1回の張り込みから(2)
「な、なー、おっさん。あんた達本当に、この間から近所ウロウロしてる不審者と関係ないの?」
「前も聞いてたな。知らん」
「ふーん。ならいいよ。今から降りるからちょっと待ってて」
俺は枝から離れると、ゆっくり幹を下っていった。ちょくちょく下を確認しては慎重に手足を動かす。
「うちの叔父さんはさー、気象関係だとか言ってるけど、俺違うと思うんだよね」
「ふうん?そりゃなんで」
「アイツらも最近現れたんだぜ。おっさん達と同じく事故を調べてるんじゃない?」
「そうか、だとすると」
おっさんは、やはり思い当たる節があるのか顎に手を当てて考え出した。
・・・・・なーんて、油断させといて・・・
今だ!
俺はおっさんの鼻先目がけて飛び降りた。
ま だ 高 か っ た !足の裏にじーんと衝撃が走る。それでも、のけぞっている黒オッサンの手から荷物を奪い取って、俺は走った。道路に出れば、こっちのもんだ!この空地の向かいの家に飛び込んで警察呼んでもらう!
だがしかし。
俺の進行方向をふさぐように黒いワンボックスカーが現れ、その中から飛び出してきた黒い集団に取り囲まれてしまった。
「まったく、お前という奴は……」
追いついてきたおっさんが、手加減なしに俺の頭をはたく。
「おとなしく車に乗ってもらおうか?」
ぎゃー、終わったー!!
車に詰め込まれて1時間ぐらい。窓の外を見ようにも、両脇を男たちが固めているので身動きとれず、現在の場所もつかめない。時間からいって、隣町あたり?しかも端の方だ。
やがて、車から降ろされ、何の変哲もないアパートの一室へと案内(というか連行)された。室内は一般ファミリー向けで、テーブルやちょっと洒落た椅子なんかもならんでいる。これで家電製品が並んでいれば、黒服の誰かの家と言われてもまったく違和感がないほどだ。
おっさんに促されてソファーに腰を掛けると、即座に両脇を部下たちが陣取った。そうとう警戒されてる…そりゃそうだろうけどさぁ…暑いんだけど。
「さて、ゆっくり話を聞こうじゃないか?お前、双眼鏡で何を見ていたんだ?」
「喉乾いたし腹減ったー」
「先ほどピザを手配した、もうしばらく待つんだな」
「じゃ、それまで黙秘する」
俺の返事におっさんは肩をすくめた。
しかし、どうしたもんか…。あまり黙っていても、いい結果はないだろう。それこそ、何かあると思われて家に突撃されたら…もう左の奴も帰っている頃だろ?
とはいえ、この黒集団にどこまで話せばいいのかも読めない。
双眼鏡で見張ることにしたのは、白黒どっちかのアジトを知りたいためで、知りたい理由は分裂の謎を独自に何とかしたいからだ。…そういやビラも配ってもらったっけな。それはバレてないと思うけども。
このまま黙って時間稼ぎするべき?いや、稼いでどうする。俺がここにいるなんてどうやって誰かに知らせるんだ…あー、ケータイ持ってこればよかった…。
電子音が響き、おっさんがポケットからスマホを取り出した。
「もしもし?」
相手が予想外だったのか、妙な顔をして何度か通話画面を確認した後、再び耳に当てた。
「え、いやいや聞いてますよ。…は?誘拐?…いや、それは我々じゃなく…ま、確かに国家防衛ですけど、普通は警察に……え?」
おっさんは真剣な表情になると、通話口(?)を抑えて周りの部下へ声をかけた。
「事故の被害に合ったと思われる女性が誘拐されたそうだ」
「どこからの情報ですか?」
「こいつの母親。ほら、包丁の…」
「ああ…」
俺の左隣の奴が、かわいそうなものを見る目を向けてきた。
なんだよ、ああって。それより誘拐ってまさか…さっき見た白い車ってまさしく現行犯だったんじゃないだろうな?だとしたら婆ちゃんが?
「わかりました。まあ、我々に任せてください…え?いやいや危害なんて加えませんよ。…信用ないですね、お約束します…はい、それでは」
おっさんは微かにため息をついて、通話を終了した。ひょっとすると、母さんは苦手なタイプなのかもしれない。
「しっかし…ほんとに母さんに名刺渡してたのか」
自称国防なんちゃらが、んなもん、ほいほい渡していいのかよ?危機管理とかどう考えてんだ。おっさんは俺の嫌味を軽く無視した。
「ところで、君の親に君が今いることを言わなかったのはなぜかわかるかい?」
「?」
「素直に話すんなら無事に家に戻してやるってことさ…反対に、この先君が海で泳いでいたとしてもこちらとの関係は誰も知らないわけだ」
「海ねー。背泳ぎが一番体力消耗しないんだって」
「背中があればな」
「…」
何この会話。いまさら恐怖に訴えようったって手遅れなんだよ。
しかし待てよ?おっさんは白い集団に心当たりがあるようだった。ここは白黒対立させて、それに紛れて『分裂の証拠』なり『戻せる手がかり』なり手に入れるのがいいよな?婆ちゃんも助けられるし。
母さん、いいタイミングで電話してきたな。ようし、大体の『言っていいライン』がまとまったわ。
「…分かった。俺が知ってる話、してやろうじゃん」
最近姿が見えない婆ちゃんの話、最近近所をかぎまわる白集団や盗難事件、違法駐車や不審なアンケート訪問など、怪しさを5割盛りで説明し、最後にその婆ちゃんの家から白い車が走り去ったこと付け足して、口を閉じた。
「……なるほど、それで全部、か?」
「他に何か?」
何か言いたげにこちらを見つめてくるおっさんに、俺も頑張って視線を合わせる。こういうのは逸らせたら負けだ。キツイけど、負けだ…。
部屋の中は5~6人がいるというのに、とても静かだった。
やがてチャイムの音が響き、黒部下の一人が応対に出て行った。
「ピザが届きました」
その声におっさんが(ようやく)目線を外し、口元に笑みを浮かべる。5分強も見つめあってたんじゃないか?そのストレスから解放されて、俺も愛想笑いをした。
「まあ、ご協力感謝するよ。木登りの時点で行ってほしかったがね。せっかくだ、食べていきなさい」
「ありがたくー」
勝った!
さて次はおっさん達だ。どう動くのか?ぜひ白集団のアジトに突撃していただきたいが。




