白いオッサン黒いオッサン(コン部)
「……で、早速人の部室に籠っているわけか」
丹野は蔑んだ目で俺を見た。
「自由に入ってもいいとは言ったが、住みついてもいいとは言ってねーんだが」
「すまん。でも住むわけじゃあ……」
「じゃ、その寝袋とカップ麺は何だ?ホームレス。相方と教室にいるなり、家で待機するなりすりゃいいじゃねーか」
いつも通り朝早くに登校して、教室の長机と会議室に置いてある「俺本来の机」を入替えた後、身を隠すためにコン部の部室へ潜り込んだ。
もはや家は『確実に』安全じゃないのだ。ツイッターなどで悪乗りしている奴の多い学校に潜むのはどうかと思うけど、他に居場所がないから仕方がない。
幸い、この部室は隠し部屋の様になっているし対外的にも知られていないから、白黒両方の組織が学校を監視してるとしても、わからないんじゃないか…。しばらく寝泊まりできるかもしれないし。
母さんや叔父さんには相当反対されたけど、ただ家に閉じこもっているのはごめんだ。
なーんて長ったらしい事情なんて、アイツからしてみれば図々しい事この上ないよなぁ。
丹野は背負っていた大きな荷物――形からするとギターケースだ――を床にドンと置いた。いつもこんなもの持って登下校していたのかコイツ。知らなかった。
「…ヘェ、やっぱやるんだな」
「だからギター部だっつってんべや、大ボケが!お前、今いる部屋の名前すら忘れてんのかよ?」
嫌味でもなんでもなくただ素直に声に出しただけだったけど、丹野は癇に障ったようだ。
「…よーし、分かった。お前ここに居座るんなら、ここの部員としていろ」
「なんでだよ」
「バカか?部員でもなんでもない奴がここで授業サボってんの教師に見つかったら、お前どころかこっちだって迷惑なんだよ。部室取り壊しになったらどーすんだボクネンジン」
「…部員なら許されるわけでもないじゃん」
「まだマシ。
そこの転がっているヤツ、好きなの使え。最後にチューニングしたのいつか忘れたけど、まーいいだろ、お前だし。この本見てコードぐらいは覚えるんだな」
「おい、いつのだこれ!」
差し出された本は、表紙もヘロッヘロだし写真も古臭いしなんか厚めだし…どう見ても昭和の代物だろ。どうせなら新しくて薄くて簡単そうなヤツよこせばいいのに。
けれども、丹野がこっちを睨んでいるので、おとなしく本を受け取った。奥付は――やっぱり昭和だ。年代からコン部創成期からあるのに違いない。
「…まぁ、一応練習しとく」
「で、黙ってた方がいいのか?お前来てるの」
俺はちょっと迷った。考えてもみなかった。
「内緒って訳じゃないけど…左は俺が家にいると思ってるからさ。いつも通り過ごしてもらって、帰ってから叔父さんに事情を聴いた方がいいと思う」
「ふーん、わかった。キャンプするなら火に気を付けろよ、ギターと本だけは死守しろ」
(おいおい、PCはいいのかよ?)
丹野はぶっきらぼうに戸を閉めて出て行った…これが押し入れじゃなかったらカッコいいシーンになった気がする。
さてと……
俺は愛想で手に取った本を元に戻し、PCの電源を入れた。何もただサボるつもりはない。
何通か知り合いにメールを送ってから、適当な地図サイトと気象情報サイトを開く。
まずは、俺が2人になった日の天候・風向きを調べる。
もし汚染物質が出たなら、それは風で流れたのに違いない。風上が分かれば『事故を起こした建物=アジト』の方角が絞れるだろう。見事な推理力!なんか俺、諜報員みたいじゃね?カッコいいー!
なんて思ったのもつかの間、早速、壁にぶち当たってしまった。
…過去の天気って大きい地域しかわかんないんだな。じゃ地域新聞サイトで当日の天気予報をチェックする…ておい、データーベース見るの金かかんの?!
あれ?俺の検索方法がヤバイのこれ?意外と面倒だな…。
俺は心の中の訪問リストに『図書館』と記し、気を取り直してもう一つのウィンドウを眺めた。
近所の地図…昨日叔父さんと話していたことを思い返す。あの時は駐車場に落ちた雷を原因として考えてた。だから、駐車場を囲む家々に同じ被害があった人間がいると仮定した訳だ。
でも、もう4日目だ。猫を除いて、2人いるだの誰々がおかしいだのまったく聞かない。俺と左の様に、人目につかないよう行動しているのならいいけれど(早朝登校したりな。それでも学内の噂にはなってる)、どちらかがどちらかを監禁したり、あるいはその家族が両方閉じ込めたりしていないだろうか?
何より、白黒組織がやってきた時、これ幸いと差し出す家があるのではないか?
それが一番やばいよな。『影響が出ている人間』の存在がばれたら、絶対近所中、家宅捜索かなんか入るだろ。今朝みたいに包丁でなんか追っ払えないぞ。奴らの目的もわからない以上、下手に存在を明かすのは止めた方がいい。
メールの返事がちらほら戻ってきた。俺は軽く内容を確認して、カバンの中から着替えを取り出して制服を脱ぐ。
図書館に行って新聞を調べよう。それから、何か記録機器が欲しいな…カメラとかICレコーダーとか。店に行って見繕って。
外出するのは危険ではあるが、うちの町内に入らなけりゃ大丈夫だろう。少なくとも白い方は駐車場近辺にへばり付いているようだから…そうだ、離れたところに背の高い松の木がある。そこから見張るっていうのも手じゃないだろうか?
とにかく、今日一日で何でもいいから掴んでやる。




