1回の張り込みから(3)
■これまでのあらすじ
突然2人になった太一。周囲の雑音はあれどいつもと変わらない生活を送っていた。ある日、白集団対策で別行動中、黒い集団の闇討ちがキッカケで『太一(右)』は自分から行動を起こすことを決意する。
他にいると思われる仲間に向けビラを配り、張り込みで不審な車を発見するも、あっさり捕まる(右)。尋問中、一本の電話により同じく被害に合った誰かが白に連れ去られたと知る。(右)は白黒を対決させ、その隙に『分裂事件』の手掛かりをつかもうともくろむが…。
「ちょぉっと!!姉さん、何してんだよ!!」
一旦、部屋に通学鞄を置きに行って、再び居間に戻ってくると、叔父さんが声を張り上げて怒鳴っていた。母さんはきょとんとした顔で受話器を下ろす。
「え?何が?」
「何がじゃなくて、どこにかけた今。これ以上、事態を混乱させるなよ」
「雄一ねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。時間かけた分、安全になる保証なんてないんだし。個人防衛にも限界あるし、使えるものは使わなきゃ。ほら、敵の敵は味方っていうじゃん」
「そう都合よくいくか」
「大体あんた、何でそうやる気ないの」
…なんで言い争ってるんだ、この人らは。
『敵の敵は』とか言っているとこをみると、黒集団とかに電話でもしたのかな。…なーんて。母さんがそんな怪しい団体の番号知ってるはずないか。警察とかにかけたのかな。
ふとソファーを見ると、どう対応していいのやら困っている棚橋さんと目があった。おいおい、お客ほったらかしかよ。母さんは一瞬こちらに振り返って、明るい調子で言う。
「あ、奥さん、大丈夫大丈夫!家もね、今朝、別の変な人達乗り込んできたけど、特に危害を加えるようなことなかったし…なんか調査してるとか言ってたの。この件に関しての専門の様だから任せましょ。」
「敵の敵かすらわかんないのに」
「だって私たちじゃ探せないじゃない」
「信用できないだろうがよ」
また再燃した。姉弟ケンカは終わりそうにない。いい年してホントにもう。
「すみませんホントに、うちの大人が。…あ、お茶新しいのどうです?」
「あら、ごめんなさいね。私もそろそろお暇しますから」
チャイムが鳴った。
当然、口論中の2人は動く気配がない。仕方がないので、棚橋さんにちょっと会釈として玄関へ向かう。こんな時に客か…今日は来客が多いな。
戸を半分ぐらい開けたところで、ちょっと意外な顔が現れた。優等生君だ。
こいつなんで俺の家知って、ってああ、この前一緒に帰ってきたんだっけ。まー「俺」ははるちゃんとだったけどな。
「なんだよ、田な…」
何も言わないヤツの後ろから数人の白服がワラワラ出てきた。
― 白いの は、イッた集団―
俺はとっさに家に入って玄関のドアを閉める、が、相手の力の方が強く、すぐに諦めて居間へ飛び込んだ。まだそこで話をしていた3人がぎょっとした顔で振向いたけれど、説明している暇がない。一足飛びに自分部屋へ駈け込み、ベッドを引きずり戸を抑える。ついでに衣装ケースも上に放り上げて簡単なバリケードを作り上げる。
あ、あの野郎……田中の奴、裏切りやがった…!!!
無意識に目に付く限りの荷物をどんどん積み上げ、仕舞に動かせるものが何もなくなってようやく、周囲の状況へ意識が回るようになった。悲鳴や怒号と共に、ドアを体当たりする音が聞こえる。なんて物騒な。
どこか他人事だった右の「襲撃事件」や棚橋さんとこの「引き渡し事件」が一気に現実味を持って襲い掛かる…これは冗談抜きで人体実験コース?
いや、ヤバイ、ヤバイって…!!
右の時は、どうやったのか知らないが誤魔化すことができたんだろう。けど今回は『2人だと知っている』密告者田中がいる。マジあいつ何なの。俺何かやったか?
それはともかく、すぐにここから逃げなくては。
まず、財布と手帳(部屋にカバンを置いといてよかった)…ああ、くそっ、まだ着替えてねーよ!ベッドの上に乗ったままの引出からスポーツバックを引きずり出して、とにかく適当に服を放り込んだ。あと靴…どっかに上靴とかなかったか…?だめだ、探してるヒマがない!
ベッドが少しずれてきた。渾身の力で元の位置に押し返し、それから窓に駆け寄ろうとして足を止める。ベットがあった場所に見慣れた色の物体がある…?
…ケータイ!右は持って行っていなかったのか!
慌てて駆け寄ってケータイを拾った。電池は十分ある。よしっ!しかもサイレントかよ。どうりで着信音が聞こえないわけだ。とにかくズボンのポケットに押し込んで、窓枠を掴んで外へぶら下がった。一寸遅れて大きなものが崩れる音が響く…バリケードが突破されたらしい。あっぶねぇ。
俺は枠から手を放し無事に地上へと着地した。ぶら下がって地上への距離を稼いだから足はそれほど痛くもない。ま、たかが2階だし。それよりベランダにつっかけが…
そのベランダから白服が飛び出てきた!
一瞬動けなくなり、腕を掴まれる。スゲー強さだ!!
勢いよく腕を振り回したり蹴りを入れたりしても全く弱まる様子がない。それどころか、どこかへ引きずって行こうとしている。
「このやろ!…離せ!変態!!オイッ!離せってば!」
ぎゃー、終わったー!!
と…腕をつかんでいた男が横に吹っ飛んだ。
俺もその反動をくらって尻餅をつく。見上げると、叔父さんがフライパンを手に肩で息をしていた。男はびくとも動かない…後ろの方で、母さんと棚橋さんが麺棒やらほうきやらで応戦しているのが見えた。
あれ、でも棚橋さんも危ないんじゃ…
「ぼーっとするな!いいから任せて、行けっ!」
叔父さんの声を背に、俺は走り出した。




