左の一日(1)
朝教室に入ったら、机が会議室のではなく、元と同じ机になっていた。昨日帰る前に右がやったんだろうか?久々に元の生活に戻ったようで嬉しい反面どこか複雑だ。
こうして親友と駄弁っていても何か足りない気がするのは、なんだかんだ言って『右』に慣れていたってことなんだろう。大体、俺が増えたぐらいで基本的な生活は変わってなかったもんな。見えないところで色々言われているんだろうけど、見えなきゃないも同じもんだし。
この状況がいつまで続くかわからないが、うまい解決方法はないもんかね。
それはそうと…何か言いたげに後ろをウロウロしている優等生君が気になる。
「……おはよう。何だよ」
気配だけで当たりをつけて振り返ると、ヤツは驚きと安心の混ざったような妙な表情をして身構えた。なんだよ、こっちが構えたいっつーの。
「あの、今日は君だけ?もしかして僕のせいで来なくなったのか?」
「うん?お前何かやったっけ?」
「いや、昨日の帰り、もう一人の重岡君を怒らせちゃったようだからさ…」
なんと、右はまた、優等生君とご帰宅する羽目になったらしい。アイツつくづくツイてないなぁ。
「え?え?何言ったんだ?」
柿崎が『面白い事件♪』という態度を隠そうともしないで、田中に先を促す。
「いや、…ただ哲学っぽい話をしたかっただけだったんだけど。自意識の連続性は自己の証明になりうるかっていう…」
「うっはー、そりゃ怒るわ。つまんねーもん。俺なら、もっとこう浮かれた感じの話がいいな、エアしりとりとか」
「何エアって」
田中が訝しげに尋ねる。俺もそんなの聞いたことがない…また柿崎の奴、適当なこと言い出したな。
「喋るんじゃなくて、ジェスチャーで続けてくのな。たとえばさ」
と言いながら、柿崎はこちらをチラリとみて、両手を頭に当てピョコピョコ動かした。
(ふーん『うさぎ』か、じゃあ『ギター』っと)
適当に弾く真似をしてやると、ヤツは少し考えて、前後に揺れ高くジャンプする
…?
アが付くもので…?ア…ア……ア?
(ワンモア・チャンス!)
片手で拝んで人差し指一本立てる。柿崎はにやりと笑うと、腰のあたりにヒネリを効かせて大きく前後に揺れ、今度は半回転ジャンプを繰り出した。
「?!ちょ、何それ、なんだそれ!」
「はははは、声出した。お前の負けー。スノボだよ、ス・ノ・ボ。簡単じゃん」
あーはいはい。言われてみりゃ足がちゃんとそうなってるわ。体横向きにしてくれりゃわかりやすいのに…て、待て。
「なんで『ス』?ギターだぞ俺やったの」
「え?むしろなんでネコからギターなんだ?」
あれ猫か!
白けた顔で一連の流れを見ていた田中が、ボソリと呟いた。
「……ソレ面白い?しかも『話』ですらないじゃないか」
「田中はノリ悪いなー、そんなだからお前は田中って言われるんだぞ」
「前からコイツ田中だし」
「知ってるし。ははは」
優等生君は呆れたのか、何も言わずに席に戻って行った。
お読みくださりありがとうございます。
ただの日常風景。
対外ストレスはほとんど「右」に集中したため、「左」は元の生活とあまり変わらない状態ですね。




