町内会議
○重岡家一階
床は泥だらけ、壁に穴が開き茶箪笥が斜めに倒れ掛かっているなど、台風の跡のようなひどい状態。居間と和室を仕切る襖を外し広間を作成してあり、町内連絡網で案内を受けた住民たちが次々と集まっている。
今まで町内会に参加したことがないアパートの住人達へ町内会長が挨拶をしている。人の群れの中には、同じ顔の人間もちらほら。雄一が人の波を仕切り席へ案内している。
前の方にはカウンターテーブルを講演台の代わりにして、黒服リーダーが緊張した面持ちで住民たちを見ている。その後ろには黒服たちがずらりと立っている。
「(人の流れがおさまったのを見計らって)ええ、皆様、ここまで騒動が大きくなった以上、説明しなければならんでしょうな…(住民側より怒号が飛ぶ)…あ、静粛に、静粛に願います。しますから、ちゃんと」
(ざわめきが収まってくる)
「今回の事態のきっかけは、泥棒でした。
ええと世間には知られておりませんが、とある会社である技術が開発されました。ある石の粉末を物にかけると、『その時点』の物質構造を複製してしまうという、まぁそんな感じのですな。今はやりの『3Dプリンタ』の様なもんです。それの直接版です。
(少し声を落とす)…しかしこれには欠点がありまして、その複製物は、石の成分を随時取り込まないと形を維持できないのです。成分の供給が切れた時点で、元の粉末に戻ってしまいます。
よって、この技術は外に出しても使い物にならず、一部の政府関係者とその会社の中だけの秘密となったのですよ」
住民:いい加減な事を言うな!(ヤジ)
住民:外で使えないんじゃ、んなもん盗んだって意味ないだろ!(ヤジ)
「…ごもっともです。
(気を取り直して頷く)しかしまぁ、その会社の中では日々研究が続いていたわけでして…なんとか粉の供給をなくしても崩れないようにできないかとか、生き物に応用はできないかとか(ここで住民にざわめきがはしる)
…あ、今回の件とは無関係です、落ち着いて下さい、落ち着いて!」
(適当な事並べやがってとヤジ。座布団が舞い、空き缶が飛んでくる。殴りかかろうとする住民とそれを抑えようとする黒服とでもみ合いに。黒服リーダーはテーブルの下に避難し頭を抱える)
「(小声で)だから嫌だったんだ。こんなもの、説明してわかる訳がないだろう…(再度、住民に向き直る)よろしいでしょうか?よろしいでしょうか?!続けますよ?」
(立ち上がっていた住人は、促されておとなしく腰を下ろす。黒服リーダー、尚も安全を確認してから咳払いを一つ)
「で、研究の結果、当初よりも約4分の1の粉成分で持続させることのできる方法を開発した訳ですが…そのサンプルをスパイに盗まれたのです。
私の部下たちが後を追い、この近辺まで追い詰めました。スパイの取引先と思われる、あなた方の言う『白衣の男達』ですか、彼らも現場に駆けつけそれはもう緊迫した状況だったそうですよ」
(前置きが長すぎるぞ!と怒鳴り声が入る。講談聞いているんじゃないんだ、こっちは!)
「(少し投げやり気味に)わかりました。要点だけ申し上げます。
(やや早口)部下が捕まえようとしたその時、泥棒の体が突然発光し雲散霧消した、と。白衣の男たちはその場をすぐ引き揚げた。部下がその地面を調べたところ、瓜二つの植物や石があったと。形が崩れる様子もない。
(ここで一息ついて)その報告を聞いて私も現場に駆け付けたのですが、距離がありましてな、初動が遅すぎた。その間、白衣の方も独自に調査をして、植物のみならずこの近辺に住む皆さんにも影響が出たことを知ったのでしょう。後は皆さんがご存じのとおり、です」
(雄一が手を挙げる)
雄一:ちょっと待ってください。そのスパイはどうしたんですか?
お話では、粉の成分がどうとか言ってましたが、この町内にそんな物質が漂っているという事ですか?原因は何なんです?
「この際はっきり申し上げます。(一呼吸おいて)我々にもわかりません」
(住民に動揺が走る。怒号は飛ばないものの、狼狽しすすり泣く者も出る)
「(室内を見回しながら落ち着いた声で)もちろん、あの白衣の者達も知らんでしょう。誰もわからない。
この街のどこにも、空気中にあの石の成分が含まれている場所なんてありませんから、複製した物が形を保っていること自体おかしい。まして、一部の方の様に2人になっても尚通常の空気の中で存在し続けることができている事態というのもまた…(半分考えながら話しているので、次第に語尾が小さくなる)
(我に返って)しいて言えば、突然変異でも起こしたとしか言えません。突発的に完全なクローンの様な物ができたとしか言えんのですよ」
(室内は不気味に静まり返る。家電の駆動音のみが響き、誰も身動き一つしない)
「(わざと咳払い)原因ではなく、大事なのは今、結果の部分です。とにかく2人になった方々がいる。
分かっている範囲ですと、白衣に連れ去られた・もしくはついていった方が5名と4匹。所在不明者が2名と2匹(ここで雄一は渋い顔になる)、どちらもここに居らっしゃる方が4名。
この重岡家の惨状を見てもわかります通り(男が指す天井には穴が開き、2階部天井の板が見える)白衣は尋常じゃない。こんな奴らと一緒にいて無傷で済むかどうかは怪しいでしょう。まず、この5名と4匹を助けないといけません。
先に部下を派遣しました、すぐに奴らのアジトが分かるでしょう。しかし人数は大いにこしたことはないのでね、皆さんには、我々と一緒に乗り込んでくれる方と、ここで無事な4名を守って下さる方、2チームに分けてご協力を頂きたい(『協力』に力を込める)」
住民:しかし、複製という事はどちらかが本物なんだろう。そんな大がかりな事をしなくても偽物を消す方法はないのか?そうすれば白衣の連中も解放するんじゃないか?
住民:そうそう。それになんで警察帰しちゃったのよ。お願いすればいいじゃない。なんで被害者がそんなことしなきゃなんないの。
「(言葉を選びながら)えー、今日の夕方に…各戸に手紙が入っていたそうですね。差出人は誰か知りませんが(といいつつ雄一へ疑いの眼差し、雄一は知らん顔)…おおよそ内容通りです。どちらが偽物でもありませんし、消すこともできません。
…そして、警察など使うことになればもっと事が大きくなる。皆さんもマスコミのしつこさはご存じでしょう?(住民一人一人に言い聞かせるように)今、影響の出ていない方々だって風評被害はのがれられませんし、我々も、この研究を世間にさらしたくはない。双方デメリットを超えるメリットがないんです。
(深刻な調子を変えて)皆さん、この先の事は不安でしょう。我々にも案はありますが、ひとまず今の状況を解決してからに致しましょう(と、〆に入ろうとする)」
(が)
住民:いーや、納得いくか!
住民:そんな訳のわからない説明があるもんですか!!
住民:子どもも被害に合っているんだぞ!責任を持て責任を!
住民:どっちも本物ってなんだよ!
「わー、皆さん、落ち着いて、落ち着いて…」
(口々に叫びながら黒服リーダーの方へ詰め寄ってくる住民たち。守ろうとする黒服たちと再びもみ合いに。1人2人投げ飛ばされ、その振動でついに茶箪笥が倒れる。飛び散る破片、壁には穴、収まる気配もない怒号・悲鳴。ガラスの割れる音)
太一の母:ここまでめちゃくちゃになると、かえって気分いいわね…(諦め半分)
結構、被害者が多かったという話。
こういう会見って本当のこと全部は言わないよね。
研究の話:思うところはおありでしょうが、話の流れと全然関わりないのでさらっと流してください。技術進歩したんだなーとだけ。




