表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すわんぷまん  作者: SAME
15/33

伝播が目ざめるとき(午後5)

 帰りのホームルームで静まり返っている廊下を、足音が響かないように気を付けながら俺たちは後者の西へと走った。

 校舎の西奥部分は部室が集まっている。そこの一番奥、突き当りに『コン部』の部室はあった…当然、俺も柿崎も見に行ったことはある(ミステリースポットだし)だけど、中に入るどころか、このボロボロの戸が開いた話すら聞いたことがない。


 「だってさー、8組の山根なんか3人がかりで失敗したとか言ってたし」

 「聞いた聞いた。体当たりしたんだろ?」「聞いた聞いた。体当たりしたんだろ?」


 「そーゆーお前らの様な野蛮な奴がいるから…」

 丹野はわざとらしく嘆いて、左隣にある『音楽部』の戸を開けた。そうして挨拶もなく(中には誰もいなかったけど)ツカツカ中へ入って行き何の迷いもなく押し入れの中へ姿を消す。


 「え?」「え?」


 「おい、ボサッとしないでさっさと来いや。ちゃんと戸は閉めろよ!」

 頭だけ出して奴が騒いだ。なんとなく納得がいかないまま俺達も押し入れへもぐりこむ。全員入ったのを確認すると、丹野が突き当りの壁をゆっくりスライドさせた。


 音楽部の押入れは、そのままコン部の押入れに繋がっていた。


 「へぇー、何かかっけーなー!」柿崎が歓声を上げる。


 畳の狭い和室に星一徹がひっくり返しそうなちゃぶ台が一つ。古臭い雑誌が詰まった本棚の横には、むき出しのギターが2~3本立てかけてあった(そんなに埃がかぶっていない。弾いたりしているんだろうか?)片隅に、明らかに場違いな最新式のPCが教室の机の上に置かれている。


 そして…うわ、出入口が木材で打ちつけられてある!こりゃ何をしようが開かないわ。ここに入るには隣の部室を経由する以外ないようだ。


 「…秘密基地か、ここ」「…秘密基地か、ここ」


 「ちなみに4~5年前ここで暮らしてた先輩いたらしいぜ」

 「マ、マジで?!」


 ニヤニヤしながら丹野がPCの電源を入れた。

 「んな訳ねーじゃん」

 「…丹野、お前、意外と面白いなー」

 「おもしろくねーよ!」「おもしろくねーよ!」


 どうやら使用できる状態になったようなので、俺らはフリーソフトを立ち上げた。

 消し忘れていた広告メールの一番上に叔父さんからのメッセージをみつける。柿崎も丹野も身を乗り出してきた。


『太一たちへ

 なるべく簡単に書く。

 裏の佐々木さんとこの猫が2匹になっている。

 完全に同じ動きはしていないようだが、おそらく太一と同じだと思う。

 そして近所をウロウロ嗅ぎまわる奴らが現れた。昼間に家に来たときは

 雷の調査と言っていたが非常に怪しいな。オカルト系のちょっとイッた

 団体なのかもしれない。


 こいつらが佐々木さんの猫を連れ去ろうとしていたんだ。

 俺の機転で逃がしたけど。

 どう考えても『分裂事件』とこの団体、

 何か関係があるように見えないか?


 「ようだ」「かも」とかで悪いんだが今の状況はこんな感じだ。

 近いうちに、佐々木さんや他の駐車場に面している家とも話をしないと

 いけないかもしれない。雷が原因だというなら、

 少なくとももう1組いるはず。

 太一だけなら自分たちのペースで元に戻る方法を探せるが

 猫とはいえ同じ状態のヤツが現れたんじゃ、そうのんきな事も

 言っていられないだろう。


 で、奴らの車がまだ止まっている。ここにお前たち2人が仲良く

 帰ってきちゃあ、捕まえてくれって言ってるのも同じだ。

 人体実験をされたいのなら一緒でもいいが、そうでないなら

 どっちかは友達に泊めてもらえ。  雄一』


 「ウゼー文だな」

 丹野が鼻で笑った。勝手に人のメールを読んどいて、この感想である。こいつだって、どちらかといえば叔父さんと同じ系統だろう。


 「じゃぁ、悪いけど柿崎、頼むわ」「じゃぁ、悪いけど柿崎、頼むわ」

 「それはいいけど…どっちが家に来んだ?」


 「え?俺」「え?俺」

 「いいよ、じゃあお前で」「いいよ、じゃあお前で」

 「だから!」「だから!」

 あー、そうだよ。昼間、こういう場合の決め方を考えなきゃって思っていたのに!


 やけくそでジャンケンと叫んで手を出してみる…やっぱり同じチョキだった…ほらな。ほら、あいこで…あいこで…あいこで……。


 「お前ら、毎日そんな感じなのかよ。バアさんの譲り合いか!」


 いつまでも続く「あいこ」に業を煮やしたのか、丹野が左を押し出した。

 「ほら、柿崎に近いこの重岡が行けばいいだろうが」


 「テメ、口出すな」「テメ、口出すな」

 「あぁ?人の親切になんか文句あんのか、バケコンビが」

 「ま、それでいいんじゃね?ジャンケンじゃ10年たってもケリつかなそーだし」

 怒鳴りあいになりかかったところを柿崎が制した。それから、ニマリを笑みを浮かべる


 「それよりさ丹野、また俺達部室に来てもいい?俺ン家、PC共用なんだよなー、放課後とかいじれたら最高じゃん。ここ他に部員いんの?」


 「いや、いるけど全然来ない。ここの入り方を秘密にするんだったら自由に入っていいぞ。そこのバケモン共も、どーせスマホとか2つも持ってねーんだろ?ま、3人仲良くありがたがって使うんだな」


 こいつイチイチ嫌味なんだよ!まぁ、しかし。なんか家も学校も不穏な空気になってきているようだから、学内で柿崎のメール以外にも通信手段があった方がいいんだろう。

 それに…丹野は口を開けば嫌なことばかり言うが、性悪でもないようだ。正直見直した。礼ぐらいは言うべきだろう。


 「ありがとな、好意に甘えるわ」「ありがとな、好意に甘えるわ」

 「俺も、甘えるわ」

 「おう」



 学校を出るのは別々の方がいい。

俺は一足先にコン部を出た。30分ぐらい間を開けて柿崎と左も下校する。丹野はまだ部室で過ごすようだ。なんていうか…最近はいつも横に「左」がいたから、一人で学校を歩くのもおかしな感じがする。まだそんなに日数は経っていないのに完全になれちゃったのか。あーあ。


 俺の下駄箱の前で、田中がボクネンと突っ立っていた。こちらに気づいて、軽く手を振ってくる。


 「何してんの、田中」

 「あ、重岡君。HR中いなかったのに、まだ靴あるなと思って。あれ?柿崎君は?もう一人の君は?」

 「たまには一人の時もあるさ」


 靴を履いて玄関を出ると、当り前のように優等生君が後をくっついてくる。多分、一緒に帰るつもりだったんだろうとは思っていたけど、一言ぐらいあってもいいだろうに。そんなこと一向に気にもしていない様子で、突然田中が話し出した。


 「で、この前君言ってたろ。もっと心の領域を考えろって。それでちょっと思ったんだよね」


 おいおい、前回の続きかよ。まったく反省してねぇコイツ。仕方ない、相槌ぐらいは入れるか。

 「何だ?」

 「君は誰なのかってことさ」



 「・・・?俺はオレだろ」


 「その俺って?『重岡太一』が分かれたんだから、『重岡太一』だって?」

 妙にうれしそうに優等生君が語りだした。その知的好奇心ありありの表情が癪に障る…コイツはいったい何を言いたいのか。


 「でも一人だったころの重岡君は、どんな用事であれ、僕とここまで話すことはなかっただろうな。丹野君とも理由はどうあれ、一緒に行動はしなかったはずだ」

 「んなことねーだろ」


 「あるって。他の人と話はしてたけどさ、つるんだりするのは柿崎君とだけだったろ」

 「そりゃアイツ幼馴染だからな、慣れてんの。他に友達居るし。つーか過去形止めろ、俺はまだ死んでねぇ」


 ついでにその口閉じろ。ニヤニヤしやがって。何決めつけてんだ、黙れ。


 「体が二つに分かれたか分裂したかよく分からないけど、なぜ『重岡君』まで2つになったって言える?心や性格が、元と全く同じように2つになったって言えるんだ?」


 黙れ、黙れ。


 「自分が変わっていないって思い込んでいるだけなんじゃないの?」




 「お前、俺とそんな仲良くないよな」


 腹の底から冷たい声が出た。芯からキレると意外と声は荒まないものだ。

田中がギョッとしたかのように立ち止まる。その目に宿っていた不愉快な光が消えた。


 「おい、ここ最近だろ、喋ったりしたのは。お前、俺をどんだけ知ってるワケ?いつの間に俺が偽物とか言える着眼点持っちゃってるわけですかねぇ?」


 持ってるわけねーよな?俺だってお前のことなんか頭いいぐらいしかしらねーし。いずれ仲良くなることもあるかもしれないな、ミジンコほどだが。でもそれは今じゃねーよな。ていうか、俺を人間としてみてないだろう、珍獣か?モルモットか?何なんだ?どいつもこいつも…


 「グダグダグダグダうっせーんだよ!暇つぶしの面白半分で寄ってくんな!!」


 田中は何か言おうと口を開きかけていたが、軽く無視してさっさと帰路についた。


 本当はもっと怒鳴り散らしたかった。けど俺の冷静な部分が、それは八つ当たりだとブレーキをかけている。少し忘れかけていたが、あのネット上のやりとりは気持ちいいものじゃない。こんなに周囲は無神経なんだから、多少ストレス発散したっていいじゃねーか…なんで気を遣ってんだ。あー自分にも腹が立つ!!!




 「おか~えり~☆」


 !!



 あ…危なかったー…ブレーキがアクセルに変わるとこだった


 玄関を開けたら叔父さんが出迎えてくれた…が、緊張感のカケラもないまったりとした登場が妙に癇に障り、必死で八つ当たりしたい欲求を押さえつける。

 落ち着け、ヘラヘラしているのもノー天気な顔もいつものことじゃないか。非常にムカつくけど。それにしても悩みなさそうだよなぁ、この人。それでも俺に思うところがあったのか、ちょっとだけ真面目な顔になった。


 「……何かあったのか?」

 俺はネットに写真が投稿されていたことや、書き込みでネタにされている事をざっと説明した…が、表情が硬い原因、田中の件は話す気も起きない。


 「ふぅん、なるほどね。あの駐車場の前に白いバン停まってたろ」

 「ん?ああ…」

 怒りのあまり、周囲を見る余裕なかったからなぁ。言われればあった気がする。

 「あれが不審車だ、ちなみに乗っている奴も白いんだなこれが。投稿者がどうとか言っていたから、ひょっとしてネットで太一のことに気付いたのかもしれない。多分、名前や住所はバレてないと思うけど…あいつらには気をつけろよ」


 「何をどう気をつけりゃいいんだ…」


 「とりあえず、2人そろって行動するのはマズイってことだな。明日はお前休んで、左が学校に行くようにしよう。で、明後日はお前が学校で左が自宅待機。柿崎君だっけ?電話しておこう」

 叔父さんはケータイを取り出し…って、勝手に人の親友の番号を登録してんなよ!まぁいいや。ツッコミ疲れた。


 今頃、左は柿崎の家に着いただろうか・・・メシでも食ってんのかな。



 ………。


 あいつが本物なのだろうか?


 いやいやいや、そんなわけないって。


 俺は最近のことから遡ってずーっと昔の記憶まであるんだ。幼稚園は自信ないけれど、小学校での同級生だって大体覚えているし…そうだ、1人だった頃の好きな音楽やゲームだって変ってないしって、ぐぎぎぎぎ…!!!


 考えれば考えるほどドツボにはまったような気がして、頭を大きく振った。


 記憶も好みも全部、俺の中だけの話。第3者には『俺』の確実な証明にはならない。


 これが外見そっくりさん、とか誰かの変装、とかだったら、声だの記憶だのDNAだの目立たない場所のホクロだのが『本物の証し』になるんだろう。

けど声も記憶も一緒で外見的にも(おそらく遺伝子的にも)一緒だったら、どこをどうすれば俺だってわかるんだ?


 つーか、まてやコラ。なんで お れ の自己存在が揺らいでんだよ!おかしいだろ!!



 田中のセリフが頭で反芻する。スマホで見たあいつらの嘲りが蘇る。丹野のバカにしたような笑い声、気味が悪いおっさん。何をどうすりゃいいのか、どうしたら満足なのか。


 いいようもないストレスが襲ってきて、反射的にソファーのクッションを分投げた。運悪く叔父さんにクリーンヒットするが、まったく気が晴れない。



 なんだってんだ、なんだってんだ!





※※※左日記※※※


 今日は色々あった。

誰だか知らんが、ネット上で俺たちの情報を流している奴がいる。これと別のヤツらにも誹謗中傷されたし、伝説のコン部の正体が分かり、近所の猫が2匹になって、周辺をかぎまわる変な奴が現れたようだ。そういう訳で、俺は柿崎の家に泊まることになった。

 叔父さんからの電話によると、明日は右は学校に来ないらしい。面倒なことになってきたようだが、ようやく俺は俺自身として過ごせるわけだ。久しぶりの開放感を楽しもう。これからスマブラ対戦して寝る。ゲームすんの久しぶりだなー。



ラブコメ諦めたとたんに女の子が出てこなくなったでござるの巻。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ