白いオッサン黒いオッサン(重岡家)
それは突然やってきた!!
真夜中。
俺はけたたましい物音に目を覚ました。
ベッドの周りには黒い物体が3つ…いやいや、部屋の電気がついていないんだから暗いのは当たり前で。しかし、そんな中でもこの縦長い影は黒すぎる。
なんだこれ?半分眠りかかった状態でじーっと物体の1つをながめていると、次第に人間の顔が浮かび上がってきて、一気に眠気が吹っ飛んだ。
「うわっ!!なんだあんたら!」
飛び起きようとした寸前に、布団の上から押さえつけられてあっという間にミノムシにされてしまった。無駄な抵抗を続ける俺を抑えているのが1人、部屋の中を何やら荒らしているのが1人…どうやら目的の物はなかったようで、入り口付近に偉そうに立っているリーダー(多分)に「いません」と首を振った。
「…なんだ?違うじゃないか」
リーダー(仮)は不機嫌そうに室内を見回した後、机の方へ歩み寄りながら部下に指示を出した。
「お前は他の部屋の奴と協力。お前はそのまま抑えとけ」
「ちょっと、なんなんだよ!あっ!ケータイ触んなっ勝手にみんなっ!ごらぁ!!」
久々に俺の手元に戻ってきたのに!
何もヤマシイ履歴なんかはないけどさ、彼女ならともかく(それも嫌だけど)なーんで黒いオッサンにチェック☆されねばならんのだ!くやしいがミノムシの身ではどうすることもできない。精々騒いでやろうと声を張り上げたら、押さえつけている男に頭を叩かれた。
…遠くの方では物音や怒鳴り声など中々賑やかなことになっているらしい。少しして、さきほど部屋を出て行った部下が新顔3人と一緒に戻ってきた。
(合わせて6人か…何、その人数。多すぎね?)
「特に変わったものはありません」「どこにもいません」
「ちっ、ガセか…引き上げるぞ」
「ちょっと待ちなさいよ…」
帰ろうとしていた男たちが立ち止まった。部屋の出口に母さんが勇ましく立ちふさがっている。その後ろの方で、叔父さんの頭がチラチラ見えた(ていうか、男が前に出ろって、こういう場合!)黒いオッサン方に起こされたのだろう、明らかに不機嫌な母さんが壁に手を伸ばし照明のスイッチを入れる。
うわっ、まぶしい。
「貴方達、深夜に、人の家で、好き勝手しておいて、お詫びの一つも言わずに帰れると思ってんの?さぁ、大人しくそこに座りなさい。さもないと」
…?!包丁持ってる!!
おいおいおい、闘うつもりか?!
男たちも身構えたが、次の瞬間、俺も含めギョッとして動きが固まった。
母さんが自分自身に刃を向けたからだ。
「アンタ達が私を刺したって言うから!雄一と太一にもそう証言させますからね!ほら、雄一、警察に電話。不法侵入だけでなく強盗致死罪でぶち込んでやる」
「奥さん、落ち着いて…」
「近寄るなっ!」
振り回した!!
ビュワンと空気を切り裂く音がし、母さんを取り押さえようとしていた黒服たちは一気に飛びずさった。その恐ろしい表情!『狂人に刃物』という言葉が頭をよぎる。昔の人すげぇな、ここまでピッタリくる場面があるなんて考えもしなかったわ。
寝起きが悪い母さんのことだ、予想外の事件に興奮したのも合わさって気が大きくなっているのだろう。下手に刺激したら俺の部屋が血の海へ変貌すること間違いない(ま、その前に取り押さえられると思うけど)
この黒服たちも面倒事は避けたいと見えて、隅っこに固まって片膝をついた。油断なく母さんと叔父さんも部屋に入ってきて出入口に陣取る。俺も起き上ってベットに座ろうかと思ったけど、誰も布団を取ってくれないので、せめて全体が見えるように体の位置を移動した。
しんとした空気の中、叔父さんが口火を切る。
「で、誰」
「我々は怪しいものではありません、国家情報防衛にかかわる組織の者で、調査に…」
「一般人の家に?」
「……」
「防衛関係の?」
「……」
「……」
「……」
「何か言えよ」
「もー、叔父さん、絶対嘘に決まってんじゃん。まともな組織の連中が、深夜3時にいきなり押し入ってきて、人のケータイ荒らすような真似すっか?」
そこまで言って、流石の俺も、この事態が思い当ることに気が付いた。
…まさか、俺の分裂問題に関わっている奴らじゃないだろうな…?いや、そうだろう。こんな事件が無関係に起こるわけないし。
「そうそう!不審者がこの辺うろうろしているの近所でも噂になってるんだから。ソレあんた達なんでしょ。雄一、洗濯ロープ持ってきて。太一は110番」
俺の『嘘』という言葉に反応したのだろう、母さんが再び包丁を構えて立ち膝になる。戦闘意欲は失われていないようだ。
「わかった、わかりましたよ」
黒服の中でもちょっと偉そうな奴が、観念したように片手をあげた。
「手違いだったのです。突然侵入して貴方方を驚かせたのは謝りますし事情もお話しします。ですから…まず包丁をおろしていただけませんか」
「話したいなら話せばいいんじゃない。」
母さんは柄を改めて握りなおして、そっけなく答えた。黒服リーダーはしばらく何か言いたげに包丁を見つめていたが、諦めた様子で口を開く。
「先日、この近くの施設である実験が行われたんですが…事故、がおきましてね。こちらに影響が出た人がいるとの情報を得て伺ったのですが、どうも間違いだったようです。どうもお宅様にはご迷惑を」
…事故?…影響?
「ふーん……まぁ家が無関係だからよかったけど、極悪人じゃないんですから、あんな風に強制捜査されたんじゃたまったもんじゃないわね」
「はぁ、すみません…あまり表ざたにしたくないもので」
闇討ちする方が騒ぎになると思うんだが。よほど緊急事態だったか、実験がヤバイものだったか…いずれにせよ、こちらにとって良いことではなさそうだ。情報収集すべく叔父さんが口を開いた。
「どういう実験なんです?」
「機密事項です」
そりゃいう訳ないよ。
けれど叔父さんは全く諦めずに質問をつづけていく。
「こういう事されたのうちだけですか?」
「機密事項です」
「どういう影響が?」
「機密事項です」
「隠されたら困りますよ。だって…」
叔父さんは一瞬言葉を切って、それから当たり障りのない表現を引き出した。
「この辺、何か危ないんでしょ?なら引越ししないと」
「ああ、それは大丈夫。汚染とかそういう心配はありませんので、過剰反応しないように願います。それより…先ほど、不審者がうろうろしていた、とおっしゃってましたが…?」
「気象関係でしょ、そう言ってましたから」
やや媚びたような男の質問を母さんはバッサリ切り捨て、手を前に出した。
「ま、なんにせよ事情は分かったとして…ほら」
「?」
「名刺、もらっとくから。連絡先ぐらいあるんでしょ?何か変わった事があったら連絡します。そのくらい協力してあげるから、もうこういうの止めてちょうだい」
こうして黒人間たちは帰って行った。
母さんは奴らを玄関まで見送った後、2度寝するわと言い残して寝室へ消えて行った。それにしても、日のまだ明けぬうちからドタバタされると一気に疲れがたまる。寝るにも中途半端な時間だし…(朝の4時!)
ようやく布団巻きから解放されて、ただ黙ってベットに座っていると、叔父さんが手のひら大の機械を持って現れ、部屋の隅々に向けた。
「何それ」
「んー、探知機。…盗聴機はついてない、か。とりあえず、この部屋はOKだ」
「そんな、大げさな」
「大げさじゃないぞ!左を他所に泊めといてよかった」
ああ、それは言える。とはいえ、大げさだよなーやっぱ。自分がヤバい立ち位置だったのを認めたくない心理、というやつかな。
「でもホラ、国だろ?もしかしたら保護とか、元に戻してくれたりとか…」
「はあぁ。太一は、アレだな。消防の方から来たオッサンから消火器買っちまうタイプだな。あの黒いのが国家関係だとして、家屋に浸入する様な特殊部隊が、お前の母さんごときの包丁にたじろぐはずないだろう?」
ムカッ
「じゃあ何なんだよ、さっきのは」
「謎の集団がもう一個増えたってとこか…白いのが知能派なら、黒いのは武闘派だな」
「して今度は黄色い穏健派とかも出てくんのか?いい加減にしろ」
いい迷惑だ、マジで。
反面、叔父さんは満足げな笑みを浮かべている(これが他人事の態度だっていうんだ!)
「でも大体分かったろ。
誰かが何かの実験やっていて、何かあって分裂させる光線なり物質なり出た、と。それに伝染性や浸蝕性はない、つまり、これから先、新しく太一みたいな奴が増える心配はない。今の時点でどれだけ仲間がいるかって話だけど…白黒は対立してるんだろうな、協力はしていないようだ」
「そりゃ 状 況 は分かったさ、けど、情報が濃くなっただけで何一つ事態は変わらないじゃないか。むしろ悪化してる」
白いのが高校に突撃することを予想して、今回、左と行動を別にしているのだ。なのに、自宅に、しかも全く知らん黒いニューフェイスまで現れたんじゃ、対策のしようがないじゃん。
「叔父さん、俺明日――ていうか今日だけど、家にいたらまずいんじゃない?左帰ってくるよな。もし今晩、今度は白いオッサン達が闇討ちしてきたら一巻の終わりだぞ」
「白集団が太一の情報を掴んでるとは思えない。いや、白黒両方とも『分裂者』の名前や顔もまだわかっていないんだ。高校ぐらいは制服でバレてるかもしれないけど。大体、わかってたら1人だろうが2人だろうが連れて行かれてるさ。
黒がここに来たのは、ネットの投稿に気付いて『汚染地域』に住む高校生の家を訪ねてみた、ってとこだろ。近所の学生も被害にあっているかもね」
「でも、時間の問題だろ?」
叔父さんが、ほとんど確証のない推論をベラベラ喋るのに嫌気がさして、俺は話を遮った。分析や推理も大事だが、いつまでも受け身ではだめだ。仲間を探すだの、自宅待機だの、悠長にやっている場合じゃない。
いい加減、動くべきだ。
「相手の目的をはっきりさせないと。対抗する手段を何かしら見つけないとな」
「ふうん、どうする気だ?」
組織vs個人じゃ大したことはできないと思っているのだろう。せっかくの俺の宣言もあまり気のない風に盗聴探知機をいじっている。駄目だ、このオッサンは。
「……思いつくことをするさ」




