1回の張り込みから(4)
黒服たちが頼んだピザは5種類もあって、大の男7人(当然、俺入れて)で分け合ってもボリュームたっぷり、お腹も大満足だった。いいね、こんな一度にいろんな種類の食えるなんて、めったにないぜ。
コーラを飲みつつ腹休めをしていると、黒服のスマホが再び音を立てる。男はうるさそうに画面を見た後、機械を耳に当てた。
「はい。さっきの事件の件は……は?すぐに家に来い?…今ちょっと離れてるんですよ。そうですね、1時間は…え?…わかりました、40分で。ええ、ええ、急ぎますよ」
通話を切った後、黒服がしかめっ面をこっちに向けてきた。
「お母様が、大至急、家に来いだとさ」
あらら、またか。
こう何度もお気楽スナック感覚で電話を掛けられちゃあ、たまったもんじゃないだろう。母さんもあれで図々しいとこあるしなぁ、きっと母さんの頭の中じゃ黒服は便利屋さんランクになってるよ。
「すっかりお友達じゃねーか…それじゃ、人探しはどうすんだよ」
「まず家に行ってからだな。ヒステリックだったから何かあったんだろう」
男は立ち上がって、スーツの皺を伸ばした。他の黒服たちも出発の準備を始める。
…家か。まっすぐ白集団の基地に行ってくれるなーんて、やっぱ甘かったか。撤収だな。
一緒に家に戻っても『左』と鉢合わせするだけだ。俺はできるだけ不自然にならないように、黒服の一人に声をかけた。
「あのさ俺学校に忘れ物あるんだわ。家行く前にさ裏門で降ろしてくんない?後は自分で帰るから」
黒服達の車を見送った後、コン部へと向かった。さすがに5時も過ぎているので校舎内は静かで人影も見えないが、体育館や音楽室からの部活動の物音が響いてくる。暗いろうかはどこか異世界に通じる道を歩いているかのようだ。
部室の中は出た時のまま…丹野のギターケースもそのままだ。とりあえずテーブルの上の本を片づけておいて、PCの電源を入れる。何か進展はあったかな?
「お、きてるきてる」
このメールは…やっぱり左からか。闇討ち事件には驚いているだろうなぁ。
『title:叔父さんからの伝言
仲間は、棚橋さんとこの婆ちゃんでなく奥さんだった。
今日、白い奴らが来て、そのうちの一人を連れてったそうだ。
宇宙人だってさ。
それより、金全部下ろしてんじゃねーよ。
ちゃんと性能いいやつ買ったんだろうな?後で見せろ』
へぇ、婆ちゃんじゃなかったのか。ということは、奥さんの片方を婆ちゃんが面倒見てたんだろうな。
ふぅん。次のメールは…。
『title:
田中の手引きで、白い奴らが乗り込んで来た!
完全に俺を狙って来てやがる。
なんとか逃げて、柿崎に靴借りた。
今の時点で柿崎の家は安全だけど、すぐに手がまわるだろう。
だから別な場所を探して隠れる。お前も気を付けろ。
ケータイは俺が持ってる。連絡はこっちのメールへ』
「はあ?!」
思わず声を出して、画面に食いついた。
送信時間は…あ、俺ピザ喰ってた頃じゃん。前のメールから30分も経ってないぞ?ていうか田中の手引きって、なんだそれ。
俺は、ふと、『黒服達はネットで情報を得たんじゃないか』と叔父さんが言っていたのを思い出した。
ここ最近、やたらに近くにいたアイツ…本当の俺がどうとか訳の分からんことを言っていた…そうだ、最初にネットで画像が出回っているという話をしてきたのも奴だ。…アレ、まさか奴が撮ったんじゃあるまいな。そうやって俺らの反応を観察していたんじゃないだろうか?
…考えすぎか?
ま、まあいい、次のメール…と。タイトルがもうヤバいんだけど。
『title:絶対家には戻るな
白い集団に襲撃された。
家はガタガタ、姉さんは足をひねって俺も2~3か所殴られた。
左はなんとか逃がした。家にきていた棚橋さんも無事。
被害が被害なだけに警察も出動して大騒ぎだ。
事態が収まるまでこっちに戻るな』
おい。大変なことになってるじゃん。家がガタガタって。白の方が狂暴だったのか…。ヒス入った母さんの電話って、こういうことだったのか。
のんきにピザなど喰ってる場合じゃなかった。何、この展開は。張り込みの苦労がパーじゃねーか!…いや、たしかにロクな成果は得られませんでしたが。
ま、まぁ上手く黒集団から逃げられただけでも良し、だよな。左も無事。
ポンと電子音が鳴って、新しいメールが表示された。叔父さんからだ。
『title:要連絡
なんで黒連中と一緒にいたんだお前は。
もうバレバレなんで、お前だけでもこっちに合流しろ。
黒いのが迎えに行くと言ってる。
このメール見たら返事をくれ。後、電話に出ろ』
そうだったー!母さん、黒服連中を家に呼んでたんだったー!!
そもそも、なんでだよ!今朝闇討ちしてきた人間だぞ、なんで信用してんだよ!…いやいや、コレ本当に叔父さんか?白いのか黒いのにケータイ奪われたとかじゃないだろうな。
待て、落ち着け…。
叔父さんは俺がケータイを持っていると思っているし、左は電話に出ない。両方と連絡が取れるのは俺だけってことになる。叔父さんとも一度話をしたいんだけど、コレが本人かどうかわからん上に、情報が白か黒に流れるのは確実だろう。
となると、やっぱ左と合流するのが先だ。けど、すぐに連絡つくかな…。
『title:
今どこだ?近くならConBに来れるか。
動けないようなら無理するな。
叔父さんからスゲー数の電話が来てると思うんだが今は無視していい。
とにかく連絡くれ』
送信。
左以外の人間がケータイを持っている事態も考えて、あえてギターコードで入力した。俺がおぼえてるくらいだ、アイツも覚えてるだろう。しかし、大丈夫か…返事は来るだろうか…。
モニターとにらめっこをして約10分、受信の音が鳴る。
『title:
OK、そっちに行く。5~6分で行けると思う』
よし。あとは、叔父(仮)の本人確認、っと。
『title:叔父さんなら答えられるだろう
俺の親父が頭までつかった湖は?』
左の返信と違って、やけに早くメッセージが返ってきた。
『title:
湖には行ってない。ついでに原因のボール蹴ったのはお前』
……本物か。
母さんも叔父さんも黒組織を利用することにしたみたいだな。(母さんの場合は突っ走った結果、のような気がするけど)でも本当にそれでいいのか?白も黒も結局同じことやってるじゃねーか。大人しく帰るか家ボロボロにするかの違いだけだろ。
『title:
はっきり言って信用がない。
大体、俺が一緒に居たのは捕まったからであって、
無事逃れることができたのは、
俺が2人いることが知られていなかったからだ。今の状況は違う。
バレてるんだろ?大体、朝っぱらに乗込んで来た奴らだぜ。
そんな奴らの迎えの車に乗って、途中で気でも変わられたら?
それこそヤバイだろ。それを勧める叔父さんの考えも信用できない。
だから、俺の保護はどうでもいい。
そっちはそっちで事件解決してくれ。俺は俺自身で動く。
後、もう高校付近にはいないからな。張ってたって無駄だぞ』
送信ボタンを押して、一息ついた。
あー、叔父さん怒りまくるだろうなぁ。長々と書いたが、早い話「テメエ信用ねーんだよタコ」と言ってるのと同じだし。実際そうなんだけどな。
これで本当によかったんだろうか?…いやいや、この件が片付いたところで、その後どんな目にあわされるかわからんし。黒だって当事者の加害者なんだから。はぁ、すっかり疑り深くなったもんだ。
隣の部屋が開く音がした。左がやってきたようだ。
とりあえず、これからの事を相談しなくては…最低限自分の身は自分で守らないと。
「おう」
「よーす……うわっ丹野!!」
お前か!
何の気なしに振り向いて、ずっこけそうになった。俺の反応に気分を害したのか、ヤツの顔があからさまに不機嫌になる。
「んだよ、俺の部室だろ。文句あんのかコラ」
「ないけど…今まで残ってたのか?」
「まーな。ギター置きっぱだし、それに」
丹野が続きを話そうとする前に、押入れの戸が開き左が入ってきた。
「よーっす、……うわっ丹野!!」
「…はー、ムカつくわ。マジお前らムカつく。しかもお前が内緒で隠れるっつーから、部室に近寄んないようにしてやったのによ、結局2人揃ってるじゃねーか。いい加減にしろこのスカタンコンビが」
「色々事情が変わったんだよ」「色々事情が変わったんだよ」
「家でやれや」
「襲撃された」と左が眉間にしわを寄せて言い放った。「あいつら怖えぇって。有無を言わさず乗り込んで来たぞ。逃げるので精いっぱいだった」
「ま、そういう訳だ。これから俺会議を行う。悪いけど荷物持ったら帰ってくれ」
部屋提供の恩人には冷たい言い草だったかもしれない。
だがしかし、丹野はその場から動かず、いつもの人を小ばかにした笑いを浮かべた。
「なんでよ。面白そうじゃん、俺も混ぜろ」
「あぁ?!」「あぁ?!」
「お前らさぁ、見た目2人だろうが残念なオツムの中身は1人分だろ。相談にも会議にもなりゃしねーよ。
それにこっちは俺の名前で合宿の申請もしてあんだ。夜中に警備員が来た時、俺居なかったら面倒くせーことになるぞ」
「合宿?!」「合宿?!」
「音楽部の、だけどな。最初にいた重岡が食料や寝袋持ち込んだりすっから、急いで手を打ったんだよ。世の中勢いだけで行動できねーの、それなりの手続きが必要なんだ。わかってんのかボンクラ」
「マジだ、寝袋あるし」「…申し訳ございませんでした」
今回ばかりは素直に謝るしかあるまい。
いい加減な奴かと思っていたけど意外と用心深い…。まぁ、そうでもないと、一匹狼気取っていられないか。ていうか、音楽部も在籍してたんかコイツ。丹野は俺の謝罪をフンッと流すと、視線だけで室内を見回した。
「柿崎は?こういうノリの時にゃ喜んで出てくる奴だろアイツ。呼んでねーの?」
「どうかな…柿崎の所はもう見張りいると思うんだよな」
田中がいたしな、俺が隠れそうな場所はもう抑えているだろう、と左は浮かない顔をした。こっちの情報握っている奴がいるのは不便だ。
「そうだ、田中の件はいったいどういう事なんだよ。手引きってなんだ、連れてきたのか?」
左のメールだと、白い奴の仲間に加わったとしか思えないんだが。
「そうとしか思えねーよ。気を許してドア全開にしてたらヤバかったわ。お前アイツになんかやったのか?」
「はぁ?こっちがやられてた方だよ!」
「はぁ?いつだよ!」
知らず知らず大声になったところで、丹野が俺たちの間に割って入る。
「あーもー、そう興奮すんなや鳥頭、一人づつゆっくり話せ」
かくして、俺と左との情報交換&すり合わせが始まったのである




