッサンから譲ってもらったんだよ。けど色がな…次買う時は黒にする」

 「なんで、青いーじゃん。なぁ、太一?」

 「まあな。けど柿崎の青は…なんというか、変形しそうな色合だよな」

 左が最大限言葉を選んで返事をしている。

 (あー、左と同じ、俺もそう思ってた!)

 なんとなく、いつもと変わらないバカ話に安心して、俺は話の輪の中へ入っていく。

 「丹野、なんだよ、今頃来たのか。結局間に合わなかったじゃねーか」

 「言葉に気を付けれや、ボクネンジン」

 厭味ったらしく口をひん曲げて、奴はヘルメットを投げてよこした。

 「俺がいなきゃ、オマエ歩きなんだが?30分以上かかるだろうなぁ?」


 あー、むかつくわコイツ。

 …でも、まあいいか。一応は平和になったんだから。


 「なー、コン部で打ち上げやろうぜー。途中でお菓子買ってよ」

 騒ぎ足りないのか、柿崎は夏休み中の小学生のように目をキラキラさせて、俺たちに言った。

 




柿崎のバイクの青は私はいい色合いだと思います(蛇足)

ジェスチャーは元々別用途で考えてましたが変更したため、

ちょっととってつけたような風になっちゃいました。

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