俺がふたりいた話(2)
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「退屈だなー」
後部座席で寝っころがっていた小柄な男が、伸びをして起き上った。
「現れますかねぇ」
のんきな声の小柄と反対に、運転席で帽子を深めに被った男はイライラした様子で、灰皿に煙草を押し付けた。灰受けはすでに3分の2に達している。
「来るわけないだろ。これでノコノコ現れるなんざ、よっぽどのバカだぜ。館長は行きそうな所全て見張れとか言ってるけど、相手は高校生だぞ?状況ぐらいわかってるだろうし。時間の無駄だ」
「あーあ、ゲームでも持ってくるんだった。もう帰っていいんじゃないっすかね」
尚もだるそうに無駄口をたたく小柄を怒鳴ろうとして、顔をあげた帽子は目を見張った。
監視対象の一般家庭の車庫が空き、そこから一台、原付バイクが走り出てきたのだ。乗っていたのは、あの高校生の友人ではないか?
「…見ろ、バイクが出てきた…つけるか」
ギアチェンジする帽子を抑え、小柄がバイクと反対方向を指差した。
「あっちの角のとこ!やたらキョロキョロしてる…あれそうじゃないっすか?!」
本当だ。対象者に違いない。よほど行く当てがなかったと見えて、遠目から見ても可愛そうなくらいビクビクしながら歩いている。
「お。よし、行くか。頼むから上手くやれよ」
「はいはい、そちらも事故らないで下さいっすよ」
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敵はバンからくる。敵はバンからくる。
目の端で白いバンを捉えながら、一歩一歩慎重に柿崎家の玄関へと進んでいく。奴らがどこにいてどうするのか。ある程度分かっていてもドキドキもんだ…。
先ほど、柿崎のバイクが出ていくのが見えたから、左は予定どうりに動いてくれているんだろう。後は俺が上手い事、多分見張っている『白服』に見つかって連れ去られりゃいいだけなんだけど。
…白いバンはエンジンをかけるでもなく止まったままだ。せっかく獲物が近くを歩いてやっているというのに。人乗ってんのかアレ。それにもう少し脇に寄せろよなー。ホラ、軽自動車が通りにくそうにふくらんでるじゃねーかよ…って…
「ぎょわっ!!」
ふくらんで反対車線に飛び出したまま、軽がこちらへと突っ込んできた!
急いで逃げようとするものの、進行方向を塞ぐように横づけに停まり、後部ドアから手が出て一気に中へ引っ張り込まれる。こいつ、一人で、しかもチビのくせに、ものすごい力だ。後部座席下へ倒れこむのと同時に、急発進で車は動いた。
手際が良すぎる…まさか無関係な犯罪に巻き込まれた?!
「何すんだ、降ろせ!このヤロ、うちは貧乏だから金ねーぞ!」
俺は喚いて起き上がろうともがいた。マグロの水揚げじゃあるまいに、なぜ横になったまま運ばれなけりゃならんのだ。
「いいから大人しくしやがれ」
そう言いながら頭を押さえつける男のその服は…白ジャケット!白軍団!
白バン無関係?っつーか軽自動車も持ってんの?!どういう事だよ、黒集団よりよっぽど『らしい』じゃねーか。
柿崎は?叔父さん達は?ちゃんと付いてきているだろうか?
せめて体を起こして外を見たいともがいても、後部座席のバカ力男に邪魔される。俺は寝っころがったまま奴らのアジトへ連行されていったのだった。




