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すわんぷまん  作者: SAME
29/33

俺がふたりいた話(3)

 町はずれ。


 中心地から南東に広がる市営住宅群を越えると、スクラップ置き場や倉庫が点在する荒地地帯がある。用事がある人以外は車で素通りしてしまうような寂しい場所だ。この近辺で唯一の大きな建物はゴミ処理場だけだ。


 俺は運転手と怪力な奴に両脇を抱えられて(このポーズは今日2回目!)車から降りた。

 工事現場で使われているような2階建てのプレハブ3棟が空き地を囲むようにあって、男たちはそのうちの一つに俺を連れて行く。

思いのほか近くに処理場の煙突が見えて、やっぱり木の上から見た白い車はこいつらだったんだなと再認識する。俺の張り込み能力すげえ!…ま、だからって何がどうなる訳でもないけど。国道から車で3分ほどの直線道路沿い、か。周囲にはボロイ倉庫以外ないから見晴らしもいいな。


 ていうか、左や柿崎たちは…?


 「うおっと…」

 さっきまで右腕をつかんでいた運転手がいつの間にか目の前にいて、俺はその背中にぶつかってしまった。バカ力の小男が甲高い声で騒ぐ。


 「キョロキョロするな。ちゃんと前向いて歩け」


 うっせーな!立ち止まるならそう言えよ!


 プレハブの2階に連れて行くようだ。さすがに階段は狭いので、運転してた男が先頭に立ち、その後に俺、馬鹿力の男、と1列になってあがっていく…。先頭の運転手が戸をあけ、バカ力男が油断なく俺の左腕を掴んで中へ押し込んだ。

 一番戸の近くにいた白衣のオッサンが、やけににこやかな態度で出迎える。


 「やあ、これはこれは、いらっしゃい」


 おいおい、小学低学年ぐらいの子供がいるぞ。ロリコンどもめ。


 中には…女の子が1組、叔父さんぐらいの兄さん1組…それに、あ、棚橋さんの奥さんだ。合わせて5人。特に拘束されている様子はなく、部屋の真ん中あたりにまとまって座っていた。子供はすすり泣いているし、奥さんも暗い顔、男性はむっつりしたまま白衣のオッサンを睨んでいる。察するに、この白衣がボス…のようだ。


 オッサンは俺の後に誰も続かないのを見ると、額にしわを寄せた。

 「…おや、この少年も一人だけですか。君のお兄さんには一度お会いした事がありますよ」 

 「兄じゃねー、叔父だ」

俺の返事はまったく興味がないようで、心底残念そうにオッサンは肩をすくめる。


 「はぁ、残念だなぁ。2人1組で来てほしかった…。小さい動物のクローンはね、元の個体とクローンの外見(模様など)や性格は変わることが多いんですな。遺伝子情報は同じなのに。しかしながら貴方がたは性格や行動思考も似通っているようだから。

 ええ、だから実験の前に、本当に一個体として違いがないのかどうか確認できるように、少しでも多く2人揃った状態で欲しかったのですが…」


 何か今、さらりと怖い単語言ったような…。


 「モルモットってことか?」「モルモットってことか?」

 お兄さんが抑揚のない低い声を投げると、心底愉快そうにオッサンは笑った。


 「いやいや、ははは。今更そんな見当ついてたでしょ。ま、ここで欲張っても仕方がない。この街から撤収しましょうか…私は他所で張っている者に戻るよう連絡するから、この人たちを頼んだよ」


 撤収って、俺たち更に移動させられるのか?冗談じゃねえ!


 オッサンが出口へと移動し、運転手がちょっと横にずれて道をあけた。その瞬間、俺の至近距離にいる奴はバカ力だけになる。体を縮めて…。


 くらえ、頭突き!!


 「ぐわっ」


 硬!!いてえぇぇぇ……!俺のダメージの方がひどいんじゃ…


 だが、怪力チビには効いた様だ。

 もろに顎に入ったらしい、フラフラと後ろにのけぞってそのまま壁へもたれかかる。


 よっしゃ、一匹退治!ぽかんと目の前の光景を見ていた運転手が我に返る。


 「お前っ!!」


 男の人たちも動いた。俺に向かってきた運転手を拘束すると、窓から外へ放り投げたのだ。派手な音とともにガラスと男が消えた……生きてるでしょ…よね?2階だし。

 白衣のオッサンは階段を駆け下りて逃げたようだ。俺はすぐさまドアを開けて、部屋の隅で唖然としている子供と棚橋さんへ声をかけた。


 「ほら、今のうちに!」

 「でもハムちゃんがー」「でもハムちゃんがー」

 「いいから!多分、叔父さん達が迎えに来るはず…だぁっ?!」


 俺は襟首をつかまれて爪先立ちになった。女性群から悲鳴が上がる。バカ力が復活したらしい。どんだけ怪力だよ、こいつ!怒りのためか、まだダメージが残っているのか、男の声は細かく震えていた。

 「調子に、乗るな、ガキが」


 「それはお前だ!」「それはお前だ!」


 お兄さんが再び二人がかりで体当たりし、馬鹿力は手を放してよろめいた。それを押しのけ、棚橋さんと女の子たち、お兄さんたちと俺は外へ飛び出す。狭い階段を駆け下りながら、俺は前にいるおにいさんに声をかけた。


 「俺の片割れと友人がくるはずなんです。あと叔父も。国道まで行けばかち合えるかも。棚橋さんたちお願いできますか?」

 「君はどうする?」「君はどうする?」

 「ハムちゃんを探します」


 騒ぎを聞きつけて、横のプレハブから白衣の男がバラバラ出てくる。

先に地面についた女の子たちが、こちらを向いて悲鳴を上げた。あのバカ力が追い付いてきた!ほとんど飛び降りる様に階段を超え、俺はお兄さん方と反対の方…真ん中のプレハブ小屋へ突進した。

 ちらと後ろを見ると、バカ力は俺の方を追うことにしたらしい。頭突きの恨みか?なんか喚いてる、怖えぇー。


 やはり張り込みに人員を割いていたのだろう、新しく出てきた男たちの数は多くない。俺はともかく、これならお兄さんたちも何とか大丈夫か?

 こちらを追う2~3人の男をかわしてプレハブの中へ駈け込む。内部は簡単な台所と畳のスペースがあって空き缶が転がっていた…休息所、かな?どう見ても、『何かの切り札』どころかハムちゃんすらいない。


 次だ次!


 空き缶と何かの小瓶を拾ってすぐ外へ出た。

 丁度、追いついてきたバカ力とかち合い、拾ったばかりの缶を奴の視界をふさぐように思い切り投げつける。それも意に介さず手を突き出してくるので、男から距離を取り、この棟の2階を諦めてもう一つのプレハブへと走った。



 遠くからクラクションの音が聞こえる。



 叔父さん達か?!


 やべぇ、黒集団が到着しないうちに何か成果を探さないと…このプレハブに何かないか?何か。


 俺は勢いよく戸を開けた。




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